PSニュース No.33

     Polar Science  


最新号Vol. 9 Issue 4 <特集号The Asian Forum for Polar Sciences (AFoPS)> には、以下の論文が掲載されています。


[Editorial] Recent advance in Asian polar science - Commemorating ten-year activities of the Asian Forum for Polar Sciences (AFoPS)
Kentaro Watanabe, Koichiro Doi, Hong Tat Ewe, Kottekkatu Padinchati Krishnan, Jae Il Lee, Ruiyuan Liu
 アジア極地科学フォーラム(AFoPS)は、アジア諸国の極地科学の進歩のための協力を奨励・促進することを目的として2004年に設立された。2014年10月7日には設立10周年を記念して、マラヤ大学にある国立南極研究センター(NARC)のホストにより、マレーシアのポート・ディクソンでAFoPSシンポジウムが開催された。このAFoPS特別号第2巻には、シンポジウムで発表された論文およびAFoPSメンバー国からの、幅広い分野の極域科学に関する論文が掲載されており、AFoPSのすばらしい成果の一つである。

The development of the Asian Forum for Polar Sciences (AFoPS)
Yeadong Kim, Jihoon Jeong
 アジア諸国の極域研究機関からなる国際フォーラム、アジア極域科学フォーラム(Asian Forum of Polar Sciences, AFoPS)は、メンバー機関における極域科学の発展を目的に、2004年に設立された。このフォーラムは、過去10年、人と情報の交換、共同研究、設営面での協力など極域科学推進の諸分野で、アジアにおける重要な役割を果たしてきた。AFoPSの歴史的発展を回顧してみると、次の4つの段階に分けることができる。初期設立段階(2003-2004)、発展拡大段階(2005-2007)、点検再構築段階(2008-2011)および、達成諸対応段階(2012-2014)である。AFoPSの発展は線形的ではなかったが、この傾向は今後数十年続くと思われる。しかしながら、このフォーラムは、この十年、研究および設営分野で、以前は想像すらできなかった多角的な協力を実現するなど、明らかに目的を達成し、将来への基盤を築き上げた。AFoPSは、世界の極域活動において大きな割合を占める責任を踏まえ、今後、優れた研究成果の発信、国際協力プログラムの主導、およびアジアの非極域活動諸国への教育と研究連携による支援を通じて、世界の期待に応えてゆく。AFoPSには、次の十年に向けた諸課題がある。それらは、現実的な方法での連携を奨励・促進し、アジアの非極域活動諸国の極域科学への関心を引き出す戦略を必要とする諸課題である。

Balloon-borne observations of lower stratospheric water vapor at Syowa Station, Antarctica in 2013
Yoshihiro Tomikawa, Kaoru Sato, Naohiko Hirasawa, Masaki Tsutsumi, Takuji Nakamura
 2013年7月、9月、11月に南極昭和基地(南緯69.0度、東経39.6度)において水蒸気ゾンデ観測を実施し、高度28 km付近までの水蒸気濃度を高精度・高鉛直分解能で測定することに成功した。水蒸気ゾンデ観測と昭和基地近傍の衛星観測で得られた水蒸気濃度はそれぞれの誤差の範囲内でほぼ一致した。昭和基地の成層圏の極渦境界に対する位置は日時・高度によって変化していた。観測された空気塊の10日間の後方粒跡線を調べたところ、昭和基地上空の下部成層圏で観測された低水蒸気濃度の空気塊は大部分が過去10日間のうちに脱水されていたことがわかった。一方で、2013年7月の観測では、再蒸発または不十分な脱水を受けたと考えられる空気塊が25 hPa付近で捉えられていた。

A new detailed ice thickness and subglacial topography DEM for Dome A, East Antarctica
Xiangbin Cui, Bo Sun, Jingxue Guo, Tiantian Wang, Dong Zhang
 ドームAにある中国崑崙基地で新たな深層氷床掘削が行われている。その地域の氷厚と氷床下の基盤地形は、氷床コアの年代を見積もる上で重要な要素であることから、中国の南極観では第21、24および29次隊の夏の三シーズンにわたり、この地域でアイスレーダーによる調査を実施した。以前に第21および24次中国南極観測隊で実施したアイスレーダーによる観測結果は、深層氷床掘削地点の決定や氷床基部の年代決定、およびガンバーツェフ氷床下山地の地形研究に大きな役割を果たした。第29次中国南極観測期間中にその地域で実施したアイスレーダー観測では調査グリッドの空間分解能を向上させ、モデル結果の向上を目指した。本稿ではこの3シーズンのアイスレーダーのデータを処理し、氷厚と氷床下の地形のより詳細な図を作成した。この新たな地図は、調査域の氷厚が1548 mから3347 mの高精度の氷厚分布を示している。小規模の氷床下の氷河に削られた谷地形が極めて詳細に示され、例えば山頂や峰、主な深い谷地形およびその支谷、谷の段丘や深い凹地等である。今回の結果は、氷床流動の正確な地域モデリング、および新たな氷床掘削地点を特定するために必須である。

