PSニュース No.16

Polar Science


Vol.5(1) には、以下の論文が掲載されています。


Meteorological influences of SST anomaly over the East Asian marginal sea on subpolar and polar regions: a case of an extratropical cyclone on 5-8 November 2006
Ami Ueda, Masaru Yamamoto, and Naoki Hirose

2006年11月5〜8日における日本海低気圧の急発達の初期では,渦解像海洋データ同化は鉛直風を介して対流圏中層に影響を与え,その影響は極域やその周辺まで広がる.低気圧発達初期に,日本海の西部および中央部で,データ同化で生じるSST偏差に対する2種類の大気応答が見られた.重力波パターン(対流パターン)は地表付近の大気が静的安定(不安定)な場合に見られる.海洋データ同化で生じる気温と地表温度の偏差は,総観規模の強い移流によって極域まで急激に広がる.他方,鉛直風や降水に与える影響は日本海北部や太平洋上の前線付近の狭い範囲に限られる.このような低気圧は日本海SST偏差の影響を極域へ運ぶ役割として潜在的に重要である.


Very-low-frequency electromagnetic (VLF-EM) measurements in the Schirmacheroasen area, East Antarctica
P. Gnaneshwar, A. Shivaji, Y. Srinivas, P. Jettaiah, N. Sundararajan

東南極Schirmacher(シルマッハ)地域でのVLF-EM法適用の可能性と実際の応答を知るため、4つの測線について測定を実施した。予察的な結果は、VLF異常が地質(岩相)境界、せん断断層の存在によって生じていることを示唆している。また、VLF異常の強さが氷帽によって減衰していることもわかった。VLF異常の同相(in-phase)成分を信号解析的な手法で解釈すると15-30 mの深さに原因があることがわかるが、FraserフィルターあるいはHjeltフィルター解析で解釈すると少し深い、25-60 m深度に原因があることがわかった。本文では、4測線すべてでの結果を事例研究として紹介している。


Validation of global ocean tide models using the Superconducting gravimeter data at Syowa Station, Antarctica, and in-situ tide gauge and bottom-pressure observations
Tae-Hee Kim, Kazuo Shibuya, Koichiro Doi, Yuichi Aoyama, Hideaki Hayakawa

我々は、昭和基地で記録された超伝導重力データを使用して6個の海洋潮汐モデル(CSR4.0、GOT99.2b、NAO.99b、FES2004、TPXO7.1、およびTPXO7.2)の検証の研究を行った。観測された荷重の影響との比較から、最適な海洋潮汐モデルは TPXO7.2であり、 8つの 主分潮(4つの日周潮と4つの半日周潮)をcombined misfitは、 0.194μGalであった。2番目に良い海洋潮汐モデルはNAO.99bであり、combined misfitが0.277μGalであった。昭和基地周辺地域の潮位データと海底圧力データを海洋潮汐モデルに含めた場合の有效性を確認するため、 TPXO7.2モデルにこれらの現場データを取り込んだところ、8つのすべての分潮を合計した combined misfitは5%減少した。我々が求めたGravimetric factorの位相遅れの偏差は final residualsにおいてout−phase成分のばらつきがin−phase成分のものより大きいことを示している。 この傾向はO1、K1とM2 の分潮において顕著に見られた。位相差の精度の良し悪しが最適な海洋潮汐モデルを決定する鍵となった。


Community structure of culturable bacteria on surface of Gulkana Glacier, Alaska
Takahiro Segawa, Yoshitaka Yoshimura, Kenichi Watanabe, Hiroshi Kanda, Shiro Kohshima

アラスカ・グルカナ氷河におけるバクテリア群集を培養法によって解析した.氷河表面の雪氷試料を高度別に採取し,様々な培地と温度条件で培養した.その結果,50倍希釈R2A培地を用いて,4℃で培養したときに,最大コロニー数(104-105 CFU mL-1)を示し,グルカナ氷河には,低温・貧栄養環境に適応したバクテリアが多く生息していると考えられた.培養によって得られた234株について,16S rRNA遺伝子による系統解析を行った結果,β-およびγ-Proteobacteriaに属する株が優占していることが分かった.また,培養株全体では34の系統群を示し,このうち26群(76.5%)は寒冷環境からの報告例があることから,寒冷な環境に共通した種がグルカナ氷河にも存在することが示唆された.


Early 20th century warming in the Arctic: A review
Takashi Yamanouchi

北極は1920年代から40年代にかけて、最近30年の温暖化と匹敵するような顕著な温暖化を示している。この20世紀前半の温暖化は、最近の温暖化が地球全体で起こっているのに対し、高緯度に集中的に起こっている。単一の原因で説明しようとすると、全球の平均的な変化は表せても、高緯度に顕著になるという20世紀前半の変化は説明できない。大気の内部固有変動によるという説がある。その他、雪氷面上に沈着した黒色炭素(BC)の放射効果によるという説もある。明快な答えはないが、おそらく、気候システムの内包する固有の自然変動に、さらに放射や大気の強制力とそれを増幅するフィードバック効果の重なったものだろうと考えられる。