PSニュース No.41

     Polar Science  

 国立極地研究所では、過去20年に亘り南極および北極での観測・研究について、宙空圏、気水圏、地圏、隕石、生物圏の分野ごとにシンポジウムを開催し、その成果をそれぞれ年1冊の英文誌として刊行してきました。2007年7月よりこれらを1つにまとめ、総合学術出版社Elsevierと共同でPolar Scienceを創刊し、年4号発行しています。各論文は、Science Directに収録されます。Polar Scienceでは出版から24ヶ月のエンバーゴ期間後に、非購読者も論文を自由に利用できるオープン・アーカイブを行っています。


          ● 国際極年2007-2008年を契機とする国際誌

          ● 既刊の各分野英文誌をまとめて成果を発信

          ● Elsevierとの共同出版

          ● Impact Factor対象誌(Vol. 6 Issue 1より) (2016年IF:1.118)


最新号Volume 14(2017年12月)では、以下の論文を掲載しています。

――Full Length Articles――


Multi-wavelength and multi-scale aurora observations at the Chinese Zhongshan Station in Antarctica
Ze-Jun Hu, Fang He, Jian-Jun Liu, De-Hong Huang, De-Sheng Han, Hong-Qiao Hu, Bei-Chen Zhang, Hui-Gen Yang, Zhuo-Tian Chen, Bin Li, Xiang-Cai Chen
 中国の南極中山基地は、カスプ域や昼間側午後側のオーロラ、夜側オーロラオーバルの高緯度側境界などを観測するのに適した、地理的、地磁気座標的にユニークな場所に位置している。2010年以来、多波長全天イメージャ、異なる視野のイメージャ群、分光イメージャ、電波によるイメージャなどからなる、ユニークで先端的かつ総合的なオーロラ観測システムが中山基地に設置されてきた。このシステムは、100 kmから10 mまでの空間スケールのオーロラの形態や、400 nmから700 nmまでのオーロラの発光輝線、オーロラの電波周波数特性などを観測・記録できる。このシステムにより、これまで、人工衛星搭載の紫外線イメージャで観測されてきている"ブライトスポット"と呼ばれる現象や、惑星間空間衝撃波到来によって引き起こされる昼間側の"ショックオーロラ"や電離圏対流変化、リオメータの静穏時変化(QDC)を導出する手法の開発、などの研究が行われてきている。これらの研究により、太陽風−磁気圏−電離圏相互作用過程に対する理解が深まってきている。

Can preferred atmospheric circulation patterns over the North-Atlantic-Eurasian region be associated with arctic sea ice loss?
Berit Crasemann, Dorthe Handorf, Ralf Jaiser, Klaus Dethloff, Tetsu Nakamura, Jinro Ukita, Koji Yamazaki
 近年の北極海氷減少と北極温暖化増幅が12月から3月までの冬季に卓越する主要な大気循環パターンの出現頻度(大気循環レジーム)の変化と関係しているかを調べた。大気循環レジームは再解析データおよび大気大循環モデル出力の海面気圧に対するクラスター分析により得られた。北極海で少氷、多氷の下部境界条件を課した二つのシミュレーション結果の差から、海氷のみの変化に起因する大気循環レジームの変化を評価する。再解析データでは少氷年の12、1月にスカンジナビアブロッキングレジーム、2、3月に北大西洋振動の負位相レジームの出現頻度が高まることが示された。このような大規模場のレジーム変化は対応する総観規模擾乱と2m高度気温のパターンの変化により解釈される。大気大循環モデルによるシミュレーションは、再解析データで見られた少氷時に卓越するレジームの変化をよく再現している。これらの結果は、検出された大規模場の卓越パターンの変化が北極海の海氷の変化に関係することを結論づける。

Rapid ice drilling with continual air transport of cuttings and cores: General concept
Rusheng Wang, Liu An, Pinlu Cao, Baoyi Chen, Mikhail Sysoev, Dayou Fan, Pavel G. Talalay
 この論文では、氷床や氷河の深度600 mまでの氷コア掘削について、空気を循環して送ることで氷の切削と氷コアの輸送を連続的に行う高速掘削の実行可能性について述べている。この方法は、二重のチューブにしたドリルロッドを使うことで可能である。二重ドリルロッドの内側チューブは、ドリルの切削面から地上までの切削チップおよび氷コアの輸送経路となる。様々な氷河の状況によって空気循環掘削技術を適応するために、それに対応するドリルロッドのカッターと空気処理装置(乾燥した冷たい空気を送るための、空冷クーラー、空気貯留タンク、空気乾燥機など)を使用する必要がある。直径60mm、長さ200mmの氷コアを運ぶための空気速度は22.5m/s以上でなければならず、連続的な切削チップおよび氷コア輸送のための最小空気流量は2.3?2.6MPaの時に6.8m3/分になる。24時間の掘削作業の場合には、600mの深さの孔を1.5日以内に掘削することが可能である。しかし、氷河や氷床の掘削中にスタックするのを避けるためには、掘削深度を-20℃の氷温では540mに、-10℃の氷温では418mに制限する必要がある。

