PSニュース No.3

Polar Science


 <Vol.1(2-4) の掲載論文>


Why is Shirase Glacier turning its flow direction eastward?
Kazuki Nakamura, Koichiro Doi, Kazuo Shibuya
南極・白瀬氷河の流動速度を地球資源衛星1号の合成開口レーダーデータに画像相関法を適用して調べました。氷河の氷床接地縁から下流部にかけての流動速度は、常に東側より西側で速いことがわかりました。西側、東側の流動速度の差は、1996年には 0.31 km/a、1998年には 0.37 km/a で有意に(誤差0.03 km/a)大きいです。流れの方角は、接地縁では 312度、以後下流に向かって 10,20,30 km の地点では、それぞれ327、346、2度と大きく東にカーブしていきます。この原因は、氷河下の地形が東側の方が西側より系統的に 50m 深いということと、西側氷床から流入する支流で押されていることによると思われます。

Estimation for seasonal changes in the flow of Shirase Glacier using JERS-1 / SAR image correlation.
Kazuki Nakamura, Koichiro Doi and Kazuo Shibuya
JERS-1衛星(地球資源衛星1号)の合成開口レーダーデータを用いて白瀬氷河の流動速度の季節変動を調べました。“画像相関法”という手法を用いて、氷河内部の流動場を推定しました。上流域の 1.18 km/a から氷床接地縁付近の 2.32 km/a にかけては急速に速くなりますが、そこでほぼ一定流速となります。下流域では再度徐々に加速し、2.62-2.82 km/a となり末端浮氷舌部では 3.05-3.50 km/a まで加速しています。浮氷舌部の流動速度には、季節変動も認められ、1997年(3.11 km/a)と1998年(3.50 km/a)の年変動は有意な差でした。これには、1998年4-5月の浮氷舌流失が反映していると考えられます。

New insight into the crust and upper mantle structure under Alaska.
Cheng Qi, Dapeng Zhao, Yong Chen and Natalia A. Ruppert
アラスカで発生した地震(10900個)のP波到達時刻(43万8146走時)を用いて、アラスカの下に沈み込む太平洋プレートの三次元速度構造を不均一格子パラメーター法を用いて深さ 200km まで解析しました。その結果、アラスカに沈み込む太平洋プレートは3つに大別されることが示唆されました。アラスカ西部は、他の沈み込み帯と類似した構造ですが、中央部ではケナイ半島北部の太平洋プレート上部に厚い低速度層があることが分かりました。これは、海洋地殻上部に蛇紋岩帯が横たわり、ヤクタットテレーンも一緒に沈み込んでいるためと思われます。東部では顕著な高速度層が 60−90km の深度に見られ、太平洋プレートはこの深さまでしか沈み込んでいないと考えられます。

How can we observe the underwater feeding behavior of endotherms?
Yasuhiko Naito
海生哺乳類と海鳥の採餌潜水行動は、近年のバイオロギングの技術の進歩によってよく理解されるようになっています。しかし捕食した獲物の大きさ、種類、その消化過程をより詳しく調べるために、さらなる手法が必要です。本論文では今までの手法を概観し、また胃温度センサーや嘴マグネットセンサーなどの新手法の必要性を述べ、野外で計測するための実用的な方法を提案します。

Microtopographic analysis of plant distribution in polar desert.
Masaki Okuda, Satoshi Imura and Masaharu Tanemura
極域の乾燥地帯において、植物が地形の起伏や岩・水たまりなどの環境にどのように対応して分布しているかを、分割表統計量を用いて評価する方法を提案しました。実例として南極昭和基地周辺の沿岸露岩域において、まばらに蘚類の分布する区画において格子状に調査データを取得し、その地域に多く見られた3種について評価を行い、それぞれの分布の特徴を表現しました。

Habitat and leaf cytogenetic characteristics of Deschampsia antarctica Desv. in the Maritime Antarctica.
Parnikoza I. Yu, Miryuta N. Yu., Maidanyuk D. N. 他7名
Maritime Antarcticaに成育するナンキョクコメススキの生態について、土壌条件、ウイルス汚染、細胞核面積、相対DNA量に注目して調査を行いました。土壌条件が大きく異なる6地区から植物を集め、葉の表皮や柔細胞のDNA量などを調べた結果、ナンキョクコメススキは、微量元素、pHなど土壌条件が大きく異なる地域で生育していることがわかりました。また、ウイルス汚染に敏感で、DNA量や核面積も大きく異なることがわかりました。