PSニュース No.13
<Vol.4(2) の掲載論文>
Xth SCAR International Biology Symposium on “Antarctic Biology in the 21st Century ― Advances in and beyond IPY―”: A brief overview
Mitsuo Fukuchi, Kathleen Elizabeth Conlan
「21世紀の南極生物学−国際極年からの飛躍―」というテーマのもとで、第10回南極研究科学委員会国際生物シンポジウムが、2009年7月26日ー31日に北海道大学学術交流会館にて開催された。6つのサブテーマの下で113件の口頭発表と122件のポスター展示発表が行われた。本特集号はこれらの発表から、”Polar Science”誌の編集長の下で、6人のゲスト編集者により、同誌の編集手順に沿って編集された合計24編の論文(総説6編、研究論文18編)を掲載している。
‘Antarctic biology in the 21st century ― Advances in, and beyond the international polar year 2007?2008’
Michael Stoddart
国際極年2007-2008年(IPY)は、南極のサイエンスにおいて生物学の重要性を示す絶好の機会となった。IPYで推薦された南極域の生物学プロジェクトの7課題は国際プロジェクトであり、その4課題は海洋生物分野、他に生物学的な侵入、微生物生態学、陸上生態学の分野であった。 また、包括的な「南極域における進化と生物多様性」プロジェクトであった。国際極年2007-2008年を通して、これらのプロジェクトは将来の環境変動への南極の生物の応答を理解するための確固たる遺産を残した。まさしく南極生物学は機が熟し、将来の研究野「基礎を確立した。
Evidence for widespread endemism among Antarctic micro-organisms
Wim Vyverman, Elie Verleyen, Annick Wilmotte, Dominic A. Hodgson, Anne Willems, Karolien Peeters, Bart Van de Vijver, Aaike De Wever, Frederik Leliaert, Koen Sabbe
微小生物には分散の制限はなく、群集の構成は単に環境傾度に沿った種の選別の結果であると仮定されてきた。しかしながら、近年のいくつかの微細藻類グループの研究はこの見解に挑戦している。形態形質ベースの珪藻カタログの広汎な分析は、緯度方向の環境傾度のもとの地理的な分布境界の存在を示した。大型生物において認識されてきた生物地理的な地域を反映して、南極と亜南極地域の珪藻フロラには強い地域性が示された。同様に、分子系統学的研究により、ラン藻と緑藻において多くの南極固有種が存在することが明らかになった。いくつかのグループでは、南極大陸内でのおそらく3億3千万年前にまでさかのぼる過去の進化史を持つことが示唆された。
Estimating the biodiversity of the East Antarctic shelf and oceanic zone for ecoregionalisation: Example of the ichthyofauna of the CEAMARC (Collaborative East Antarctic Marine Census) CAML surveys
Philippe Koubbi, Catherine Ozouf-Costaz, Anne Goarant, Masato Moteki, Percy-Alexander Hulley, Romain Causse, Agnes Dettai, Guy Duhamel, Patrice Pruvost, Eric Tavernier, Alexandra L. Post, Robin J. Beaman, Stephen R. Rintoul, Toru Hirawake, Daisuke Hirano, Takashi Ishimaru, Martin Riddle, Graham Hosie
エコリージョンとはある生物種の生息域や、群集の地理的な拡がりの予測によって定義される中規模な集合体を含む地域である。我々は海洋環境において、底生あるいは沿岸性魚類のような比較的長命の種によって、エコリージョンをより容易に定義することが出来ると想定した。変動性が高い海洋域では不確かな情報が多く、特に中深層における知見は乏しいのが現状である。生息環境や生息海域の変化はプランクトンから魚類、あるいは高次捕食者を新たな集合体に導くと考えられる。そこで我々の目的は南極海における生物多様性のパターンとその時間的変化を理解することである。
Terrestrial biodiversity in Antarctica ― Recent advances and future challenges
Peter Convey
初期の探検期より、南極における陸上生物相の主要な構成要素のほとんどが知られてきてはいるが、今日に至ってもその生物相に関する記載は驚くほど乏しい。その中でもレフェジアなどでは、かなり特有な生物相が保持されていることが明らかとなっている。南極陸上生物相の地域隔離とその持続に関しては十分に理解されてこなかったが、近年の学際的研究によって、南極陸上生物相の特徴に関する新しい証拠が得られつつある。この発展段階にある南極の生物地理学的な歴史の理解に加えて、南極の陸上生物相は現在、南極大陸の一部地域で起きている気候変動への応答といった課題や、生息場へ侵入する人間の影響などの問題に直面している。
