PSニュース No.34

     Polar Science  

 国立極地研究所では、過去20年に亘り南極および北極での観測・研究について、宙空圏、気水圏、地圏、隕石、生物圏の分野ごとにシンポジウムを開催し、その成果をそれぞれ年1冊の英文誌として刊行してきました。2007年7月よりこれらを1つにまとめ、総合学術出版社Elsevierと共同でPolar Scienceを創刊し、年4号発行しています。各論文は、Science Directに収録されます。Polar Scienceでは出版から24ヶ月のエンバーゴ期間後に、非購読者も論文を自由に利用できるオープン・アーカイブを行っています。


          ● 国際極年2007-2008年を契機とする国際誌

          ● 既刊の各分野英文誌をまとめて成果を発信

          ● Elsevierとの共同出版

          ● Impact Factor対象誌(Vol. 6 Issue 1より)(2014年IF:0.952)


最新号Vol. 10 Issue 1(2016年3月)には、以下の論文が掲載されています。

――Regular Articles――


Inconsistent relationships between major ions and water stable isotopes in Antarctic snow under different accumulation environments
Yu Hoshina, Koji Fujita, Yoshinori Iizuka, Hideaki Motoyama
 東、西南極の高時間分解能の浅層コア、積雪ピットの主要イオン濃度、酸素同位体比(δ18O)、涵養量の解析を行った。主要イオン濃度とδ18Oの季節変動は涵養量が100 kg m-2 a-1以上で風が穏やかな環境でアイスコアに保存されるが、涵養量が十分でも強風域では季節変動は保存されない。アイスコアの主要イオン、δ18Oシグナルの異なる起源の影響を取り除くため、年平均の主要イオン、δ18Oの変動の相関係数を調べ、アイスコア採取地の涵養量や緯度、標高、海岸からの距離といった地形的要因と比較した。涵養量は標高、10 m深の雪温と強い相関関係にあり、低涵養の南極内陸において主要イオンとδ18Oが負の相関であることがわかった。この負の相関は、年々の涵養量が大きな変動を持っていることが影響している。この結果は、乾燥した環境の特徴的なもので、アイスコアの主要イオンとδ18Oの関係は、気候特徴を反映していないと考えられる。

Comparison of thermodynamics solvers in the polythermal ice sheet model SICOPOLIS
Ralf Greve, Heinz Blatter
 ポリサーマル氷河の氷温度分布を正確に計算するためには、エネルギー保存の法則に従うとともに、融点にある氷と融点以下の氷の境界(CTS)の位置を正確に知ることが必要である。我々は4つの異なる熱力学方程式の解法を氷床モデル(SICOPOLIS)で比較した。2つの手法は既存の二層ポリサーマル法(POLY)と単一相寒冷氷法(COLD)で、他の2つは本研究で初めて導入した単一相エンタルピー法、すなわち従来法(ENTC)と融解CTS法(ENTM)である。これらの手法の比較には、第2期EISMINTの単純地形シナリオを用いた(Payne et al., 2000, J. Glaciol. 46, 227-238)。基準となるPOLYの計算結果と比較することで、他の手法について検討を行った。COLDおよびENTCはCTSにおいて温度勾配を連続に保つことができなかったが、ENTMでは強制によってその連続が常に成り立っている。ENTCとENTMのどちらの手法からも氷河内の氷温と含水率の分布を推定することができるが,ENTMはCTSの位置に関してはENTMよりも正確であった。以上の結果から、融点以下と融点以上の氷について領域が設定されるPOLYと比較して、単一相エンタルピー法であるENTCとENTMはより実用的で簡便な手法といえる。

