Vol.9(1) には、以下の論文が掲載されています。
Recent advance in polar seismology: Global impact of the International Polar Year
Masaki Kanao, Dapeng Zhao, Douglas A. Wiens, Eleonore Stutzmann
最近の極域研究で最も興味深い発議は、2007−2008年に実施された国際極年(IPY)である。IPYは、極域で高品質データを取得するために多大な努力を払った地震学者コミュニティを増やすことに貢献した。また、汎地球的事項に関連した科学的目的を達成するために極域の地震計網をかなり発展させる非常によい機会であった。このようなことを念頭に、IPYの実りある成果として極域地震学・雪氷圏地震学の最近の進展に関するPolar Science特別号を企画し出版する。
Long-term accumulation and improvements in seismic event data for the polar regions by the International Seismological Centre
Dmitry A. Storchak, Masaki Kanao, Emily Delahaye, James Harris
国際地震センター(ISC)は、世界中の62の研究所や実務団体により資金支援を得て運営されている非政治的かつ非営利的機関であり、極域を含む世界中の130の関連機関からの報告に基づき、グローバルな地震活動の最終的な要約としてのISC Bulletin作成の責務を担っている。ISCはアメリカ地質調査所(USGS)の地震情報センター(NEIC)と協力し、国際地震観測点のデータベースを作成している。また、国際地震学及び地球内部物理学連合(IASPEI)の参照イベントリストの維持も行っている。新しい出版物としてのISCイベント関連目録により、各ユーザは自然的・人為的双方を原因とする特殊な地震イベントを記載した科学論文を参照することができる。この論文では、北極・南極双方の地震イベントに関連した出版物やサービスについて紹介する。またデータを報告した関連機関を信頼し、ISCに集積された極域データについてまとめた。
Search for latitudinal variation of spectral peak frequencies of low-frequency eigenmodes excited by great earthquakes
Hironobu Shimizu, Yoshihiro Hiramatsu, Ichiro Kawasaki
Incorporated Research Institutions for Seismology (IRIS)のSTS-1地震計ならびにGlobal Geodynamics Project (GGP)の超伝導重力計で記録された2004年スマトラ-アンダマン地震、2010年チリ地震、2011年東北地方太平洋沖地震の連続波形データをスペクトル解析し、0S0、1S0、0S2のピーク周波数の緯度依存性を調べた。その結果、0S0、1S0、0S2のピーク周波数の緯度依存性は検出されなかった。本研究で観測された0S0、1S0、0S2のピーク周波数はPREMにおけるピーク周波数と同じであった。
A quantitative evaluation of the annual variation in teleseismic detection capability at Syowa Station, Antarctica
Takaki Iwata, Masaki Kanao
南極・昭和基地における,遠地地震検知能力の年変化について解析を行った.この年変化の存在は,過去の研究が既に報告している.その発展として,本研究では,年変化の定量的評価を行い,それと気温との関係を調べた.まず,観測した全地震のマグニチュード別頻度分布を表現した確率分布モデルを構成する.そして,このモデル内に含まれる,地震検知能力を定量化したパラメータの時間変化を「ベイズ平滑化」と呼ばれる方法で推定した.これに加え,昭和基地の気温時系列を説明変数とし,それが検知能力の年変化へ与える影響を考慮した場合についても解析を行った.統計的なモデル比較の結果,気温の影響を考慮したモデルの方が,考慮しなかったものよりも有意によく,地震検知能力と気温との相関が示された。
Infrasound array observations in the Lutzow-Holm Bay region, East Antarctica
Takahiko Murayama, Masaki Kanao, Masa-Yuki Yamamoto, Yoshiaki Ishihara, Takeshi Matsushima, Yoshihiro Kakinami
