PSニュース No.8

Polar Science


<Vol.3(1) の掲載論文>

Tidal gravity variations at Vostok Station, Antarctica, revisited
Koichiro DOI; Kazuo Shibuya; Anja Wendt; Reinhard Dietrich; Matt King

1969年にアスカニアGs-11重力計よる観測がVostok基地で実施された。その後、氷床下湖Vostok湖が発見され、湖の潮汐によるダイナミクスを解明するために、そのデータを潮汐解析プログラムBAYTAP-Gを使って再解析した。得られた半日周潮の位相進みは日周潮のそれよりも明瞭であった。また、M2分潮のδファクターは理論値よりも有意に小さかった。3つの海洋潮汐モデルで荷重潮汐の補正を行ったところ、K1分潮の残差(1.36±0.25μGal)は極めて大きかったが、全体の解析誤差は以前の結果の半分に減少していた。Asuka基地での過去のデータに対する同様の再解析では、K1分潮も含めた主要な日周、半日周潮で残差が0.3μGal以内であり、両者の違いは重要な意味を持つ。

Upper-Ocean Hydrodynamics along near-Meridional Sections in the Southwest Indian Sector of the Southern Ocean during Austral Summer 2007
Alvarinho J Luis, Ph. D.; M. Sudhakar, Ph. D.

本論文は、2007年2月から3月にかけてIPYのプロジェクト (IPY#70) として行われたDurbanから南極大陸のIndia Bayまで (Track-1) とPrydz BayからMauritiusまで (Track-2) の測線における海面気象とhydrographicデータの解析結果である。南緯45度以北では、強風(12 m s-1 以上)により乱流による熱損失が大きくなっていた。一方、南緯40度から45度の緯度帯では、Track-1沿いで非常に安定な海洋上の大気境界層 (MABL) と強風が凝結潜熱の放出を促進しており、Track-2沿いで非常に不安定なMABLと強風が海面からの大きな乱流熱損失を引き起こしていた。2つの測線では亜南極フロントの北側分岐と南側分岐が一体化している一方で、Track 2の南緯43-44度の間ではアグラス反流フロントと南亜熱帯フロントが一体化していた。極フロントの南側分枝は、東側に向かうにつれ、南へ550km蛇行していた。南緯43.5度以北には亜熱帯表面水、中央水、モード水が存在する一方で、南極周極流の領域では亜南極表面水、南極表面水、南極中層水、周極深層水が存在した。1000 db面を基準とした傾圧流量によると、南極周極流は東側に向かって10 x 106 m s-1 強化されており、南極周極流の南側で流量は4倍に増加していた。南極周極流の流量の50%近くは、100-500 mの層のものであった。アグラス海流と海洋フロントのMABLへのフィードバック効果についても議論した。

High temperature annealing of amoeboid olivine aggregates: Heating experiments of olivineand anorthite mixtures.
Mutsumi Komatsu; Takashi Mikouchi; Masamichi Miyamoto

アメーボイド・オリビン・アグリゲイツ(AOA)は、炭素質コンドライトの主要構成物の一つである。AOAは、原始太陽系星雲ガスからの凝縮過程を経て形成されたと考えられているが、単純な平衡凝縮過程だけでは説明できない組織を有している。本研究において、AOAの構成鉱物を出発物質とした加熱実験を行ったところ、フォルステライトとアノーサイトの部分溶融により、高Ca輝石が形成された。この実験の結果から、AOA内においても高温下で、同様の反応が起こった可能性があることが示された。また、このような再加熱により、上記の平衡凝縮計算との差や、AOAに二種類の高Ca輝石が存在することも説明することが可能である。

Diel tuning of photosynthetic systems in ice algae in Saroma-ko Lagoon, Hokkaido, Japan.
Shimpei Aikawa; Hiroshi Hattori, Dr.; Yasushi Gomi, Dr.; Kentaro Watanabe, Dr.; Sakae Kudoh, Dr.; Yasuhiro Kashino, Ph.D.; Kazuhiko Satoh, Dr.

アイスアルジーは、季節海氷域における主要な一次生産者である。低緯度季節海氷域においては、海氷底部に於いても光の日周変化が起こる。本研究では、光環境の日周変化に対してサロマ湖のアイスアルジーの光合成機構がどのように応答しているかについて、非破壊的蛍光法(PAM)により解析した。その結果、最大電子伝達速度は正午頃に最大になり、明け方や夕方は低かった。また、強光阻害を回避する機能の活性を示す非光化学的消光の最大値も、同様の変化であった。これらのことから、光合成能が光強度の日周変化に合わせて協調的に調節されることが、低温・弱光下におけるアイスアルジーの効率的な光合成に本質的であると結論した。

Influence of thin liquid layers on polar ice chemistry: implications for Earth and planetary Science
Christopher S Boxe, B.S., M.S., M.S., Ph.D.; Alfonso Saiz-Loepz, B.S., Ph.D.

極域の積雪および海氷は境界層での化学過程に主要な役割を果たしていて、そのシステムの重要性への認識が着実に増している。しかし、これまでの研究は往々にして、極域環境を単一の孤立したシステムとしてしか、見なしていない。本論文は薄い液層(あるいは疑似液層やブライン)の概観を述べ、その機能をまとめたものである。たとえば極域積雪での光化学における薄い液層の果たす役割において、野外観測データが室内実験やモデリングによりいかに導き出せるかといった観点から議論した。特に重要なのは、積雪のなかでの希ガスのふるまいを支配し、空中に解放する物理化学過程を明らかにしたことである。これらの知見が現在および将来の惑星科学に果たす影響について推論した。