Stable isotopic evidence for anaerobic maintained sulphate discharge in a polythermal glacier
A.H. Ansari
 高緯度北極域のSO42-の発生・消滅源やそれに関連する生物地球化学的プロセスを理解するために、冬季の積雪、夏の融解水、および岩石サンプルを採取し、主要イオン濃度および安定同位体比(δ18O, δ34S)を分析した。SO42-/Cl-比から、氷河底排水と氷河前縁の水路によって輸送される全SO42-のうち、87%以上が積雪以外の起源であることがわかった。積雪外起源のSO42-のδ34Sと周辺の岩石のδ34Sの値が近いことから、積雪外起源のSO42-は主に岩石の風化によってもたらされたと考えられる。さらに、Ca2+ + Mg2+/SO42-比から融解水中のSO42-濃度は主に、硫化物と炭酸塩の風化および、二次塩の再溶解の2つのプロセスによって制御されていると考えられる。SO42-濃度の増加をもたらす岩石中のδ34S−SO4 = +19.4‰はδ34S−Sよりも高く、これもまたSO42-が二次塩の再溶解によって供給されたことを示している。積雪外起源のSO42-のδ18Oのほとんどは、O2の下限状態の閾値よりも低い。これは、ある一定量のSO42-は定期的に嫌気的な硫化物の酸化によって供給されていることを示している。

Seasonal variations in the major chemical species of snow at the South East Dome in Greenland
Ikumi Oyabu, Sumito Matoba, Tetsuhide Yamasaki, Moe Kadota, Yoshinori Iizuka
 2015年5月にグリーンランド氷床南東ドームにおいて、3.55 mの積雪ピットを掘り、積雪断面観測および積雪試料の採取を行った。採取した雪試料を用い、水安定同位体比(δD、δ18O)と主要イオン濃度(CH3SO3-、Cl-、NO3-、SO42-、Na+、NH4+、K+、Ma2+、Ca2+)を分析した。断面観測と化学分析の結果から、3.55 mの積雪は2014年の夏〜秋以降に涵養したものであることがわかった。この涵養量はグリーンランド内陸の主な氷床コア掘削地点よりも高い。高い涵養量によって希釈されたため、Na+を除くイオン濃度はグリーンランド内陸よりも低かった。Na+、Cl-、Ca2+、Mg2+、NO3-の季節変動は、グリーンランド内陸と似ており、Na+とCl-は冬〜初春、Ca2+は春、Mg2+は冬〜春にピークをもつことがわかった。NO3-は夏に向かって濃度が高くなり、冬〜春にも小さなピークがあった。NH4+は春に増加し、SO42-は秋〜冬にかけて増加した。一方、Cl-/Na+の季節変動は他のグリーンランド内陸と異なることがわかった。ただし、我々が観察した積雪ピットは1年分の季節変動を追える深度に達していなかった可能性が高く、見逃したシグナルがあるかもしれない。

Interannual variability in sea-ice thickness in the pack-ice zone off Lützow–Holm Bay, East Antarctica
Fuko Sugimoto, Takeshi Tamura, Haruhito Shimoda, Shotaro Uto, Daisuke Simizu, Kazutaka Tateyama, Seita Hoshino, Toshihiro Ozeki, Yasushi Fukamachi, Shuki Ushio, Kay I. Ohshima
 リュツォ・ホルム湾沖流氷域では、日本南極地域観測隊による夏期の海氷観測が2000/01年から行われている。10年間のEM観測と目視観測の結果を基に、この海域の海氷厚の経年変動を明らかにし、その要因を議論した。流氷域の中でも観測が集中していた海域においては、9年間の平均全氷厚が〜1.9 mであったのに対して、2010/11年と2011/12年はそれぞれ〜3.3、〜5.8 mと例外的に厚く、大きな経年変動をしていたことが分かった。2011/12年は北風が卓越しており、海氷が北風によって岸や定着氷縁へ押し付けられ激しい海氷変形が起こり分厚い氷盤が形成されたと考えられる。過去34年間の大気再解析データから、リュツォ・ホルム湾沖の夏期の海氷状況や厚さは12月の気圧配置から大きな影響を受けていることも示した。