南極で観測される特徴的なインフラサウンド波により、南極大陸と南大洋の表層環境変動に関連した物理相互作用が解明される。東南極昭和基地では、2008年より単一センサーで連続観測が始まり、取得データには一年を通じて波浪による微気圧シグナル(microbaroms)が明瞭に記録された。2013年夏にリュツォ・ホルム湾に複数の野外観測点が設けられ、2種類の径のアレイが昭和基地(100m間隔)と大陸氷床S16(1000m間隔)に、単一センサーが露岩域2か所に設置された。この新規アレイは南大洋の波浪シグナルの伝搬方向と周波数特性を明瞭に検知した。波浪シグナル測定は、他の海洋学・地球物理学データを補い、海洋波浪による気候変動を特徴づける上で有効である。波浪シグナルに加えて、局所地震やロシア南部の隕石爆発による衝撃波等が観測された。南極でのインフラサウンド連続測定は、南半球高緯度帯の気候変動と共に、地域的な環境変化をモニターする新たな指標となりうる。
On-ice vibroseis and snowstreamer systems for geoscientific research
Olaf Eisen, Coen Hofstede, Anja Diez, Yngve Kristoffersen, Astrid Lambrecht, Christoph Mayer, Rick Blenkner, Sverrir Hilmarsson
氷上の長距離地震トラバース(>100 km)のための雪上ストリーマケーブル付きバイブロサイス(起震車)システムを開発し、2010-2014年に南極氷床と棚氷域で試験を行った。ここでは以下の2種類のバイブロサイス震源を議論する。1)Failing Y-1100;周波数帯域10-110 Hzで120 kNのピーク力、2)IVI EnviroVibe;周波数帯域10-300 Hz で66 kNのピーク力、をそれぞれ保有する。全ての実験は実績のある60チャネル、1.5 km長の雪上ストリーマケーブルを用いて記録し、また震源の移動は以下の3種類を用いた。1)Failing型は車輪ごとスキーに載せ、スノートラクタで牽引した。2)EnviroVibe 型は自己推進式履帯では軟雪は困難であり、3)ポリスチレン製橇に載せてトラックで牽引した。このシステムは氷床下及び海底下の堆積層、並びに氷河堆積層の検知に適し、データの質は海底の地球物理探査や陸上の爆破地震動探査と同等である。ストリーマの大きなオフセット径は、測線上の急峻な氷床下地形のイメージングのためのレーダシステム限界を克服した。
Evidence of unfrozen liquids and seismic anisotropy at the base of the polar ice sheets
Gerard Wittlinger, Veronique Farra
南極とグリーンランドの氷床に設置した広帯域地震計データにより、氷床の地震波速度を求めた。氷と岩石の境界並びに氷床内部でのPS変換波とその多重反射(P波レシーバ関数)解析により、氷床のP波速度(Vp)及びS波との比(Vp/Vs)を推定した。極域氷床は、厚さが変化しかつ平均的な氷の地震波速度を持つ「上層」(およそ全体の2/3の厚さ)、並びに厚さが一定かつ平均的なP波速度と25%小さいS波速度をもつ「下層」の、2層構造として得られた。後者は‐30°Cの等温線とほぼ対応している。P波レシーバ関数の理論波形計算により、「下層」には強い地震波異方性と低いS波速度が必要である。また氷の結晶内におけるC軸の縦方向への選択配向により異方性が形成される。低いS波速度は、氷の内部に埋没した既溶融した粒子の結合または化学抽出による不凍液の存在が原因と考えられ、氷結晶の強い選択配向と不凍液は氷床の底面滑りを助長する可能性がある。
Numerical modeling of seismic waves for estimating the influence of the Greenland ice sheet on observed seismograms
Genti Toyokuni, Hiroshi Takenaka, Masaki Kanao, Seiji Tsuboi, Yoko Tono
2009年に発足したGLISNプロジェクトにより,グリーンランド周辺には多数の地震観測点が新設された.従来この地域には観測点が極めて少なかったため,今後の地震学的研究は本観測網のデータに負うところが大きいと期待されている.一方,本観測網の地震波形記録を精度よく解析するためには,厚い氷床がどのように波形に影響を及ぼすかを見積もっておく必要がある.本論文では,グリーンランド氷床の地形・厚さ分布モデルを用いて,周期2 Hzまでの現実的な弾性波伝播の数値シミュレーションを行った.構造モデルや震源位置を様々に変えた数値実験の結果,震源が氷床直下にある場合,氷床内にトラップされたS波によって形成される特徴的な波群が見いだされたため,これを「Le波」と命名した。
