PSニュース No.14

Polar Science


<Vol.4(3) の掲載論文>

Simultaneous ground-based and satellite observations of natural VLF waves in Antarctica: A case study of downward ionospheric penetration of whistler-mode waves
M. Ozaki, S. Yagitani, I. Nagano, Y. Kasahara, H. Yamagishi, N. Sato, A. Kadokura

ホイスラモード波の電離層透過特性を詳細に調べるために、2006年南極において地上とあけぼの衛星によるVLF(数百Hz〜17.8 kHz)帯の自然電磁波動の同時観測を行った。この観測において、地上とあけぼの衛星で波動強度の周波数特性がよく似た自然VLF波動のイベントを得た。本研究では、この同時観測結果に基づきfull-wave解析を用いることによって理論的にホイスラモードの下降伝搬を計算している。事例解析として2006年3月15日のコーラスの同時観測イベントに対して、あけぼの衛星で観測された波動伝搬ベクトルは140〜160度に分布した。一方で理論計算では、電離層透過のための波動伝搬ベクトルは155.6度、その角度幅約2度になる必要があるという結果を得た。さらに、電離層透過に対する波動エネルギーの減衰は、観測値の17〜19 dBに一致して理論計算では20.4 dBと推定された。


Fluctuatuions in the flow velocity of the Antarctic Shirase Glacier over an 11 -year Period
Kazuki Nakamura, Koichiro Doi, Kazuo Shibuya

南極白瀬氷河の流動速度の経年変動をJERS-1(地球資源衛星1号)とALOS(陸域観測技術衛星)搭載の合成開口レーダを用いて、JERS-1では1996年から1998年、ALOSでは2007年から2008年に得られたデータを画像相関法により調べた。これら期間において、接地線(GL)における流動速度に変化は見られない。しかし、GLから上流域の季節変動
は1996年から1998年において明瞭ではないが、2007年から2008年においては0.21
km/aであり、有意な差が認められた。


Limnological characterization of freshwater systems of the Thomas Point Oasis (Admiralty Bay, King George Island, West Antarctica)
Arkadiusz Nedzarek, Agnieszka Pociecha

キングジョージ島に位置するポーランドHenryk Arctowski基地周辺の、浅い湖沼と湿地についての水文化学的研究である。亜硝酸、硝酸、アンモニウム、全窒素濃度、反応性および全リン、無機炭素、有機炭素、全炭素、珪素、塩素、硫酸イオン濃度、電気伝導度、pHが測定された結果、これらの水系の水質には大きな幅があることが分かった。栄養状況はペンギンルッカリーからの窒素とリンの供給に影響されていた。いくつかの水系からは、31分類群の藻類、11種の無脊椎動物が見いだされ、ミドリムシはアンモニア態窒素濃度の高い水塊で、一方珪藻はアンモニウム濃度の低いWujka湖に特徴的であった。観測されたすべての水系からはワムシが観察されたが、甲殻類はWujka湖からのみ見いだされた。


Molecular evolution and variability of ITS1ITS2 in populations of Deschampsia antarctica from two regions of the maritime Antarctic
R.A. Volkov, I.A. Kozeretska, S.S. Kyryachenko, I.O. Andreev, D.N. Maidanyuk, I.Yu. Parnikoza, V.A. Kunakh

南極地域には、ナンキョクコメススキとナンキョクミドリナデシコの2種類の維管束植物しか生育していない。ナンキョクコメススキの分類学的位置、系統地理学的起源、遺伝的不均質性、個体群動態を明らかにするため、海洋性南極のサウス・シェトランド諸島とアルゼンチン列島からのいくつかの個体群において、ITS1とITS2領域の塩基配列の比較分析を行った。すべてのナンキョクコメススキは、構成された系統樹の中で一つのクレードをなす事が強く支持された。ITS1-ITS2領域の塩基配列はきわめて似ている(90-100%)が、アルゼンチンと南極の本種の個体群は、分子レベルで識別しうる。我々のデータは、ナンキョクコメススキの大多数の個体群は、南米由来であることを示した。その他の個体群は、異なる時代に南極に侵入したものであるようだ。遺伝的に全く異なる個体は、同一個体群内、あるいは近隣の南極海の島々の個体群内に共存している。


Spatial and temporal variability in soil CO2-C emissions and relation to soil temperature at King George Island, maritime Antarctica
Newton La Scala Junior, Eduardo de Sa Mendonca, Juliana Vanir de Souza, Alan Rodrigo Panosso, Felipe N.B. Simas, Carlos E.G.R. Schaefer
南極地域において野外環境下で土壌呼吸を測定し、土壌温度との関係を調査した。土壌温度と土壌呼吸の間には指数関数的な関係が認められ、Q10は2.1だった。土壌呼吸の平均値は、植生の有無やタイプによって異なり、裸地で0.026、コケで0.072そして維管束植物(Deschampsia antarctica)で0.162 g of CO2-C m-2 h-1だった。さらにコケと維管束植物の生育するエリアの土壌呼吸の空間的ばらつきについても解析した。以上の結果から、土壌呼吸の時間変動には土壌温度が影響しているのに対して、空間的ばらつきには植生タイプがより強く関係していることが示唆された。


Stability of palsa at the southern margin of its distribution on the Kola Peninsula
Valery Sh. Barcan

この論文ではコラ半島南部ロシア側に分布するパルサ(レンズ状に成長する凍土領域)を扱う。パルサを有する13の湿地を調査したが、そのうち4つは67年あるいは82年の間隔をおいている。パルサの活動層の厚みは温暖期において44-64?であり、従来の出版報告と一致する。湿地の数、高度、パルサの活動層の厚みはこの80年間、変わっていない。