Generation of a high-accuracy regional DEM based on ALOS/PRISM imagery of East Antarctica
Kaoru Shiramizu, Koichiro Doi, Yuichi Aoyama
 差分干渉合成開口レーダー(DInSAR)を用いた氷河・氷床域の氷流速度推定の解析過程では数値標高モデル(DEM)が必要であり、その変動推定精度はDEMの精度に依存する。本研究では東南極のリュッツォホルム湾沿岸域を対象地域として、ALOS/PRISMセンサの取得した光学画像をステレオ視することで新たなDEM(PRISM-DEM)を作成し、その精度を衛星レーザー高度計ICESat/GLASおよびGNSSによる現場観測で取得した楕円体高との比較を行うことで検証した。検証の結果、PRISM-DEMの精度は、氷床上で2.80m、氷河上で4.86m、露岩上で6.63mと見積もられ、既存のDEM(ASTER-GDEM)の精度、33.45m(氷床)、14.61m(氷河)、19.95m(露岩)と比べると高精度なDEMであると示唆される。また、PRISM-DEMの精度がDInSARによる変動推定に与える影響はALOS/PALSARデータを用いた場合は<6.3mmであることから、DInSAR手法による高精度な氷流速度推定に貢献できるDEMであるといえる。

Time-space variations in infrasound sources related to environmental dynamics around Lützow-Holm Bay, east Antarctica
Takahiko Murayama, Masaki Kanao, Masa-Yuki Yamamoto, Yoshiaki Ishihara, Takeshi Matsushima, Yoshihiro Kakinami, Kazumi Okada, Hiroki Miyamachi, Manami Nakamoto, Yukari Takeuchi, Shigeru Toda
 南極域で観測されるインフラサウンド波の特徴的な性質は、南極大陸縁辺部とその周辺の南大洋との間の、表層環境の物理的相互作用を反映している。本研究では、東南極のリュツォ・ホルム湾の沿岸域に設置した2か所のアレイ観測データを用いて、2015年1月〜8月の8か月間におけるインフラサウンド励起源の位置に関する時空間変動を調べた。アレイデータからは、解析期間中の周波数成分と波動伝搬方向の時間変化が明瞭に捉えられている。多数のインフラサウンドの励起源位置が同定されたが、その多くはアレイより北方に位置する。また、震源イベントの多くの卓越周波数が数Hzであり、これは波浪起源のマイクロバロムスよりも高い。MODIS衛星画像との比較からは、これらの震源は湾周辺での氷河のカービングや海氷の分裂、また氷山と海氷との衝突、等に関連した「氷震」と推定される。このように南極におけるインフラサウンドの連測測定は、南半球高緯度帯から視た気候変動に関連した地域的な表層環境モニタリングの指標となり得る。

Multistage formation processes in the acapulcoite-lodranite parent body: Mineralogical study of anomalous lodranite, Yamato 983119
Masahiro Yasutake, AkiraYamaguchi
 我々は、南極やまと山脈付近の裸氷帯で発見されたロドラナイト隕石Y 983119の形成史を明らかにするために、岩石鉱物科学的な研究を行った。Y 983119の主要な岩石組織、鉱物化学組成の特徴は、通常のロドラナイト隕石のものと整合的である。一方、Y 983119は、多量な直方輝石、メルト包有物の存在など、通常のロドラナイト隕石には見られない特徴を持つ。これらの結果は、Y 983119が通常のロドラナイト隕石のような溶け残り岩ではないことを示している。我々は、Y 983119がより複雑な形成プロセスによって形成したことを提唱する。

Antimicrobial properties and the influence of temperature on secondary metabolite production in cold environment soil fungi
U.Yogabaanu, Jean-Frederic Faizal Weber, Peter Convey, Mohammed Rizman-Idid, Siti Aisyah Alias
 北極や南極のような極限環境下の土壌真菌について、(i)抗菌活性をスクリーニングし、(ii)二次代謝物質の分泌とその温度変化への応答を検討した。マレーシア国立南極研究センターが有する真菌株のうち、南極海洋のキングジョージ島と高緯度北極スバールバル諸島のホーンサンドから採取された計40株を用い、プラグアッセイ法を用いてヒト感染性微生物数種に対する抗菌活性をスクリーニングした。菌株の約45%は少なくとも1種の微生物に対する抗菌活性を示し、特に良好な生物活性を示した3つの真菌分離株について、異なる温度(4、10、15、28℃)で分泌される二次代謝物質プロファイリングを行った。様々な温度での真菌の代謝産物を検討した結果、温度などの環境条件が二次代謝産物生成に影響を及ぼすことが確認された。