Ice melting and earthquake suppression in Greenland
M. Olivieri, G. Spada
グリーンランド氷床は、この地域の地震発生を抑制する原因になることが示唆されてきた。いくつかの例外はあるが、観測された地震活動はグリーンランドの大陸縁辺に沿ってのみ発生し、氷床縁辺とほぼ一致している。このパターンは、地震抑圧仮説をさらに検証することにつながる。本研究では、氷床融解・氷河後退による地殻隆起、及び地震発生に関する新しい証拠を集めて、氷床加重と地震抑圧との関係について再評価を行う。グリーンランドの地震の時空間分布からは、主に厚い氷層が欠落しかつ現在急激な氷床融解が起こっているところに、地震発生場所が限られることを示した。グリーンランドの地震活動と氷床融解との間に、明らかな関連性は見つかっていない。しかしながら、地震位置と震源の深さからは、氷河後退による地殻隆起による地域スケールでの中規模の地殻内地震、および現在進行中の氷床融解による局所的な浅い小規模の地震活動、の2つの異なる支配的な発生メカニズムが示唆される。
Seismic explosion sources on an ice cap - Technical considerations
Alexey Shulgin, Hans Thybo
氷の下の地殻構造を調べるための制御震源による地震探査技術は成熟している。最近、東部-中央グリーンランド氷床上で、発破震源を用いた屈折法・広角反射法地震探査を行った。全ての発破点の取得データは高品質であり、地殻全体の地震波モデルが求められた。この技術を応用する際の重要な課題は、震源の制御である。本論文では氷床上での爆破震源の効果に関するデータを示す。氷床は非常に大きなエネルギーをトラップし、強いice waveとして観測される。また氷床から地殻に透過するエネルギーは小さく、信頼できる地震信号を得るためには、通常の陸上での探査よりも大きな爆薬量を要する。氷床下の基盤では反射係数が大きく、強い多重反射波を生成して後続波を隠してしまう。この効果は、氷床上での地震反射測線でのデータ収録に大きく影響する。我々の実験からは、爆薬の適切な深度の確定、及び発破坑を丁寧に塞ぐことが必須と言える。
Seismic and density heterogeneities of lithosphere beneath Siberia: Evidence from the Craton long-range seismic profile
E.A. Melnik, V.D. Suvorov, E.V. Pavlov, Z.R. Mishenkina
シベリア地域で爆薬を用いた人工地震実験データにより推定された上部マントル構造は、8.0?8.5km/sの第1層、8.6?8.7 km/sの第2層、及び~8.5 km/sの第3層をもつ。第2層はその高速度から判断し、高密度のエクロジャイトから成ると思われる。第2層は厚さの変化が顕著でその底はリソスフェア底部に対応し、第3層はアセノスフェアに対応する。水平方向の速度・層厚の違いは、主要なテクトニクス単位である西シベリア盆地、ツングースカ盆地とP-T境界における大陸洪水玄武岩、さらにビルユイ盆地やヤクート・キンバーライト地域、等と対応している。西シベリア盆地とビルユイ盆地では、アイソスタシーを示す厚い堆積層及び薄い地殻が存在し、ツングースカ盆地の深い基盤岩と地殻内部の不連続面は、大量の溶岩により盛り上がった基盤地形をアイソスタシー補正している。ツングースカ盆地下のマントル内マグマ活動の履歴として、「エクロジャイト層」が残っていると解釈できるが、既存データだけでこの減衰領域の成因を解明することは出来ない。
Regional seismic wave propagation (Lg & Sn phases) in the Amerasia Basin and High Arctic
Karen Chiu, David B. Snyder
地域的スケールでLg地震波が観測されることは、30?40 kmの厚さを持つ大陸地殻の存在を示唆すると長い間考えられてきた。この研究では、これまでのLg波の伝搬効果を再評価した。 最近の屈折法地震探査やレシーバ関数の研究によると、比較の対象となる地殻の厚さは推定18?41 kmである。本研究では7000の地震・観測点の組み合わせを考慮したが、アメラシア盆地(カナダ盆地とアルファ・メンデレエフ海嶺)を効果的に横切る通常のLg波(0.14?2 Hz)は観測されなかった。しかし、Lg 波とSn 波 (初期 Lg波と呼ばれることもある)の中間の群速度をもつ低周波数(0.035?0.17 Hz)の波が、アメラシア盆地を横切る多くの地震波経路で観測された。 観測されたこれら波群に特徴的な周波数は、北海(North Sea)で特徴的な地殻のように、薄化または挟まれた大陸地殻モデルを伝搬する理論波形と非常によく合っている。このことはアメラシア盆地の大部分が、薄化した大陸地殻と海洋地殻のそれぞれに典型的な厚さの、中間的な値を持つことを示唆している。