Resilience in polar ecosystems: From drivers to impacts and changes
Manfred Bölter, Felix Müller
 生態系のレジリエンスについての理論は、応用生態系研究の分野で増えつつあり、自然環境とそれに対する様々なストレス(地球温暖化や人間活動の直接的影響など)の関係を分析するための有効な概念となった。この概念はまた、生態系変化の将来予測も可能とする。しかし、攪乱の程度に対して特定の閾値を定めることは困難であり、極域の自然環境を実際に評価できる手法はほとんどない。本論文では、極域における生態系と環境変動に対するその耐性について、人間活動による攪乱に対するレジリエンスを評価した過去の研究を取り上げ、概説する。さらに、自然環境の状態や変化に関する高度化した理解に必要な、修整されたモデル(根本的原因、負荷、状態、影響、対策(DPSIR))を提案する。

Aerosol black carbon over Svalbard regions of Arctic
Mukunda M. Gogoi, S. Suresh Babu, K. Krishna Moorthy, Roseline C. Thakur, Jai Prakash Chaubey, Vijayakumar S. Nair
 ノルウェイ北極のスバールバル地域で、大気中ブラック・カーボン(BC)濃度の連続測定を行った。2010-2012年の4年間のデータから、夏の最低値(〜19.5 ± 6.5 ng m-3)より3倍もの春季の増大(平均50.3 ± 19.5 ng m-3)が一貫して見られた。吸収物質の波長特性から、春季の大気中BC濃度のうち最大25%は、長距離輸送された森林火災によるエアロゾルが貢献している。同時に見た、北極積雪中のBC濃度は0.6〜4.1 ppbであった。これらの値を使って、BC沈着率を求めたところ、平均でも98 ± 46となり、個々のサンプルでは40-184と大きくばらついた。比較すると、北極の大気中BC濃度の季節変化はヒマラヤ高山域で見られるものと同様であるが、濃度そのものは北極の方がはるかに低い。ヒマラヤ高山域では、総観規模の現象が影響するが、北極域では局所的な人為起源の影響が無視できない。

Atmospheric bioaerosols originating from Adélie penguins (Pygoscelis adeliae): Ecological observations of airborne bacteria at Hukuro Cove, Langhovde, Antarctica
Fumihisa Kobayashi, Teruya Maki, Makiko Kakikawa, Takuji Noda, Hiromichi Mitamura, Akinori Takahashi, Satoshi Imura, Yasunobu Iwasaka
 大気バイオエアロゾル(生物粒子)と生態系の関係は、近年地球規模の研究として注目されている。南極は極限気候であり、生態系は比較的簡素なことから影響が検討し易い。大気バイオエアロゾル直接採集が、2013年1月22日、ラングホブデ袋浦のアデリーペンギンコロニーで行われ、分析は次世代シークエンスを用いた。コロニー風下のBacilli網濃度は、風上の19.4倍も高く、起源はペンギンの糞であり、南極海へ拡散していた。風上ではGammaproteobacteria網が最も多く、コロニー通過時著しく減少した。これはコロニーの土壌、水たまり、海水に沈着したためと考えられる。ペンギンコロニーでは大気バイオエアロゾルと生態系が相互に強く影響している。

Stability of permafrost dominated coastal cliffs in the Arctic
Md. Azharul Hoque, Wayne H. Pollard
 海岸のブロック崩壊は、永久凍土地域における海岸侵食の重要なメカニズムの一つである。永久凍土からなる海岸壁のブロック崩壊に対する安定性と融解侵食ニッチおよびアイスウェッジの形態との関係を調べる包括的なモデルが開発された。このモデルは、斜面安定解析を融解侵食ニッチの発達と隣接するアイスウェッジの形態をカップリングさせて定式化された。はじめに、決められた海岸壁高、凍土強度、含氷率、活動層中の静水圧、融解侵食ニッチの奥行きおよびアイスウェッジの形態のもと、ブロック崩壊の条件についてモデル計算された。これらの条件下でのブロック崩壊の種類は主に転倒破壊で、凍土の引張強度、融解侵食ニッチの奥行き、アイスウェッジの位置と到達深度によって支配されていることがわかった。アイスウェッジの形態による影響は、その位置と到達深度の組み合わせを変えて破壊条件を解析して調べられた。決められた海岸壁高、凍土強度、融解侵食ニッチの奥行きの条件下では、アイスウェッジ位置と到達深度の組み合わせがある範囲にある場合にブロック崩壊が起こる。海岸壁高と凍土の引張強度がある範囲にある場合についてのモデル計算結果から、2つの安定性ノモグラムを作成した。これらのノモグラムを用いると、ブロック崩壊を引き起こす融解侵食ニッチの奥行き、アイスウェッジ位置と到達深度の組み合わせを決定することができる。北極海岸において、起こりうるブロック崩壊の条件を求めるいくつかの解析的数式についても導入された。

