Vol.9(3) には、以下の論文が掲載されています。
Future changes in precipitation intensity over the Arctic projected by a global atmospheric model with a 60-km grid size
Shoji Kusunoki, Ryo Mizuta, Masahiro Hosaka
1872年から2099年の228年間について水平方向に高解像度の全球大気モデル(60q格子)の3つの実験に基づき、北極圏の降水強度の将来変化を計算した。1872年から2005年の期間は観測された海面水温をモデルに与え、2006年から2099年の期間は第3期結合モデル国際相互比較計画の複数のモデルによるA1B排出シナリオ実験から海面水温を推定値した。北極圏における年均降水量(PAVE)、単純日降水強度指数(SDII)、最大5日積算降水量(R5d)は21世紀末に向けて単調に増加する。北極圏では、気温の1度上昇当たりの水蒸気から降水への変換効率は、PAVEのほうがR5dより大きく、これは熱帯と中緯度と逆である。PAVE、SDII、R5dの増加は、気温の上昇に伴う水蒸気の増加、および非定常渦に伴う低緯度から高緯度への水蒸気の水平輸送の増加に起因する。
Vp/Vs-ratios and anisotropy on the northern Jan Mayen Ridge, North Atlantic, determined from ocean bottom seismic data
Aleksandre Kandilarov, Rolf Mjelde, Ernst Flueh, Rolf Birger Pedersen
北大西洋、北部Jan Mayen海嶺の岩質と地殻進化を調べるため、Vp/Vs比のモデリングと地震波異方性に着目し、海底地震計(OBS)の水平動成分データを解析した。モデリング結果から、海嶺最北部はアイスランドタイプの海洋性地殻から成り、さらにその北側は、拡大場のMohns海嶺で形成された異常に厚い海洋地殻と接している。またVp/Vs-比からは、この領域における斑レイ岩組成と現在の温度場に、変化があることを示唆している。異方性解析からは、Jan Mayen海嶺に沿う方向にS波の速い成分が確認された。この異方性のパターンは、最も単純には海嶺に沿って貫入したダイクと解釈され、そのマグマ活動は初期漸新世以降の弱い横ずれ型断層の発達過程に関連した可能性がある。
Contrasting patterns in lichen diversity in the continental and maritime Antarctic
Shiv Mohan Singh, Maria Olech, Nicoletta Cannone, Peter Convey
シルマッハ・オアシス(大陸性南極、クイーンモードランド、以下SO)、ビクトリアランド(同、ロス海地域,以下VL)、アドミラルティー・ベイ(海洋性南極、サウスシェトランド諸島、以下AB)の3地域で、地衣類多様性と生物地理学的パターンに影響する主要因を推測するため、地衣類植物相を系統的に比較した。生物地理学的パターンについては、様々な多変量解析ツールを用いて検討された。SOからは54種、VLからは48種、ABからは244種の地衣類が記載され、そのうち21種は全地域に共通する種であった。SOとVLに分布する地衣類のほとんどは、Buellia属が優占する微小地衣類であった。対照的にABでは、Caloplaca属が優占する多くの大型地衣類が存在していた。SOとVLでは、夏期には積雪が融ける地域でも、広い範囲で肉眼では地衣類が視認できない。ABでは、海岸近くで多くの種および属が見られ、小さなスケールでの多様性のパターンが存在した。本報告で記録された多くの種は調査地内では希産で、南極の固有種であった。
Spatial distribution of micro- and meso-zooplankton in the seasonal ice zone of East Antarctica during 1983-1995
Motoha Ojima, Kunio T. Takahashi, Atsushi Tanimura, Tsuneo Odate, Mitsuo Fukuchi
昭和基地沖Cosmonaut海の季節海氷域におけるマイクロ動物プランクトン (Micro-sized zooplankton: 20-200 μm) とメソ動物プランクトン (Meso-sized zooplankton: 200-2,000 μm) を含む動物プランクトン群集の分布様式を明らかにし、環境要因が与える影響について検証した。キクロプス目やカラヌス目カイアシ類といったメソ動物プランクトンは、調査海域において現存量で優占し、また普遍的に出現し、その分布は一様であった。一方で、マイクロ動物プランクトンである有孔虫や繊毛虫は、南北で分布様式が異なり、環境要因の中で海氷の張り出しが一因であることが示唆された。
Methane excess production in oxygen-rich polar water and a model of cellular conditions for this paradox
E. Damm, S. Thoms, A. Beszczynska-Moller, E.M. Nothig, G. Kattner
近年の温暖化に伴う北極域の海氷減少は、海洋の成層化を強め、栄養塩の制限をもたらし、ひいては酸化した表面水からのメタン生成に重要な役割を果たす。
フラム海峡西部の氷縁域での過剰なメタンについて報告する。フラム海峡西部とノースイースト・ウォーター・ポリニヤを含む79°N線の断面で、酸素、メタン、DMSP、硝酸塩、リン酸塩の濃度と植物プランクトン組成、光透過について測定した。その結果、メタンはその場で生成されていること、海氷から放出されるDMSPはメタン生成の前駆物質になっていること、酸素濃度が高いのにもかかわらず、メタン生成が起こっていることなどを明らかにした。これらの観測結果を基に、酸素濃度が高いのにも関わらずバクテリアの細胞内でメタン生成が行われる嫌気性の条件が維持されることを説明するモデルを提唱した。