Antarctic sea ice change and variability ― Physical and ecological implications
Robert A. Massom, Sharon E. Stammerjohn
南極海における海氷は現在、全般には徐々に増加傾向にあるが、地域的には大きな時空間変動が存在する(最も顕著な海氷変動は季節変動である)。南極海における海氷が生物学的に重要であることは明らかになってきており、熱力学と動力学の割合の重要性が重視されている。海氷面積の変動はそれぞれの地域において、生態系の機能と構造に直接的、非直接的に影響を与えており、現在知られている中では、特に西南極半島域で生物学的な影響が顕著である。海氷の減少が海洋食物網の複数の階層に複雑な影響を与え、生態系の連続的な変動となり得る多くの証拠が見出されている。海氷変動が、基礎生産、ナンキョクオキアミ、魚類、海洋哺乳類、海鳥へ与える影響がそれぞれ研究され、増加と減少のどちらの要因にもなることが示されている。本レビューでは、近年のポリニアの変化と定着氷の変動の調査結果を示し、また、相反する影響を持つ極端な出来事の概要も示す。将来のシナリオとしては、例えば2100年には海氷が減少している予測に基づけば、暴風、波浪、氷山、降雪量が増加する可能性が示されている。しかしながら、現在までのところ、海氷が関連する変動や生物学的な応答は未だ未解明な点も多いことも記しておく。
Geochemical features and sources of hydrocarbons and fatty acids in soils from the McMurdo Dry Valleys in the Antarctic
Genki I. Matsumoto, Eisuke Honda, Kazuhiko Sonoda, Shuichi Yamamoto, Tetsuo Takemura
南極マクマードドライバレーの土壌中に存在する炭化水素および脂肪酸の地球化学的特徴と分子レベル炭素同位対比(CS-δ13C)を明らかにし、それらの起源生物とそれらの環境について推定を行った。土壌中の全有機炭素 (TOC)濃度は極めて低く生物活動に対する極限環境を反映していることが示された。長鎖n-アルカン(n-C20 ? n-C29)のCS-δ13C値は-30.4−-26.6‰であった。短鎖n-アルカノイック酸(n-C14 ? n-C18)のCS-δ13C値は-27.7−-21.7‰で,長鎖n-アルカノイック酸 (n-C20 ? n-C30)のそれらの値(-32.5−-25.3‰)よりかなり高かった。これらの地球化学的特徴およびCS-δ13C値より,長鎖成分は現在の地衣類および氷期以前に生息した維管束植物の分解物、短鎖成分は微細藻類やシアノバクテリアの分解物に由来することが示された。CS-δ13C値からは氷期以前の裸子植物やC4植物の寄与があることが示唆された。
The limnology and biology of the Dufek Massif, Transantarctic Mountains 82° South
Dominic A. Hodgson, Peter Convey, Elie Verleyen, Wim Vyverman, Sandra J. McInnes, Chester J. Sands, Rafael Fernandez-Carazo, Annick Wilmotte, Aaike De Wever, Karolien Peeters, Ines Tavernier, Anne Willems
南極大陸の高緯度内陸部に位置するDufek Massifの湖沼と、そこに見られる生物を調査した。ここには二つのドライバレーがあり、地球上最南端の生物生息地となっている。優占する生物はラン藻で、その多様性は観察されてきた南極湖沼のどこよりも低い。緑藻、ケルコゾア類、バクテリアは存在するが、珪藻は風で飛ばされてきたと思われる一枚の殻が見つかっただけであった。コケ類を欠き、地衣類は一種類のみが見つかった。三種類のクマムシ、ワムシを含む後生動物は見いだされたが、節足動物と線虫は見つからなかった。これらの単純な動植物群集は、この地域のきわめて厳しい環境のために、低緯度南極に通常存在する要素のほとんどを欠く。
Bacterial communities in two Antarctic ice cores analyzed by 16S rRNA gene sequencing analysis
Takahiro Segawa, Kazunari Ushida, Hideki Narita, Hiroshi Kanda, Shiro Kohshima
南極アイスコア(氷期のヤマト山脈の氷試料と間氷期のミズホの氷試料)中に含まれるバクテリアの16S rRNA遺伝子解析による群集構造解析をおこなった。その結果,ミズホ試料ではFirmicutesが優占種であったが,氷期のヤマト試料ではGamma proteobacteriaが優占種であった。検出されたバクテリア種数とシンプソン多様性指数(1/D)は氷期のヤマト試料に比べ間氷期のミズホ試料の方が高い結果となった。本研究から,間氷期と氷期で検出されるバクテリアの種類や起源に大きな違いがあり,南極氷床アイスコア中バクテリアを古環境指標として利用できる可能性が示された。
Penguin response to the Eocene climate and ecosystem change in the northern Antarctic Peninsula region
Piotr Jadwiszczak
