PSニュース No.38

     Polar Science  

 国立極地研究所では、過去20年に亘り南極および北極での観測・研究について、宙空圏、気水圏、地圏、隕石、生物圏の分野ごとにシンポジウムを開催し、その成果をそれぞれ年1冊の英文誌として刊行してきました。2007年7月よりこれらを1つにまとめ、総合学術出版社Elsevierと共同でPolar Scienceを創刊し、年4号発行しています。各論文は、Science Directに収録されます。Polar Scienceでは出版から24ヶ月のエンバーゴ期間後に、非購読者も論文を自由に利用できるオープン・アーカイブを行っています。


          ● 国際極年2007-2008年を契機とする国際誌

          ● 既刊の各分野英文誌をまとめて成果を発信

          ● Elsevierとの共同出版

          ● Impact Factor対象誌(Vol. 6 Issue 1より)(2015年IF:1.157)


最新号Vol. 11(2017年3月)では、以下の論文を掲載しています。

―― Full Length Articles ――


Seasonal and long term evolution of oceanographic conditions based on year-around observation in Kongsfjorden, Arctic Ocean
K.K. Noufal, S. Najeem, G. Latha, R. Venkatesan
 2014〜2015年の間、北極圏コングスフィヨルドで取得された通年の観測データから、海洋物理環境の季節変化を調べた。水温・塩分変化の特徴は先行研究の結果と良く合い、また流速パターンとして表層は西向き、底層は東向きを示した。海水の成層・混合過程を理解するために算出した密度および浮力振動数は、夏季の成層と冬季の混合現象を明瞭に説明し、水温のスペクトル解析からは成層構造の季節変化が解釈できる。1969年以降の水温の年々変化と比較した結果、昇温傾向が見られ、気候変化の影響が表れていると考えられる。本研究は長期モニタリングのみならず、季節変化を理解する上では同フィヨルドの通年観測も必要であることを示した。

Morpho-physiological response of Colobanthus quitensis and Juncus bufonius under different simulations of climate change
Eduardo Fuentes-Lillo, Marely Cuba-Díaz, Sergio Rifo
 地球温暖化は南極周辺の温度を上昇させ、永久凍土の融解と降水量の増加をもたらしている。この気候変動のシナリオは海洋性南極における自生あるいは帰化生物の拡大をもたらし成長のための好条件となることを示している。著者らは温度増加と水分増加の組み合わせは帰化植物であるColobanthus quitensis(ナンキョクミドリナデシコ)とJuncus bufonius(ヒメコウガイゼキショウ)の生理生態に好適な影響を与えるという仮説を立てている。この仮説を実証するために、温度(4℃、15℃、20℃)及び水分(-H2O: 野外の水環境、+H2O: 野外より40%増大)を組み合わせた環境で両種の形態・生理学的変化について評価を試みた。結果的に、温度と水分の増加は両種のクロロフィル量、Fv/Fm、花被の数、植物の高さを増加させた。両種を別々に評価するとColobanthusの成長と発達に対する最も決定的な気象要因は水分であり、Juncusでは温度であった。また、温度と水分のシミュレーションによるとJuncusColobanthusよりもより高い成長率を示した。

Quantitative ecological risk assessment of inhabitants exposed to polycyclic aromatic hydrocarbons in terrestrial soils of King George Island, Antarctica
S. Pongpiachan, M. Hattayanone, O. Pinyakong, V. Viyakarn, S.A. Chavanich, C. Bo, C. Khumsup, I. Kittikoon, P. Hirunyatrakul
 本研究は、南極キングジョージ島の土壌(King George Terrestrial Soils, KGS)における多環芳香族炭化水素(polycyclic aromatic hydrocarbons, PAHs)の人への暴露について、量的な生態学的リスク評価を行うことを目的とした。KGSで検出された平均PAH濃度は、世界の海洋堆積物と世界の土壌よりかなり低く、南極大陸は世界で最も始原的な状態が保たれた大陸のひとつであるという事実を浮き彫りにした。発がん性が懸念される12種のPAHsの総濃度は、KGSでは他と比べて極めて低い値であった。偶発的な摂取と皮膚接触が人の健康に悪影響を及ぼす2つの主要な暴露経路であると仮定し、PAHsの環境暴露によるがんと非がんのリスクを米国環境保護庁の定める基準により慎重に評価したところ、KGSにおけるPAH濃度のがんリスクレベルは、他よりはるかに低かった。2012年2月25日に起きたコマンダンテ・フェラス南極基地の火災にもかかわらず、PAHsの環境暴露によるがんと非がんのリスクは共に「許容レベル」であった。

―― Research Notes ――

Recent variability in the Atlantic water intrusion and water masses in Kongsfjorden, an Arctic fjord
Divya David T, Krishnan K.P.
 北極圏コングスフィヨルドにおける水塊分布や大西洋起源の海水流入の特徴について、2000〜2013年の年々変化が海洋観測データをもとに調べられた。解析した期間においては、大西洋水(AW)がフィヨルド内へ早期に流入していることが観測された。夏季に中層で昇温していることは、AWの水温が年間最高値となる9月に、2011年以降上昇していることからも明らかである。フィヨルド中層へのAWの流入を補償する表層流と夏季に強くなる南東風によって、フィヨルドからは表層で正味の淡水流出が生じている。これによってフィヨルド内の2013年の低塩分層が2011年や2012年のそれらと比べて減少した。

