PSニュース No.28

     Polar Science  

 国立極地研究所では、過去20年に亘り南極および北極での観測・研究について、宙空圏、気水圏、地圏、隕石、生物圏の分野ごとにシンポジウムを開催し、その成果をそれぞれ年1冊の英文誌として刊行してきました。2007年7月よりこれらを1つにまとめ、総合学術出版社Elsevierと共同でPolar Scienceを創刊し、年4号発行します。各論文には、IPYのロゴマークが入り、Science Directに収録されます。


          ● 国際極年2007-2008年を契機とする国際誌

          ● 既刊の各分野英文誌をまとめて成果を発信

          ● Elsevierとの共同出版


Vol.8(3) には、以下の論文が掲載されています。


Continuous measurement of CO2 flux through the snowpack in a dwarf bamboo ecosystem on Rishiri Island, Hokkaido, Japan
Chunmao Zhu, Momoko Nakayama, Hisayuki Yoshikawa Inoue
 ササが優先している北海道利尻島(日本の北東部)の観測点で、冬期に積雪を通じて放出されるCO2フラックスの動態とその支配要因を研究するため、積雪内のCO2濃度を自動的に測定するシステムを設置した。積雪内のCO2濃度は、地表面から積雪表面までの五つの高さで計測した。ガス拡散法を用いて、積雪期(12月〜4月)の平均的な見かけの土壌CO2フラックスは0.26 μmol m-2 s-1であると評価された。CO2フラックスは、積雪期の中ごろ一時的に増加したが、その後は明確な傾向を示さなかった。冬の終わりの融雪イベントは、見かけ上のCO2フラックスの急激な減少を示した。また、みかけの土壌 CO2フラックスは気温と正の直線関係を示した。風ポンピングの影響を取り除くことにより、見かけのフラックスよりも54%大きい、実際の土壌CO2フラックス(0.41 μmol m-2 s-1)が推定された。この研究は、北東アジア域のササが主要な要素である生態系からの、冬季積雪期の炭素排出に関する新たな制約を提供している。

Heat flux calculations for Mackenzie and Yukon Rivers
Daqing Yang, Philip Marsh, Shaoqing Ge
 ユーコン川とマッケンジー川の流出量と水温のデータを基に、両河川の類似点と相違点を分析した。両河川では冬に小流量、その後融雪のために6月に極大を示し、夏は大流量を示す点で類似している。しかし、マッケンジー川は秋から冬にかけて大きな基底流量を維持し、また降水量も多いので、流出量はユーコン川よりも50%大きい。両河川ともに真夏に水温が年間で最高となり、大量の熱を極域の海洋へと輸送する。ユーコン川の流出量はマッケンジー川よりも小さく、そのためユーコン川の熱フラックスはマッケンジー川のそれより10〜60%小さい。以上のような結果は、大スケールの気候や海洋のモデル開発やその検証、それから北方域における気候や水文学的な変化についての研究に役立つだろう。

Investigation of Arctic and Antarctic spatial and depth patterns of sea water in CTD profiles using chemometric data analysis
Ewelina Kotwa, Silvia Lacorte, Carlos Duarte, Roma Tauler
 2007年7月に北極航海、2009年2月に南極航海を実施して、CTD(電気伝導度、水温、深度)センサーを用い、計174か所で測定を行った。そしてPCA、PARAFAC、PLS、N-PLS手法などを用いてデータの空間分布、校正値の統計比較を行った。MATLABを用いて場所を同定し、可視化して判ったことは、(1) PCAよりPARAFACによる結果表示の方が、解釈が容易、(2) 3階層データに2階層モデルを適用すると、データの共分散構造が平滑化され、情報が失われる、(3) 北極海と南極海の違いは主として水サンプルの物理―化学的性質に関するPC1成分に現れる、(4) 特に重要なのは、N階PLS回帰モデルにおいて3層のデータ構造を適用すると、測定物理量から蛍光量を推定できる、ことである。

The effects of parent-body hydrothermal heating on amino acid abundances in CI-like chondrites
Aaron S. Burton, Sarah Grunsfeld, Jamie E. Elsila, Daniel P. Glavin, Jason P. Dworkin
 コンドライト隕石に含まれるアミノ酸含有量および光学異性体の組成を、液体クロマトグラフィーおよび飛行時間型質量分析計により測定した。非南極コンドライトIvunaとOrgueilは水質変質の影響のみを受けているが、南極隕石、Yamato-86029および980115は水質変質作用と母天体加熱の影響を受けている。これらの南極隕石には、地球起源のアミノ酸しか確認できなかった。熱変成作用を受けた隕石にも、固有のアミノ酸が含まれていることから、加熱だけでは、アミノ酸が含まれていないことは説明できない。母天体での加熱と水質変質の両方が、隕石中のアミノ酸欠乏の原因になると考えられる。