始新世に生息していた南極のペンギンはLa Meseta累層(Seymour 島、James Ross盆地)からのみ知られている。これらのペンギンは、始新世の末期に形成された地層内でもっとも数が多く、また種類も多かった(少なくとも10種が存在)。こうしたペンギンの個体数、種数の増加は、この時期にみられた気候の顕著な寒冷化と氷河発達直前の生物相の変化に関連している。この時期に新しく出現した種はいずれも小型で、空いたニッチを埋めるようにこの地域で分岐したと考えられる。さらに興味深いことに、La Meseta 累層のペンギンに顕著な変化が見られるのと同時に、栄養塩の湧昇強度が強まったことが化学的指標から示唆された。
The water-born protein pheromones of the polar protozoan ciliate, Euplotes nobilii: Coding genes and molecular structures
Adriana Vallesi, Claudio Alimenti, Graziano Di Giuseppe, Fernando Dini, Bill Pedrini, Kurt W?thrich, Pierangelo Luporini
南北両極の沿岸水域に見られるEuplotes nobiliiは、その栄養成長と交配の制御を、水溶性の特別な信号タンパク質(フェロモン)の分泌に依存している。我々は、転写活性の高い大核からこれらのフェロモンをコードする遺伝子をクローニングし、遺伝子配列の全長を明らかにした。これらの配列はすべて、252から285塩基対の翻訳領域を持ち、成熟したタンパク質として細胞外環境に放出される前に一部を切断されることが必要なフェロモン前駆体である。5’、3’両末端の非翻訳領域は、翻訳領域の2,3倍の長さを持ち、保存性が高い。この部分はおそらく、フェロモンの遺伝子発現のメカニズムにおいて、活性を獲得するために取り除かれる筈だったイントロン配列を取り込んだものと思われる。
Molecular adaptations in Antarctic fish and bacteria
Roberta Russo, Alessia Riccio, Guido di Prisco, Cinzia Verde, Daniela Giordano
南大洋に生息する海洋生物は冷たい海水中の高い酸素濃度に曝される。このため、寒冷適応した生物は酸化ストレスへの様々な防御メカニズムを発達させてきた。本論文は、南極に生息するノトセニア亜目魚類と好冷性のバクテリア Pseudoalteromonas haploplanktis TAC125の寒冷でかつ酸素濃度の高い環境への適応について取りあげた。幅広い種類の南極の生物が過去の気候変化に対して適応してきた分子的メカニズムを理解することで、南極の生物の生理的機能、分布パターン、生態系バランスが現在見られる地球規模での気候変化にどのように適応できるかを予測することが可能になると考えられる。
Shell structure characteristics of pelagic and benthic molluscs from Antarctic waters
Waka Sato-Okoshi, Kenji Okoshi, Hiroshi Sasaki, Fumihiro Akiha
南極海に生息する浮遊性巻貝 Limacina helicina antarctica forma antarctica の貝殻外表面は滑らかであるが、螺層が6-7巻きの大型個体では、もっとも外側の巻きに明瞭な肋がみられた。本種の殻の厚さは非常に薄く、殻径が1.4 mm の個体で約5-7 μm だった。走査型電子顕微鏡で観察した結果、貝殻の大部分は交差板構造で構成されていた。優占する底生性のオキナガイ科の二枚貝 Laternula elliptica の殻も薄く、殻長19 mm の個体で約99-132 μm だった。本種の石灰化層は2層あり、外側は厚く、均一構造(粒状構造)で内側は薄く真珠構造であった。このような貝殻構造の特徴について、これまでの結果や南極海への適応という観点から考察した。
Metagenomic analyses of the dominant bacterial community in the Fildes Peninsula, King George Island (South Shetland Islands)
Choon Pin Foong, Clemente Michael Wong Vui Ling, Marcelo Gonz?lez
南極キングジョージ島Fildes半島の湖沼、河川、氷河の堆積物試料におけるバクテリア群集を決定した。16SrDNAのPCR-DGGE法によって分析され、計299のDNA断片の配列をもとに系統樹が描かれた結果、卓越する細菌類のグループやサンプル間の細菌群集の多様性の概略が明らかになった。湖沼からの10サンプルは、異なる優占細菌種を持っていた。興味深いことに、OTUの15%は、データベースにある既知の系統とは異なっていた。あるOUTは、GenBankにあるシーケンスと90%以下の類似度しかなく、おそらく新種であると考えられる。一方、大部分の細菌の16SrDNA配列は、地球上のあらゆる場所に見つかる細菌のそれときわめて近いことが分かった。
Monitoring and identification of airborne fungi at historic locations on Ross Island, Antarctica
Shona M. Duncan, Roberta L. Farrell, Neville Jordan, Joel A. Jurgens, Robert A. Blanchette
