PSニュース No.7

Polar Science


<Vol.2(4) の掲載論文>

Localization of VLF ionospheric exit point by comparison of multipoint ground-based observation with full-wave analysis
Mitsunori Ozaki; Satoshi Yagitani; Isamu Nagano; Yujiro Hata; Hisao Yamagishi; Natsuo Sato; Akira Kadokura

VLFエミッションの電離層透過域の動的構造を推定するため、昭和基地周辺3地点において自然VLF波動の無人多地点観測を行った。3地点で同時観測されたVLFエミッションは、その透過域の位置情報を含んだ波動強度、偏波の違いを示した。我々は、精確な電離層透過域を見出すため、ホイスラモード波の地上での波動強度と偏波を理論的に解析し、そして観測結果と比較し、観測結果を説明できる透過域の位置を推定した。オーロラヒスについて解析した結果、電離層透過域の方位は、関連するオーロラの発生方位と一致した。しかし、電離層透過域は、オーロラの発生位置より約数百キロ低緯度側に位置し、降下粒子の磁力線方向と波動レイパスの違いを示唆する結果を示した。

A Method for the Analysis of Ultra-trace Levels of Semi-volatile and Non-volatile Organic Compounds in Snow and Application to a Greenland Snow Pit
Erika von Schneidemesser, B.S.; James Jay Schauer, Ph.D.; Martin M Shafer, Ph.D.; Gayle S Hagler, Ph.D.; Mike H Bergin, Ph.D.; Eric J Steig, Ph.D.

ジクロロメタン液液抽出とGC-MSを用いた雪の融解水から極微量な濃度で存在する有機化合物を定量化する方法を開発した。2005年にグリーンランド氷床の最高点(サミット)の3m積雪ピットからサンプリングされた試料が、この開発した方法で分析され、過去約4年間の有機物のプロファイルがまとめられた。総有機炭素(TOC)、低分子量酸、および微量元素の濃度を含むサポートデータは、確立された方法で決定された。その結果は、低分子量酸が測定されたTOCの最高20%という、主要な割合を占めていたことを示した。ホパン(Hopane)はグリーンランドの雪において初めて定量的に測定された。多環芳香族炭化水素類(PAHs) だけでなくHopaneは非常に低い濃度であり、TOCの0.0002-0.004%だけであった。アルカン酸とalkanoic酸も定量化され、TOCのそれぞれ1%以上と7%以下を占めている。明白な季節パターンは、積雪ピットの有機化合物の特定な種類別には見つけることができなかった。季節パターンが見られないのは、雪が積もってからのプロセスに起因しているかもしれない。

Interpretation of the GRACE Mass Trend in Enderby Land, Antarctica
Keiko Yamamoto; Yoichi Fukuda; Koichiro Doi; Hideaki Motoyama

衛星重力ミッションGRACE(Gravity Recovery and Climate Experiment)から得られる地球重力場の時間変化から、2002-2007年の南極の質量変化の経年トレンドを見積もった結果、3つの地域で顕著なトレンドが観察された。このうち、エンダービーランドの質量の増加トレンドについてはその解釈が明らかでなかったが、JAREによる雪尺測定データおよびICESat (Ice, Cloud and Elevation Satellite) 衛星高度計データとの比較をおこなった結果、GRACEから得られたエンダービーランドの質量トレンドは積雪および基盤からの氷床の流出によって説明可能であることが示された。

Soil organic carbon pools in alpine to nival zones along an altitudinal gradient (4400-5300 m) on the Tibetan Plateau
Toshiyuki Ohtsuka, Ph.D.; Mitsuru Hirota; Xianzhou Zhang ;Ayako Shimono; Yukiko Senga; Minguan Du; Seiichiro Yonemura; Shigeto Kawashima; Yanhong Tang

チベット高原の高山帯上部から植生限界(標高4400 m‐5300 m) において、深度30 cmまでの土壌圏有機炭素(SOC)プールの測定を行った。また綿シートを用いて標高傾度に伴う分解活性の差異を検討した。低標高ではSOCプールは小さく(2.6 kg C m-2, 4400 m)、標高が上がるにつれて増加して4950 mで最大(13.7 kg C m-2)となった。分解活性は植生限界である5200−5300 mを除くと、ほとんど変化しなかった。標高のわずかな違いによってSOCプールや仮比重は大きく変動し、高山ツンドラでのSOCプールの推定において標高傾度に伴う調査が重要であることが示唆された。

Discovery of an ice cave in the Yatude Valley, Langhovde, Dronning Maud Land, East Antarctica
Takanobu Sawagaki, PH.D.; Hideki Miura, Ph.D.; Shogo Iwasaki,Ph.D.

2005-2006年の夏季に,ラングホブデ・やつで沢上流にある氷河ダムの下流側に円形の穴が開いているのが確認された。冬季にこの穴から氷河ダム内に入り,内部が大きな空洞となっていることを発見した。やつで沢は直線的に伸びるU字谷で,氷河ダム直下からはU字谷底がさらに函谷状に浸食された二段構造をなす。氷洞内の側壁も同様に垂直の基盤岩からなり,この函谷に地形的に連続することから,ダム内の空洞は氷河底洪水吐をなしているものと考えられる。これらの事実は,過去および将来において,氷河ダムから排水が発生したりダム自体が決壊したりする可能性を強く示唆し,やつで沢の地形発達や上流の湖の盛衰を考える上で重要な鍵となる。