――The Asian Forum for Polar Sciences (AFoPS)――


Sediment grain size and surface textural observations of quartz grains in late quaternary lacustrine sediments from Schirmacher Oasis, East Antarctica: Paleoenvironmental significance
Anish Kumar Warrier, Hemant Pednekar, B.S. Mahesh, Rahul Mohan, Sahina Gazi
 本研究では、東南極シルマッヒャ−オアシスにあるSandy Lakeの堆積物中の石英粒子の大きさの変数、および走査電子顕微鏡(SEM)により観察した粒子表面の性状について報告した。堆積物コアは過去4.3万年に及ぶ。粒子サイズの統計変数(分級度、歪度、尖度、平均粒径等)は、堆積物が基本的に氷河やその融水により運ばれたことを示している。しかし、最終氷期(LGP)には、EPICAのアイスコアで丸みのある石英粒子とホコリの出現が良い相関を示すことから明らかなように、堆積物が風で運ばれたとみられる。LGPの平均粒径が小さいことは、より寒冷な気候であったことを示し、最終氷期最盛期(LGM)の後に粒径が増加したことは、輸送媒体である氷河融解水の流れが強くなったことを示唆している。過去4.3万年にわたり、堆積物の粒子分別は弱く、細かい歪みがあり、粒径分布が異なったモードを示している。石英粒子のSEMによる調査、および多様な粒子の表面状態の分析により、粒子が運ばれた時には氷期に基づく環境が卓越していたことを示した。鉱物(石英、長石、雲母、ザクロ石等)の半定量的分析の結果、石英とほかの鉱物との混合物が優占していた。また、石英粒子が多いことから堆積物は組成的には成熟していることを示した。本研究により、異なったタイプの物理的風化作用、侵食痕、化学的析出を明らかにしたが、そのほとんどは氷期の環境に特徴的なもので,湖底堆積物として最終的に堆積する前に石英粒子に影響を及ぼした。本研究は、シルマッヒャ−オアシスや東南極露岩域の湖底堆積物試料がアイスコア試料と同様に、古環境の再構築に利用できることを示している。

Precise gravity-field modeling in the area of the Japanese Antarctic station Syowa and evaluation of recent EGMs
Yoichi Fukuda, Yoshifumi Nogi, Kazuya Matsuzaki
 日本の南極観測隊による1967年以降の地上重力、1985年以降のしらせ船上重力、および、2006年の航空重力データを用い、Gravity Field and Steady-State Ocean Circulation Explore (GOCE)のdirect solution (DIR) release 5 (R5) Earth Gravity Model (EGM)を長波長重力場の基準とし、最小2乗コロケーション法で、昭和基地周辺地域の1分格子上での重力異常とジオイド高を求めた。得られた昭和基地でのジオイド高と、GPS・水準測量・験潮データから求めたジオイド高とを比較することで、昭和基地での海面高を-1.57 mと推定した。この値は、海洋観測に基づく力学的海面高モデルの値と調和的である。また、航空重力データを用い、GOCEや他の最新のEGMの精度評価を行った。その結果、GOCE DIR R5が最も良い結果を示したが、他のEGMも同程度の精度であることが判った。


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