PSニュース No.29

     Polar Science  

 国立極地研究所では、過去20年に亘り南極および北極での観測・研究について、宙空圏、気水圏、地圏、隕石、生物圏の分野ごとにシンポジウムを開催し、その成果をそれぞれ年1冊の英文誌として刊行してきました。2007年7月よりこれらを1つにまとめ、総合学術出版社Elsevierと共同でPolar Scienceを創刊し、年4号発行します。各論文には、IPYのロゴマークが入り、Science Directに収録されます。


          ● 国際極年2007-2008年を契機とする国際誌

          ● 既刊の各分野英文誌をまとめて成果を発信

          ● Elsevierとの共同出版


Vol.8(4) には、以下の論文が掲載されています。


Development of a cloud detection method from whole-sky color images
Masanori Yabuki, Masataka Shiobara, Kimiko Nishinaka, Makoto Kuji
 極域に特有の高い地表面アルベドや低い太陽高度は、全天画像から雲を抽出する際の不確実性の一因となっている。本研究では、理論的に作成した晴天画像と、全天カメラで撮影された画像との比較から雲の有無を判別する解析手法を開発した。スバールバル諸島ニーオルスンに観測基地で2005〜2007年5月に取得された全天カメラ画像に本解析手法を適用し、マイクロパルスライダー(MPL)による雲観測と比較した。MPL観測より雲が無いと判断されたにも関わらず、全天画像では雲と分類されたケースは、全データに対して2.1 %あった。一方で、MPL観測では雲と分類され、全天画像では雲が無いと判別されたケースは11.6 %あった。光学的に非常に薄い雲に対する両計測器の感度の違いが、この差を生じた主な要因と考えられる。また、太陽天頂角に対する雲検出精度について評価し、季節や時間によらずに全天画像から雲が検出できることを確かめた。

Importance of soil moisture and N availability to larch growth and distribution in the Arctic taiga-tundra boundary ecosystem, northeastern Siberia
Maochang Liang, Atsuko Sugimoto, Shunsuke Tei, Ivan V. Bragin, Shinya Takano, Tomoki Morozumi, Ryo Shingubara, Trofim C. Maximov, Serguei I. Kiyashko, Tatiana A. Velivetskaya, Alexander V. Ignatiev
 北東シベリア北極圏タイガ-ツンドラ境界において、カラマツの成長を決める要因を調べるため観測を行った。ほとんどのカラマツはわずかに比高が高く比較的乾燥したマウンド上に生育しており、湿潤耐性が低い事がわかる。葉のδ13Cの空間変化はN含量および葉の質量と正の相関を示し、また樹木サイズも同様の空間変化パターンを示した。葉のN含量が高い木は光合成速度が速く、より多くのCが固定され、葉の質量、樹木サイズが大きくなったと解釈できる。葉のN含量は土壌NH4+プールとも正の相観を示し、利用可能なN量の大きさを示唆していると考えられる。微地形も重要な因子の一つで、比較的乾燥したマウンド土壌では利用可能なN量の生成速度が大きいことに加え、大きなマウンドではカラマツは根をより広く伸ばし栄養塩を吸収できるためである。

Small unmanned aerial vehicles for aeromagnetic surveys and their flights in the South Shetland Islands, Antarctica
Minoru Funaki, Shin-Ichiro Higashino, Shinya Sakanaka, Naoyoshi Iwata, Norihiro Nakamura, Naohiko Hirasawa, Noriaki Obara, Mikio Kuwabara
 飛行距離300〜500 kmの小型無人機を開発した。南極・ブランスフィールド海盆の空中磁気と航空写真観測を計画した。しかし、過酷な気象条件等により、満足な飛行を実施できなかった。2011年12月にデセプション島の北半分、9×18qの範囲の飛行に成功した。高度780mで3時07分08秒間飛行し、測線302.4qでデータを取得した。この結果、デセプション島と周辺海域の詳細な磁気異常が明らかになった。また、リビングストン島のサウスベイの飛行では、氷河や海氷の鮮明な航空写真を得ることができた。小型無人機と有人機の費用対効果の評価は難しいが、暴風圏のような過酷な自然環境においては、小型無人機が大きな費用対効果を示すことが明らかになった。