南極、ロス島における歴史上重要な小屋である”Heroic Era”でのエアサンプリングで、菌類の存在、生存能力および冬の生存状況を確認した。小屋の内側と外側では、Hut PointとCape Evansの調査地では、Cape Roydsを除き、内側で菌類が多かった。本調査では、空中浮遊菌類の夏と冬の多様性を示すと同時に、胞子は小屋内部に多いことが示された。今後、極域の重要な遺産を保護し、環境を保全するために、人間が南極へ持ち込んだものでの菌類の繁殖や胞子形成の減少に努める必要がある。
PhAP protease from Pseudoalteromonas haloplanktis TAC125: Gene cloning, recombinant production in E. coli and enzyme characterization
D. de Pascale, M. Giuliani, C. De Santi, N. Bergamasco, A. Amoresano, A. Carpentieri, E. Parrilli, M.L. Tutino
南極の海洋性バクテリアであるPseudoalteromonas haloplanktis TAC125により生産される細胞外酵素について、タンパク質分解酵素の低温適応を調べた。プロテオミクス解析により、その培養液の上澄みからいくつかのタンパク分解活性を同定した。以後の解析にはPhAPプロテアーゼを選び、その遺伝子をクローニングして遺伝子組み換え技術を用い、大腸菌細胞中で生産させた。得られたプロテアーゼの生化学的特徴を調べたところ、酵素は亜鉛依存型のアミノペプチドであり、その活性は典型的な好冷性酵素の特徴を示すことが明らかになった。
The hemoglobins of sub-Antarctic fishes of the suborder Notothenioidei
Daniela Coppola, Daniela Giordano, Alessandro Vergara, Lelio Mazzarella, Guido di Prisco, Cinzia Verde, Roberta Russo
南極の高緯度に生息するノトセニア亜目魚類の生化学的な寒冷適応を理解するために、より温暖な亜南極地域に生息する近縁種との比較が重要である。本論文では亜南極地域に生息するフォークランドアイナメ科のEleginops maclovinus およびウシオニカジカ科のBovichtus diacanthusの血中ヘモグロビン組成を調べた。両種はいずれも南極域の近縁種よりも多い3種類のヘモグロビンを持っていた。ヘモグロビンの多様性は、温暖で、より温度変化の激しい亜南極の環境への応答として維持されてきたのかもしれない。またこのヘモグロビンには酸素親和性およびルート効果が高いという特徴があった。これら2つの科は、極前線よりも北の温暖な海域に生息域を確立したのち分岐したという仮説が分子系統学的解析から支持される。
Fine-scale feeding behavior of Weddell seals revealed by a mandible accelerometer
Yasuhiko Naito, Horst Bornemann, Akinori Takahashi, Trevor McIntyre, Joachim Pl?tz
海洋生態系の理解のため、顎加速度計によりウェッデルアザラシの採餌行動を明らかにすること、先行研究で示された棚氷下面での採餌ついて検証することを目的に実験を行った。ウェッデル海アトカ湾棚氷部において3個体に顎加速度計を装着し、2個体から2昼夜のデータを得た。氷山下面に潜水したアザラシの潜水底部で複数ピークの小さい振幅波形タイプ(231回、11.3回/dive、>60m)、中層では大きな振幅波形タイプ(75回、0.5回/dive、<60m)が採餌として記録された。ウェッデルアザラシは積極的に氷山下面を利用し、小型無脊椎動物を採餌していることが示唆された。また鳴音行動に関係すると思われる減衰を伴う波形も検出された。
Comparison of zooplankton distribution patterns between four seasons in the Indian Ocean sector of the Southern Ocean
Kunio T. Takahashi, Graham W. Hosie, John A. Kitchener, David J. McLeod, Tsuneo Odate, Mitsuo Fukuchi
南大洋インド洋区において4シーズン(2004/05、2005/06、2007/08、2008/09)にわたり、同時期、同航路にて連続プランクトン採集器(CPR)を曳航し、表層動物プランクトン群集の経年変化を調査した。表層動物プランクトン群集の現存量は4シーズンを通して極前線海域で増加し、キクロプス目の小型カイアシ類であるOithona similis とカラヌス目カイアシ類(例えばCalanus属、Ctenocalanus属、Clausocalanus属)のコペポダイト幼生が卓越し、全体の50%以上を占めていた。2004/05シーズンには有孔虫の高い現存量が確認された。また2007/08シーズンには尾虫類が卓越した。これらの分類群の年変動は植物プランクトンの現存量が一因である可能性が示唆された。
Molecular taxonomy and identification within the Antarctic genus Trematomus (Notothenioidei, Teleostei): How valuable is barcoding with COI?
