PSニュース No.35

     Polar Science  

 国立極地研究所では、過去20年に亘り南極および北極での観測・研究について、宙空圏、気水圏、地圏、隕石、生物圏の分野ごとにシンポジウムを開催し、その成果をそれぞれ年1冊の英文誌として刊行してきました。2007年7月よりこれらを1つにまとめ、総合学術出版社Elsevierと共同でPolar Scienceを創刊し、年4号発行しています。各論文は、Science Directに収録されます。Polar Scienceでは出版から24ヶ月のエンバーゴ期間後に、非購読者も論文を自由に利用できるオープン・アーカイブを行っています。


          ● 国際極年2007-2008年を契機とする国際誌

          ● 既刊の各分野英文誌をまとめて成果を発信

          ● Elsevierとの共同出版

          ● Impact Factor対象誌(Vol. 6 Issue 1より)(2014年IF:0.952)


最新号Vol. 10 Issue 2(2016年6月)には、以下の論文が掲載されています。


Net mass balance calculations for the Shirase Drainage Basin, east Antarctica, using the mass budget method
Kazuki Nakamura, Tsutomu Yamanokuchi, Koichiro Doi, Kazuo Shibuya
 東南極の白瀬流域における質量収支(NMB)を、積雪涵養量(SMB)と氷河による氷の排出量(IMD)を別個に推定して定量化した。SMBはRACMO2.1モデルを用いて推定し、地上測量による沿岸過大評価量を補正した。白瀬氷河の主流Aにおいて12.1 ± 1.5 Gt a-1であった。IMDの算出に当たり、接地線(GL)における標高を、BamberらによるDEMと比較・参照して決定した。GLにおける氷厚データは、GLでの標高と氷厚のフリーボード関係から推定したが、その時、実測による青氷領域の氷密度-深さ分布を参照してフィルン補正を施した。以上から、全IMDは14.0 ± 1.8 Gt a-1と推定され、半経験フィルン圧密モデルを用いても差は0.1〜0.2 Gt a-1であった。NMB = SMB - IMDは-1.9 Gt a-1と推定され、不確定性は2σで±3.3 Gt a-1である。このように不確定性は大きいものの、融解水の排出量を無視したことを考慮すれば、負のNMBになることは間違いないと考えられる。

Antibiotic resistance in Escherichia coli strains isolated from Antarctic bird feces, water from inside a wastewater treatment plant, and seawater samples collected in the Antarctic Treaty area
Virginia Rabbia, Helia Bello-Toledo, Sebastián Jiménez, Mario Quezada, Mariana Domínguez, Luis Vergara, Claudio Gómez-Fuentes, Nancy Calisto-Ulloa, Daniel González-Acuña, Juana López, Gerardo González-Rocha
 抗生物質耐性菌は地球規模の問題となっており、しばしば人間活動と関わっている。重要な糞便汚染指標菌である大腸菌を、南極でも人間活動の影響の強いキングジョージ島のFildes半島の海水、鳥の糞、基地の汚水処理施設内の水から単離し、分子タイピングにより遺伝的関係を決定し、数種の抗生物質に対する感受性が調べられた。海水と汚水処理施設からの株の間では遺伝的関連が無く、これらの株では、数種の抗生物質に対して耐性があった。対照的に鳥の糞からの株は、全ての抗生物質に対して耐性を持たなかった。これらの結果から、南極の鳥の糞から単離された大腸菌株では自然発生抗生物質耐性はまれで、海水の抗生物質耐性菌株はFildes半島の汚水処理施設からの処理排水と関わっていることが示唆された。  

Observations of vertical tidal motions of a floating iceberg in front of Shirase Glacier, East Antarctica, using a geodetic-mode GPS buoy
Yuichi Aoyama, Tae-Hee Kim, Koichiro Doi, Hideaki Hayakawa, Toshihiro Higashi, Shingo Ohsono, Kazuo Shibuya
 白瀬氷河カービングフロント付近の氷山上に測位用2周波GPS受信機を設置し、GPSブイとして活用した。その30秒毎の3次元位置を、精度4-5 cmで、約25日間測定した。平滑化した1時間毎の上下成分(0.5 cm程度の不確定性を持つ)は海洋潮汐による周期変動を示し、海洋潮汐解析で得られた主要分潮の振幅は、FES2004やTPXO-8 Atlas海洋潮汐モデルの88%-93%(O1分潮)や85%-88%(M2分潮)の値を持つ。氷山表面の沈降率とフィルン圧密モデルから、氷山底面の融解速度、0.6 m/dayが推定された。このように氷山を活用したGPSブイは、カービングフロント付近の氷・海洋ダイナミクスを明らかにするのに役立つ。