The sediment properties of glacial diamicts from the Jutulsessen area of Gjelsvikfjella, East Antarctica: A reflection of source materials and regional climate
Prakash K. Shrivastava, Amit Dharwadkar, Rajesh Asthana, Sandip K. Roy, Ashit K. Swain, M. Javed Beg
 本論文では、東南極、ドロンイングモードランド、イエルスビクフィエレのユツルセッセン地域におけるダイアミクトの形成に、氷河作用だけでなく、局所的な融解水や風の作用が影響していることを示す。これらの氷河堆積物は、淘汰が悪く、平均粒径値にばらつきがある特徴をもつ。また、局所的な融解水がシルトや粘土画分を除去することで、相対的に粗粒な堆積物が増大している。調査地域から採取された試料の粘土鉱物のX線回折パターンは、いずれも非常に類似した特徴を示す。黒雲母は、緑泥石やカリ長石とともに、粘土鉱物中で卓越する。イライトや少量のスメクタイトの存在は、寒冷乾燥環境下のために化学的風化が制限されていることを示す。アウトウオッシュから採取した試料は、混合層粘土鉱物を含む。このことは、局所的な融解水の影響や黒雲母の結晶構造を変化させる化学的風化が制限されていることを示唆する。走査電子顕微鏡による代表的な石英粒子の表面微細構造の分析は、氷河作用と融氷水の作用が卓越することを示唆する。また、堆積物中の全有機炭素の低さは、この地域における生物活動の低さを示している。

Seasonal variability of phytoplankton biomass and composition in the major water masses of the Indian Ocean sector of the Southern Ocean
Takahiro Iida, Tsuneo Odate
 南極海における植物プランクトンの長期的変動は、生態系や地球生物化学過程を明らかにする上で重要である。我々の最終的な目標は、南極海における植物プランクトン群集の10年スケール変動を評価することである。しかしながら、植物プランクトンデータには季節変動成分が含まれている。そこで、我々は本研究において南極海における植物プランクトンバイオマスと群集組成の季節変動を評価した。2011年から2013年の夏季、南極海東経110°ラインにおいて、複数の船を用いて、異なる季節の植物プランクトンバイオマスと群集組成を調べた。クロロフィルa濃度は亜南極域(40-50°S)では0.3-0.5 mg m-3、極前線域(50-60°S)では0.4-0.6 mg m-3であり、ハプト藻類が優占していた。南極発散域(60-65°S)におけるクロロフィルa濃度は0.6-0.8 mg m-3であり、ケイ藻類が優占していた。東経110°ライン上におけるクロロフィルa濃度と植物プランクトン群集組成は、異なる季節においても同じ緯度帯ではほぼ同一であり、季節変動は小さかった。すなわち、南極海東経110°ライン付近は、長期的な気候変動による海洋植物プランクトンへの影響を評価する上で理想的なモニタリング海域であることを示している。

Egg production rates of two common copepods in the Barents Sea in summer
Vladimir G. Dvoretsky, Alexander G. Dvoretsky
 小型カイアシ類は、北極海の食物連鎖において、一次生産者と高次捕食者を結ぶ重要な役割を果たしている。本研究では、夏季バレンツ海南部のDalnezelenetskaya Bayで普遍的に出現する2種のカイアシ類Acartia longiremisおよびTemora longicornisを用いて、実験条件下における雌1個体当たりの産卵速度(EP)および単位体重当たりの産卵速度(SEP)を見積もった。水温5-10℃におけるEP およびSEPは,A. longiremisではそれぞれ4.7±0.4 eggs female-1 day-1 、0.025±0.002 day-1、 T. longicornis ではそれぞれ 13.1±0.9 eggs female-1 day-1 and 0.075±0.006 day-1であった。10℃でのEPとSEPは、両種ともに5℃でのそれらより有意に高かった。平均卵径は,それぞれの種で前体部長(PL)と有為な正の相関を示した。一方、T. longicornis のSEPは、PLと負の相関を示した。本研究で得られたEPとSEPの値は,温帯海域に生息する他のAcartia属やTemora属で報告されている値と同程度であった。以上のことから,バレンツ海に生息するA. longiremisおよびT. longicornisの2種のカイアシ類の卵生産は,餌濃度よりもむしろ水温によって支配されていることが示唆された。

Variation of dimethylsulfide mixing ratio over the Southern Ocean from 36°S to 70°S
Seizi Koga, Daiki Nomura, Makoto Wada
 2009年12月から2010年3月まで、南大洋の開水域と海氷域における大気中の硫化ジメチル(DMS)濃度を砕氷艦「しらせ」に設置した陽子移動反応質量分析計により観測した。海氷域でのDMS濃度は、開水域と比較して非常に低濃度であったが、砕氷航行中にだけ急激な濃度上昇が観測された。これは、砕氷によって生じた海氷の隙間から、大量のDMSが大気に放出されたことを示している。「しらせ」が昭和基地沖に接岸している間、DMSは不検出であった。この時期、昭和基地がある東オングル島の周辺海域は多年氷に完全に覆われていた。海氷は海洋から大気へのDMS放出を妨げるのであろう。また、開水域上のDMS濃度は、海水中のクロロフィルa濃度や海上の風速の変動とは無関係であった。


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