Selection of priority investment projects for the development of the Russian Arctic
A. Novoselov, I. Potravny, I. Novoselova, V. Gassiy
 ロシアでは,北極圏においてダイヤモンドや石油・ガスなどの資源開発が進められているが,それらは,自然環境や先住民の生活環境を考慮して進められなければならない。本論文は,投資プロジェクトの一対比較と先住民の選好の評価に基づいて,最適な開発プロジェクトを選択するための数理経済モデルを提示するものである。このモデルは,ファジィ集合論に基づくものであり,それによって,住民のプロジェクトに対する選好を効果的に査定することができる。このモデルの採用により,プロジェクトの決定において,公聴会,社会学的調査,民族学の専門知識,北方先住民への補償支払いといった要素が考慮に入れられることになる。

―― Research Notes ――

Observations and first reports of saprolegniosis in Aanaakłiq, broad whitefish (Coregonus nasus), from the Colville River near Nuiqsut, Alaska
Todd L. Sformo, Billy Adams, John C. Seigle, Jayde A. Ferguson, Maureen K. Purcell, Raphaela Stimmelmayr, Joseph H. Welch, Leah M. Ellis, Jason C. Leppi, John C. George
 アラスカ州ナイーキュース近くのコルビル川において、Aanaakłiq【ブロードホワイトフィッシュ(Coregonus nasus)】でみられた、Saprolegnia属の水生菌によって引き起こされる水カビ病の症例(2013-2016)を報告した。本報告はナイーキュース域では初めてのものであり、1980年にNorth Slope域で発生したある魚種の報告に次いで、2番目のものとなる。この疾患に関するモニタリング共同調査について記述した。漁業はナイーキュース住民だけではなく、イヌピアック族の食生活と文化活動の不可欠要素であるため、漁業者、地方政府機関、およびアラスカ先住民組織は、この疾患を引き起こす要因や情報を集めた。共同調査は、漁業者による観察記録の収集、魚および水生菌試料の採取、組織病理学的研究、および水生菌の分子同定からなる。現在、助成金は得ていないが、西洋の科学的方法を取り入れ、地方、州、および連邦の部署ならびに営利・非営利団体による調査が始まっている。さらに最近(2016年)みつかった、もう1種のホワイトフィッシュ、Pikuktuuq【ハンプバックホワイトフィッシュ(Coregonus pidschain)】の疾患例についても報告した。

Large thermo-erosional tunnel for a river in northeast Greenland
Catherine L. Docherty, David M. Hannah, Tenna Riis, Simon Rosenhøj Leth, Alexander M. Milner
 熱侵食により川岸の下部が抉られる現象は、北極域の河川によって永久凍土が熱的および機械的な複合的侵食作用を受けた際、上部の堆積物が一時的に崩壊せずに持ちこたえることで生じる。ここでは、2015年夏にグリーンランド北東部において融雪水流の川岸に形成された大きな熱侵食トンネルの発見について報告する。このトンネルは8日間(7月14日〜22日)開いたまま観測され、その間川岸の崩落が増大し続けた。河川水の溶質負荷はすぐ下流で増加し、トンネルから800mまでの範囲で高いままであった。この現地観測は偶然の機会によるもので情報は多少限定されるが、本研究は永久凍土、地形および水流流域の生息環境に影響を与える極端現象の一つについての稀な洞察を与えるものである。北極域の気候変動が加速することにより、永久凍土の劣化と河川における水温上昇が予測され、河岸の融解浸食進行とそれに伴う川岸崩壊の可能性が高まる。この変化は、このような小河川の物理化学環境を変え、水生生物環境に深刻な影響を及ぼす可能性がある。


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Polar Scienceは、広く13分野に亘って極地に関する研究成果の投稿を受け付けます。

  ・ Space and upper atmosphere physics
  ・ Atmospheric science/Climatology
  ・ Glaciology
  ・ Oceanography/Sea ice studies
  ・ Geology/Petrology
  ・ Solid earth geophysics/Seismology
  ・ Marine earth science
  ・ Geomorphology/Cenozoic-Quaternary geology
  ・ Meteoritics
  ・ Terrestrial biology
  ・ Marine biology
  ・ Animal ecology
  ・ Environment

   
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