Ice berg cracking events as identified from underwater ambient noise measurements in the shallow waters of Ny-Alesund, Arctic
M. Ashokan, G. Latha, A. Thirunavukkarasu, G. Raguraman, R. Venkatesan
 この論文では、夏期間の北極域 Kongsfjordenフィヨルドにおける浅水中の周囲雑音の初期解析から得られた、氷山の破砕ノイズの結果を紹介する。北半球の夏期間は氷床の融解速度が大きく、また氷山が海中を可動しやすい。2015年7月19日に北極海に面するKongsfjordenフィヨルドで、海深50 mの場所の海中5 m深で周囲雑音が取得された。熱膨張により発達した海氷表面の伸張クラックにより、観測場所の近傍で氷山のカービングと浮き沈みが発生した。スペクトル解析により、氷山のカービングノイズは100〜500 Hzに、また浮き沈みによるノイズは200〜400 Hzの周波数帯域に、それぞれ分布することが分かった。

Stretching out the Australasian microtektite strewn field in Victoria Land Transantarctic Mountains
Luigi Folco, Massimo D'Orazio, Maurizio Gemelli, Pierre Rochette
 南極横断山脈山頂付近で新しく見つかった微テクタイトの岩石学的特徴および元素組成から、ビクトリアランドにおけるオーストラリア微テクタイトの局所的分布についての報告を行った。低緯度の深海底から採取されたオーストラリア微テクタイトの元素組成との比較から、衝突物の痕跡が見つかったこと、また、南極横断山脈産の微テクタイトは、高温による影響をうけたことを示した。弾道計算によると、仮想的な衝突地点であるインドシナから、非常に離れている南極横断山脈へ(〜11,000 km)、比較的低角で効率的に飛ばされたと考えられる。ビクトリアランドにおける氷床上のオーストラリア微テクタイトの産状は、過去100万年において、東南極の氷床が極めて安定であったことを示す。これは、隣接する裸氷帯における隕石集積と調和的である。

Response of larch root development to annual changes of water conditions in eastern Siberia
Chisato Takenaka, Mie Miyahara, Takeshi Ohta, Trofim C. Maximov
 永久凍土地帯の東シベリアでは、近年の気候変動の影響が現れており、主要樹種であるカラマツは、土壌水分変動に曝されている。本研究の目的は、カラマツ成木の根が土壌水分変動にどのように応答するかを明らかにすることである。現地のカラマツ林内で、その林床表面をビニールシートで覆うことにより、人為的に土壌水分を変化させ、カラマツの根をルートウィンドウにより観察した。自然条件下では、2004年は乾燥、2005年は湿潤、2006年は乾燥状態であったのに対し、シート処理プロットでは湿潤に保たれていた。シート処理プロットでは、垂直方向の根が減少することで湿潤な環境に適応していた。自然条件下では、湿潤年の2005年には垂直方向に伸長したのに対し、乾燥年の2006年には垂直方向には伸びなかった。これらの結果から、カラマツの根は深さ分布を変えることによって土壌水分状態に適応しており、その効果は次年度にも起こることが示唆された。

Growth of an Inshore Antarctic fish, Trematomus newnesi (Nototheniidae), off Adelie Land
Kélig Mahé, Romain Elleboode, Christophe Loots, Philippe Koubbi
 2003から2009年にかけてアデリーランド沿岸で採集したハゲギス289個体(雌122個体・雄132個体・未成熟35個体)の年齢・成長を解析した。雌は全長13.5〜25cm・体重19.7〜174g,雄は全長12〜20.9cm・体重24.1〜144.1gで,全長と体重の関係には,有意な雌雄差は認められなかった。耳石の解析より,年齢は3〜14歳と推定された。ベルタランフィ成長式より極限体長と極限体重は,それぞれメスでは26.6 cm と200.6 g,オスでは24.5 cm と147.0 gであった。成長に関する指数に有意な雌雄差がなかったが,本種で知られている異型間での差異については否定できない。

Gray whale sightings in the Canadian Beaufort Sea, September 2014
Yuka Iwahara, Amane Fujiwara, Keizo Ito, Kazushi Miyashita, Yoko Mitani
 コククジラEschrichtius robustus は北太平洋やベーリング海、チャクチ海の生産性の高い浅海域や河口に分布しており、毎年春になると高緯度海域へ摂餌のために北上回遊する。ボーフォート海東部のカナダ沿岸海域では本種の発見は非常に珍しいが、2014年9月に3頭のコククジラが発見された。その内の1頭の発見位置付近では、海底でベントスを摂餌した証拠である泥の巻き上がりが確認され、本種がこの海域を摂餌海域として利用していることが考えられた。ボーフォート海西部のアラスカ沿岸海域では、1979年から継続的に広域の海棲哺乳類の分布調査が行われてきたが、今回の発見海域であるボーフォート海東部のカナダ沿岸海域では分布調査がほとんど行われていないため、本報告のような偶発的な発見の記録が非常に重要である。


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Polar Scienceは、広く13分野に亘って極地に関する研究成果の投稿を受け付けます。

    ・ Space and upper atmosphere physics
    ・ Atmospheric science/Climatology
    ・ Glaciology
    ・ Oceanography/Sea ice studies
    ・ Geology/Petrology
    ・ Solid earth geophysics/Seismology
    ・ Marine earth science
    ・ Geomorphology/Cenozoic-Quaternary geology
    ・ Meteoritics
    ・ Terrestrial biology
    ・ Marine biology
    ・ Animal ecology
    ・ Environment


   
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