A.-C. Lautredou, C. Bonillo, G. Denys, C. Cruaud, C. Ozouf-Costaz, G. Lecointre, A. Dettai
Trematomus属はノトセニア亜目に所属し、南極海に生息する14種類はその進化や生物地理学分野の研究に用いられている。しかし若いステージや破損した試料では形態的な種判別が困難な場合がある。そのため分子生物的手法による種同定の有用性を検証すべく、形態観察、核マーカーおよびCOI領域を用いた種判別の比較および評価を行なった。分子マーカーを用いた分析では、T. vicariusとT. bernacchii、またT. loennbergiiとT. lepidorhinusの区別が困難であった。この2ペアに関しては今後さらなる調査を実施する必要がある。上記2ペアを除いたTrematomus属の種判別にはCOI領域が最も効率的であった。
Zooplankton Atlas of the Southern Ocean: The SCAR SO-CPR Survey (1991-2008)
David J. McLeod, Graham W. Hosie, John A. Kitchener, Kunio T. Takahashi, Brian P.V. Hunt
南極海における連続プランクトン採集器観測(SO-CPR Survey)は、動物プランクトンの種組成、群集構造、そして分布パターンといった基礎データを供給するモニタリング観測として実施されている。SO-CPRチームでは初めて南極海の表層動物プランクトンの分布アトラスを作成した。このアトラスは1991‐2008年の期間にオーストラリア、日本、ドイツ、ニュージーランド、アメリカ、ロシアが採集した22,553サンプルを基に作成されている。これまでに分類された200を超える分類群の中から、出現数の多い50分類群の分布および現存量を示した。このアトラスは今後の南極海動物プランクトンの分布調査において貴重な参考資料となるだろう。
Structure of the pelagic cnidarian community in Lutzow-Holm Bay in the Indian sector of the Southern Ocean
R. Toda, M. Moteki, A. Ono, N. Horimoto, Y. Tanaka, T. Ishimaru
2005と2006年1月の,リュツォ・ホルム湾沖におけるクラゲ類の群集構造を明らかにした。2005年におけるクラゲ類を含む大型動物プランクトンの個体数密度/炭素現存量は,オキアミ類を除いた場合,2006年よりはるかに大きかった。両年で31種が採集され,このうちSolmissus incisaは南大洋で初めて確認された。クラスター解析から表層(0-200 m),中層上部(200-500 m),中層下部および深層(500-2,000 m)の3つの主要な群集が明らかになった。2006年の表層・中層下部および深層における個体数密度/現存量の減少は低い基礎生産の受けたと考えられが,中層上部では両年で安定していた。
What shapes edaphic communities in mineral and ornithogenic soils of Cierva Point, Antarctic Peninsula?
G. Mataloni, G. Gonzalez Garraza, M. Bolter, P. Convey, P. Fermani
鉱質土壌3点とornithogenic土壌4点をCierva岬で2006年夏に採取し、土壌に生息するバクテリア、微小藻類そして動物群集と生物・非生物的特性との関連性について調査した。その結果、南極の土壌は複雑かつ多様な系であることが示唆され、生物間相互作用は以前考えられていたよりも、時空間的な群落の変動に対して強く、より直接的に影響することが考えられた。
Archaeal and bacterial community structures in the anoxic sediment of Antarctic meromictic lake Nurume-Ike
Norio Kurosawa, Shota Sato, Yutaka Kawarabayasi, Satoshi Imura, Takeshi Naganuma
南極Langhovde地区に存在する部分循環湖、ぬるめ池の底泥におけるアーキアとバクテリアの群集構造を、16S rDNAクローン解析法により調べた。アーキア由来の205クローンは、わずか3つの系統(phylotype)から構成され、そのうちのひとつ、Marine benthic group-Dと呼ばれるクローンだけで、アーキア全体の93%を占めていた。一方バクテリア由来の312クローンは、Proteobacteria、Planctmycetales、Cyanobacteria、Actinobacteriaなどから構成される53系統に分類され、非常に多様性に富んでいる事がわかった。また、約半数のバクテリアのクローンは、既知種との相同性が非常に低く、新属新種に由来する未培養クローンである事がわかった。