Lithostratigraphy and paleoceanography in the Chukchi Rise of the western Arctic Ocean since the last glacial period
Kwangkyu Park, Ken'ichi Ohkushi, Hyen Goo Cho, Boo-Keun Khim
 本研究では研究船「みらい」のMR09-03航海の際に、西部北極海のチュクチライズから採取したコア試料について古海洋学的研究を行った。コアは、3つの岩相ユニットから成る。ユニットIは完新世の褐色砂質泥からなる。ユニットIIは融氷期の漂流岩屑(IRD)層からなる。ユニットIIIはIRD層を挟在する氷期の灰色泥である。各ユニットの堆積年代の決定は、放射性炭素年代測定とともに年代既知の既存コアの地球化学的特徴とIRD層との対比によってなされた。岩相ユニットはそれぞれ異なる古海洋環境を示す。ユニットIII:氷期の低基礎生産、ユニットII:融氷期の高い陸源砕屑物の寄与、ユニットI:完新世後期の珪藻生産性の増大。IRD等の分析から、堆積物は北部北アメリカから供給され、ボーフォートジャイアによって輸送されたと推定した。

From supernova to Solar System: Few years only; first Solar System components apatite and spinel determined
Matthias H.A. Jungck, Franz R. Niederer
 我々は低温の星間ダストとII型超新星爆発で放出されたガスとが相互作用した後の、太陽系進化の最初期のデータを示す。我々はオルゲーユCIコンドライトから超新星に由来する希ガスやリンを含む1.4パーミルの物質の分離に成功した。我々は密度勾配を利用した遠心分離および段階加熱による希ガス分析によってこのような物質を分離した。プレソーラー粒子を分離する他の方法とは異なり、我々の方法ではほとんど物質は失われず、破壊されやすい物質も保持される。我々は非常に特異な希ガスを含むグラファイト、アパタイト、およびスピネルを発見した。38Ar/36Ar比が0.35という特異なアルゴンを含むアパタイトの報告はこれが初めてである。そのような組成をもつアルゴンは太陽の20倍の質量を持つII型超新星の炭素・酸素・ネオン燃焼核において合成される。同じ試料に含まれる22Naの壊変に由来する純粋なNe-E成分から、この相互作用の時間スケールは最長でわずか2,3年に制約される。

Plankton assembly in an ultra-oligotrophic Antarctic lake over the summer transition from the ice-cover to ice-free period: A size spectra approach
Carlos Rochera, Antonio Quesada, Manuel Toro, Eugenio Rico, Antonio Camacho
 季節的に結氷する海洋性南極のリビングストン島Limnopolar湖において、プランクトン群集構造と機能が調べられた。湖面が雪と氷に覆われ薄暗い状態では、深層では独立栄養性のピコプランクトン、特にピコシアノバクテリアが優占していた。融氷期から盛夏にかけては湖底近くに浮遊性バクテリアとウイルス様顆粒がともに多く、対照的にサイズが大きく被食されにくい植物プランクトンは、湖氷の融解開始時に優占していた。プランクトンのサイズスペクトルは連続型のパレート分布を示し、特に深層での一月中旬までのサイズスペクトルの傾斜は緩やかで、より効率的な資源利用が行われていることが考えられる。これらのことからこの湖の微生物食物網は,ある時期には主にカイアシ類へと送り込まれることになり、厳しい環境下でも栄養段階間の相互作用が起こっていることを示す。気候的制約を軽減させ、生物間相互作用を強化するであろう気候温暖化を考える上で、興味深い結果である。

The morphology of peat bog surfaces on Hermansenøya, NW Svalbard
Tomasz Jaworski
 スバールバル諸島北西部のヘルマンセノヤ島において、泥炭湿地の地表面形態に関する調査を行った。島に分布する6つの泥炭湿地では、凍上現象やサーモカルスト、融雪水による侵食、風成作用などで様々な微地形が発達している。それらは、地中氷の成長が関与した上昇型、サーモカルストが関与した退化型、融雪流が関与した熱侵食型に分けられる。最も古い微地形は、氷核を持つ泥炭マウンドとアイスウェッジポリゴンで、約3000〜2500年前の寒冷気候期に形成されたと推定される。サーモカルスト型マウンドの形成年代は新しく、小氷期以降の温暖期(例えば1920年代)頃と考えられる。融雪流の流路は現在も侵食が進行しており、微地形形成が進んでいる。

Evaluating the relationship between wildfire extent and nitrogen dry deposition in a boreal forest in interior Alaska
Hirohiko Nagano, Hiroki Iwata
 アラスカの森林火災は当地北方林における大気からの窒素沈着に対して重要な役割を果たしている可能性がある。これを検証するため、本研究では、アラスカ内陸部のデナリ国立公園内にあるCASTNET観測所で測定された1999から2013年までの年間窒素乾性沈着量に対して、森林火災面積や大気振動、降水量などを説明変数とする重回帰分析を行った。検討した説明変数のうち、観測所から100 km以上離れた場所で発生したアラスカの年間火災面積(BAAK)が沈着量の年々変動に最も大きく寄与していた(15 ± 14%)。さらに得られた回帰式を用いて過去64年分の窒素乾性沈着量を再現したところ、火災面積の増加により2000年代の沈着量が最大であったことが明らかになった。


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    ・ Space and upper atmosphere physics
    ・ Atmospheric science/Climatology
    ・ Glaciology
    ・ Oceanography/Sea ice studies
    ・ Geology/Petrology
    ・ Solid earth geophysics/Seismology
    ・ Marine earth science
    ・ Geomorphology/Cenozoic-Quaternary geology
    ・ Meteoritics
    ・ Terrestrial biology
    ・ Marine biology
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    ・ Environment


   
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