Seismicity of the Arctic mid-ocean Ridge system
Vera Schlindwein, Andrea Demuth, Edith Korger, Christine Laderach, Florian Schmid
北極中央海嶺システムは、北極域の地震発生に最も寄与している。しかし遠地及び局所的スケールでの地震活動は、その海嶺が観測点から離れており、あまり調べられていない。この論文では、国際地震センター(ISC)カタログによる35年間の遠地地震と、海底地震計または漂流する氷盤上の地震計による、海嶺に沿う6領域の調査での局所地震記録とを比較して、この海嶺システムの包括的な地震活動を提示する。遠地で観測される地震活動は海嶺の場所により変化し、マグマ供給量の多い地域は無供給の場所より数が多く大きな地震が起こる等、超低速度の拡大プロセスを反映している。M5.5以上の地震は超低速度で拡大する海嶺に沿って共通にみられる。局所的に記録される地震は小規模(M2未満)で、おそらく著しい地形起伏の形成過程を反映している。この局所地震の大きさと割合は、遠地で観測される地震ほどには確認できない。上部マントル内の局所地震は様々な場所で発生しており、震源の深さは拡大速度に依存せずリソスフェアの熱的な状態を反映している。
Enhanced Earthquake Monitoring in the European Arctic
Galina Antonovskaya, Yana Konechnaya, Elena O. Kremenetskaya, Vladimir Asming, Tormod Kvarna, Johannes Schweitzer, Frode Ringdal
この論文では、ノルウェー地震アレイ研究所(NORSAR)と北西ロシア地震研究所(Arkhangelsk and Apatity)との共同研究による初期成果を示す。関連する全研究所の地震観測網で得られた統合データの合同処理により、NORSARの再読取りによる地震報告や包括的核実験禁止条約観測網(CTBT)の国際データセンター(IDC)による再験震イベント(REB)等の標準的な地震カタログと比べて、ヨーロッパ北極域に分布する地震イベント数が顕著に増加した。特にスバールバールやフランツヨゼフランド諸島の北方に位置するガケル海嶺(Gakkel Ridge)で顕著である。さらに、ガケル海嶺沿いの地震の大部分は、海嶺の少し南側に震源が求められた。このことは、海嶺の近傍及び北側に観測点が欠落し、かつ使用した1次元速度モデルが観測される波動伝搬経路の走時を十分に代表していない、ことの影響と思われる。ヨーロッパ北極域の地震活動の特徴は現在でもあまり分かっていないが、適切な共同地震観測網の構築で大きく改善された、と結論づけられる。
Geophysical investigations of the area between the Mid-Atlantic Ridge and the Barents Sea: From water to the lithosphere-asthenosphere system
Marek Grad, Rolf Mjelde, Lech Krysinski, Wojciech Czuba, Audun Libak, Aleksander Guterch, IPY Project Group
第4回国際極年の枠組みにおける「プレートテクトニクスと極地への窓」という国際的研究グループの一部として、大西洋中央海嶺とバレンツ海の間の南スバールバール地域で大規模な地球物理探査が行われた。3測線で屈折・広角反射地震探査が行われ、重力・地震の統合データにより海洋性地殻、大陸-海洋遷移帯(COT)、リソスフェア-アセノスフェア深までの大陸地下構造が得られた。また水中多重反射波のモデリングから、測線下の海中音波速度が求められた。地震波・密度の2次元モデルからは、クニポビッチ海嶺で形成された4-9 km厚の海洋性地殻、明瞭かつ幅の狭いCOT、ローレンシアとバレンシア間のカレドニア縫合帯、及びバレンツ海の30-35 km厚の大陸地殻が得られた。重力モデルから上部マントルの密度と地震波速度に弱い相関が示されたが、海洋と大陸マントルの水平方向の差異は、熱的効果以上に鉱物相変化が支配的なことを示唆している。また地震波速度の深さ変化は、海洋マントル最上部におけるレルゾライト成分、及び大陸地殻下のダナイト成分の存在を示唆している。