<Vol.4(1) の掲載論文>
Combined use of InSAR and GLAS data to produce an accurate DEM of the Antarctic ice sheet: Example from the BreivikaeAsuka station area
Yamanokuchi Tsutomu, Doi Koichiro, Shibuya Kazuo
衛星搭載のICESat/GLASレーザー高度計、及びERS-1/2を用いた干渉SARによるDEMから得られた東南極Breivika-Asuka基地間の氷床表面高を、1987年のJARE28次隊による現地観測結果と比較し、その精度を検証した。高度300mから1000mの検証区間内におけるGLASとJARE28の結果は±12.4mで一致する結果となった。
干渉SARによるDEMは観測の空間密度は高いものの、そのままでは高さ方向の誤差が大きいため、このGLASデータを誤差補正に用いる手法を新たに開発した。その手法を適用した結果、適用前にJARE28に対して±284mあった誤差が±22.3mまで減少した。この値はGLASの約2倍であるが、InSARDEMが面的にDEMを得られること、1ペアのInSAR画像しか用いていないこと、比較的急峻な地形の地域であることを考えると、妥当なものである。
Spatio-temporal changes in surface air temperature in the region of the northern Antarctic Peninsula and south Shetland islands during 1950-2003
Viktorie Stastna
南極半島北部およびサウス・シェトランド島8基地の1971−2000年の間の地上気温の時系列を解析し、トレンドを求めた。
地上気温トレンドから、3つのグループに分け、南部(ヴェルナルツキー、ロゼラ)、東部(エスペランザ、マランビオ)そして北部(ベリングスハウゼン、プラツ、フライ、オヒギンス)とした。南極半島東岸と西岸では、異なった地上気温のトレンドが得られ、半島北岸、北部では地上気温変化はわずかであった。最低の地上気温と最大の温暖化は東岸、秋季にみられた。
最も顕著な季節ごとの昇温トレンドは冬に、そして次は秋にみられた。この温暖化は、大気循環場、海氷の張り出しや海洋過程の変化に関連しているようだ。
Seiches in Lutzow-Holm Bay, Antarctica
Akira Nagano, Yutaka Michida, Minoru Odamaki, Kazunori Suzuki, Jun Ogata
2004年12月26日および2005年3月28日,スマトラ沖地震によって励起された水位振動を南極リュッツオ・ホルム湾の潮位データを用いて調べた.周期約1時間と約3時間の振動が2日以上続いた.周期1時間の成分が周期3時間の成分を繰り返し励起し,卓越周期の遷移が起こる.これらの卓越周期は,海底地形データから計算した地形に束縛された波のモードの周期に近く,初期に湾内の浅瀬に局在した擾乱が湾全体に広がることで卓越周期の遷移が起こると解釈しうる。
Glaciation history of Queen Maud Land (Antarctica) reconstructed from in-situ produced cosmogenic 10Be, 26Al and 21Ne
Marcus Altmaier, Ulrich Herpers, Georg Delisle, Silke Merchel, Ulrich Ott
南極、クイーンモードランドのWohlthat 山地において、石英に富む54個の岩石試料を採取し、その中の原位置宇宙線生成核種10Be、26Alおよび21Neの測定によって、この地域の岩盤の表面露出年代をはじめて決定した。結果は、“温暖な” 鮮新世の期間と“寒冷な” 現在への移行期間においてクイーンモードランドにおける氷厚の変化は穏やかであったとする氷床変化モデルの考え方に一致する。サンプルから推定された非常に低い侵食速度(100万年で5cm以下)は、極めて寒冷、あるいは非常に乾燥した氷床底面環境の下に限られるものなので、過去800万年間、温暖で湿潤な気候環境が長く継続したとするシナリオは考えられない。したがって、このデータは、鮮新世の温暖期に東南極氷床が一時的に大規模に後退したとする立場の見解を支持しない。
Reproductive mode of Polygonum 1 viviparum depends on environment
Miki Tomita, Takehiro Masuzawa
周北極要素の植物であるムカゴトラノオは、花茎に有性生殖器官の花と無性生殖器官のムカゴをつける。分布の南限にあたる日本の南アルプスにはカール地形が存在し、地形や消雪時期の違いによりいくつかの植物群落がみられる。この中でムカゴトラノオは土壌が安定し、地表面に腐植質土層が存在する場所に生育していた。ムカゴトラノオの生育する群落の消雪時期の遅い群落では、花茎につける花の数が減少し、植物体が小さく、繁殖を行わない個体が多かった。また、花茎をつけて繁殖を行うために、多量のデンプンを消費していることが、地下茎のデンプン濃度の比較により明らかとなった。これらは生育可能期間の短い環境に対する応答であることが示唆された。
Communities of algae and cyanobacteria on the glaciers in west Greenland
Jun Uetake, Takeshi Naganuma, Martin Bay Hebsgaard, Hiroshi Kanda, Shiro Kohshim
西グリーンランドの二つの氷河(Qaanaaq氷河、Russel氷河)において、衛星画像の比較から北東部に位置するQaanaaq氷河消耗域は黒く汚れた表面であるのに対して、中西部のRussel氷河では汚れが少ない事が明らかとなっていた。本研究では、これらの原因の1つに雪氷微生物が関与していると推測し、両氷河での藻類、シアノバクテリアの群集に関する分析、比較を行った。藻類、シアノバクテリアの群集は両氷河で異なっており、これらの総生物量は寒冷であるQaanaaq氷河で高かった。Qaanaaq氷河は主に緑藻類が多いのに対して、Russel氷河ではシアノバクテリアが優占していた。寒冷で融解期間が短いにも関わらず、Qaanaaq氷河での生物量はRussel氷河の同高度帯よりも2.35倍大きく、この事はQaanaaq氷河においてより多くの一次生産がある事を示した。気温、栄養塩濃度、クリオコイトホールの構造、緑藻、シアノバクテリアの生産性の影響を考慮して、これらの違いが何故起きたのか考察をした。
Microbial diversity across a Canadian sub-Arctic, isostatically rebounding, soil transect
J. T. Trevors, P. G. Kevan, L. Tam
海岸から内陸への土壌トランセクトにおいて、後氷期におけるアイソスタティック・リバウンドで隆起した土壌環境の微生物多様性が、群集レベルの基質資化分析と16SrDNA真性細菌多様性分析を用いて2年以上調べられた。基質資化分析の結果、海岸から森林への砂質から泥炭質土壌のトランセクトに沿った位置とは関係なく、Shannon diversity indexは約3で、微生物多様性は事実上同じであった。PCR-DGGE分析による同indexは、土壌の性質や採集年の違いによって約0.6から約2の間の値をとった。遺伝的多様性に関係なく、土壌は似たような代謝特性を示した。これは、トランセクトに沿った各地点における、種の分布の冗長性や機能的、生理的な無関係性の好例である。