Holocene paleoclimatic variation in the Schirmacher Oasis, East Antarctica: A mineral magnetic approach
Binita Phartiyal
 東南極・Schirmacher Oasis (SO)の乾燥した湖底堆積物の残留磁化と放射性炭素年代の解析を行い、過去の気候条件復元を試みた。13から3kaに渡る3つの堆積層序において6つの気候変動相 (Phase 1-6) が認められ、Phase 1, 3, 5が寒冷期、Phase 2, 4, 6が温暖期に相当する。約12.5 kaの短いPhase 2は更新世後期にあたり、Phase 4 (11-8.7 ka)とPhase 6 (4.4 - 3 ka)は完新世に当たる。磁化率(χ)、飽和等温残留磁化(SIRM)、及び等温残留磁化の低保磁力成分(soft IRM)が高い値の時は寒冷期に、逆に低い時は温暖期に当たっている。Holocene Optima (Phase 4)とMid Holocene Hypsithermal (Phase 6)は磁性鉱物量依存パラメターの示す値が減少することで区別できる。

The influence of air-sea-ice interactions on an anomalous phytoplankton bloom in the Indian Ocean sector of the Antarctic Zone of the Southern Ocean during the austral summer, 2011
P. Sabu, N. Anilkumar, Jenson V. George, Racheal Chacko, S.C. Tripathy, C.T. Achuthankutty
 南大洋インド洋区において、2011年夏季に通常よりも大規模な植物プランクトンブルームが発生した。そこで、現場データと衛星データを利用して、この大規模ブルーム発生メカニズムを解析した。ブルームは2011年1月に発生し、2月にはその規模を増し3月に終焉を迎えた。ブルーム発生海域(60°S、47°E)では、高い表面クロロフィル濃度(0.76 mg m^<-3>)が観測され、深度40-60 mには1.15 mg m^<-3>の亜表層クロロフィル極大が見られた。ブルーム発生海域の西側(0°E-40°E)では、2011年に海氷密接度および張り出しが共に高く、海氷融解水とみられる淡水の流入が観測された。この高い海氷密接度は、2010年から2011年にかけての正の南半球環状モードおよびラ・ニーニャ現象に起因した可能性があった。また、本研究海域における植物プランクトンブルームによる高クロロフィル濃度は、海氷融解水に豊富に含まれる栄養塩類によるものと考えられる。

Photosynthetic characteristics of sinking microalgae under the sea ice
Shinya Yamamoto, Christine Michel, Michel Gosselin, Serge Demers, Mitsuo Fukuchi, Satoru Taguchi
 西部カナダ北極域のマッケンジー海での一年性海氷域において、沈降微細藻類群集の光合成活性について、海氷底部に生息するアイス・アルジー群集と海水柱に生息する植物プランクトン群集との比較研究を太陽が現れる夏の開始時に行った。低照度域でのクロロフィル当たりの光合成曲線の始めの立ち上がり勾配(α^B)と高照度域での最大光合成速度(Pm^B)との間には有意な一次関係があり、光適応戦略は夏の開始時の低照度下では3つの群集の間で同様であることが示唆された。このような観測結果は沈降微細藻類群集は海氷下でも表層でも、植物プランクトンの「種」個体群となりうる可能性を示唆するとともに、海氷が衰退する以前から北極域において、高次消費動物群の餌となる可能性を示唆した。

Effects of substrate differences on water availability for Arctic lichens during the snow-free summers in the High Arctic glacier foreland
Takeshi Inoue, Sakae Kudoh, Masaki Uchida, Yukiko Tanabe, Masakane Inoue, Hiroshi Kanda
 高緯度北極に生育する地衣類5種の光合成活動と水利用を、着生基物がもたらす水条件の違いに着目し、その実態を調査した。降雨停止より各種地衣体及び着生基物の含水比は早急に低下し、日中には樹枝状地衣4種の光合成は停止していたが、夜間から早朝の弱い光環境で、周期的に湿度飽和となる大気から水を獲得し光合成を行っていた。一方、最も湿潤な環境をつくるクラストに着生する固着地衣Ochrolechia frigidaは、着生基物と地衣体間に生じた水ポテンシャル差に沿って水が供給されることで、降雨停止後数日間は日中の強光下でも光合成を行っていた。吸水状態で測定された樹枝状地衣4種の光-光合成曲線には強光阻害が認められたのに対し、O. frigidaには明確な強光阻害が認められず、地衣種ごとは着生基物及び形態的特徴によって異なる水利用を行い、水を得た時の光条件下で光合成を行うに適した光合成応答性をもつことが示唆された。


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