PSニュース No.4

Polar Science


<Vol.2(1) の掲載論文>


Atmospheric gravity waves identified by ground-based observations of the intensity and rotational temperature of OH airglow
Hidehiko Suzuki, Kazuo Shiokawa, Masaki Tsutsumi, Takuji Nakamura, Makoto Taguchi

OH大気光の分光観測を2006年5月2日に宇治市において実施し、周期1時間ほどの大気重力波に伴う大気光の強度と回転温度の変化を調べました。同時観測を行ったMUレーダーの風速観測データと合わせて鉛直波長などの波動パラメター推定をおこないました。観測された変化は理論的予測に一致していることが判明しました。

On the response of the neutral temperature at 78°N and 90 km altitude to solar proton events
C.M. Hall, T. Aso, M. Tsutsumi

流星エコーの減衰の様子を基に上部中間圏・下部熱圏の温度観測を行い、高いエネルギーを持つプロトン粒子が極域に降り込む際に大気温度へ与える影響を調べましたが、明らかな変化は見られませんでした。理論的予測は数度程度であるので、他の変動要因の中にうずもれてしまっていると考えられます。

Laboratory experiments and thermal calculations for the development of a next-generation glacier-ice exploration system: Development of an electro-thermal drilling device
Yuko Suto, Sosuke Saito, Ken-ichi Osada, Hiroshi Takahashi, Hideaki Motoyama, Yoshiyuki Fujii, Yoichi Tanaka
サーマル・ドリルを用いた次世代氷床掘削システムが提案され、実験および計算が行われました。このシステムは、氷を熱で溶かして掘進し、融解水をその場で取り込んで連続分析するようデザインされています。十分な速度で目的の深さに到達するために必要な熱量の見積もりや、ドリルヘッドの形状や材質の効果などが検討されました。

Resting cells of microorganisms in the 20-100 μm fraction of marine sediments in an Antarctic coastal area
Mutsuo Ichinomiya, Miwa Nakamachi, Mitsuo Fukuchi, Akira Taniguchi

東南極リュツォ・ホルム湾の昭和基地周辺の海氷発達域と開水面域において、海洋沈殿物中の微生物の休眠細胞を調べ、多様な分類群を同定しました。珪藻類の一種の休眠胞子、渦鞭毛藻類二種の卵は夏期間、海底へ沈降していました。この結果は、南極沿岸域に生息するこれらの微生物は、次世代を維持するために休眠細胞を海底へ沈降させていることを示唆します。

Temporal variations in the abundance and sinking flux of diatoms under fast ice in summer near Syowa Station, East Antarctica
Mutsuo Ichinomiya, Yasushi Gomi, Miwa Nakamachi, Masaki Honda, Mitsuo Fukuchi, Akira Taniguchi

海氷から離脱するアイスアルジーの行く末を調査すべく、2005/6年夏季に南極昭和基地近傍の定着氷域において深度別の珪藻類の現存量、種類組成と沈降フラックスを調べました。もっとも優占するPorosira pseudodenticulataとPseudo-nitzschia cf.turgiduloidesの現存量はそれらの沈降量よりも大きく、個体群を表層水中で維持しているようです。これに対しFragilariopsis kerguelensisとThalassiosira australisは表層水中にはほとんど存在せず沈降フラックス中に多量に存在することから、生産した物質を盛んに沈降させて海底の生態系へ移送していることを示唆しています。

Vertical material flux under seasonal sea ice in the Okhotsk Sea north of Hokkaido, Japan
Takehiko Hiwatari, Kunio Shirasawa, Yasushi Fukamachi, Ryuichi Nagata, Tomoyoshi Koizumi, Hiroshi Koshikawa, Kunio Kohata

季節海氷下の物質の下方沈降フラックスを、オホーツク海においてセジメントトラップを用いて調べました。観測結果は、海氷の季節的消長に伴って、沈降する生物起源・陸域起源物質が量と質を変化させている姿を示しています。特に、顕微鏡観察により、海氷が覆っている期間、動物プランクトンはアイスアルジーを活発に捕食していることが示唆されました。

The Tromso Dynasonde
M.T. Rietveld, J.W. Wright, N. Zabotin, M.L.V. Pitteway

ノルウェー・トロムソ近くのオーロラ帯に設置されている電離層観測装置であるダイナゾンデについて、その歴史、能力、研究内容が紹介されました。データの量、質ともに大きく改善がなされています。同様の装置が、ポーラーキャップ域のスピッツベルゲン・ロングイヤービエンに設置される予定になっています。