Response of Long Lake sediments to Antarctic climate: A perspective gained from sedimentary organic geochemistry and particle size analysis
Badanal Siddaiah Mahesh, Anish Kumar Warrier, Rahul Mohan, Manish Tiwari, Anila Babu, Aswathi Chandran, Rajesh Asthana, Rasik Ravindra
 南極の露岩地帯における非汚染湖沼堆積物は、湖への過去の気候の影響や南極気候への応答を再現するプロキシーの重要な情報源である。Dronning Maud LandのSchirmacher Oasisの周氷河湖であるLong Lakeから採取された長さ50 cmの堆積物中の元素(C%, N%, C/N)、安定同位体比(δ13C, δ15N)および粒度変動(砂−シルト−粘土%)の測定がなされた。放射性炭素年代範囲が過去48 ka BPに及ぶ南極気候へのこの湖の応答を明らかにした。C/N原子比はコアの大部分における一次生産は自生性が支配的であることを示したが、最後の1.0 cal ka BPは長いアイスフリー状態により陸性有機物が加わっていることを示した。氷期における有機炭素(0.2%以下)は著しく低かったが、完新世の最後の1 cal ka BPでは高く最大12%を示した。δ13Cおよびδ15Nは、それぞれ-33から-9‰および2から18‰の範囲であった。同位体比は氷期全体(48 cal ka BPから8 cal ka BP)で強い寒冷期を示唆している。約6 cal ka BPに始まるC/N比,砂含量およびδ13C値の増加ならびδ15Nの減少は、Long Lakeが温暖な完新世ではアイスフリー状態が続いたが、初期完新世では氷で覆われていたことを示唆する。砂とシルトパーセントは逆相関で、主として温暖状態と寒冷状態を反映する。完新世は温暖状態により氷の融解による高い砂含量に特徴付けられる。Long Lakeの南極気候への応答は、湖システムにおける生産量および堆積状態をコントロールするアイスーカバー状態を反映する。

A new species of Paraproto (Crustacea: Amphipoda: Phtisicidae) collected from the South Shetland Islands, Antarctica
Ichiro Takeuchi
 本論文では、南極半島沖のサウスシェトランド諸島エレファント島より採集されたParaproto属(甲殻綱:端脚目:ムカシワレカラ科)の1新種、Paraproto mccaini を記載した。従来、本種はオーストラリアの温帯域に分布するParaproto condylata (Haswell, 1885)と同定されていた。しかし、南極産の個体は、頭部及び第一胸節が細長いこと、第2-4胸節の中央付近に突起があること、第2咬脚前節の先端には突起がない事等により、オーストラリア産のParaproto condylata とは明瞭に区別することができる。

Morphology and molecular phylogeny of an Antarctic population of Paraholosticha muscicola (Kahl, 1932) Wenzel, 1953 (Ciliophora, Hypotricha)
Jae-Ho Jung, Kyung-Min Park, Gi-Sik Min, Helmut Berger, Sanghee Kim
 Paraholosticha属のタイプ種であるP. muscicola の形態を、南極土壌中の群集を用いて生体およびプロタゴール染色標本により記載した。データは当該種の記載とかなりよく一致したが、いくつかの形質のばらつきの幅は比較的大きかった。P. ovataP. lichenicola とは、ほぼ本種の新参異名(ジュニア・シノニム)と考えられる。我々はさらに、P. muscicola のリボソーム小サブユニットRNA遺伝子の配列を決定し、それによりシストの中で分裂する唯一の下毛類であるKeronopsidae科の系統発生位置を初めて推定することができた。分子生物学的データは、形態学的な観点からの系統発生位置を基本的に支持した。すなわち、繊毛列の断片化や、背面縁辺列が無いことから、P. muscicola がDorsomarginalia類から分枝したとする説である。しかし、他の多くの分子解析と同様、形態に基づく系統仮説とは食い違いがある。Paraholosticha 属とその姉妹群であるKerona pediculus をタイプ種とするケロナ科のケロノプシス属との誤分類について論考する。

Relatively high antibiotic resistance among heterotrophic bacteria from arctic fjord sediments than water - Evidence towards better selection pressure in the fjord sediments
A.A. Mohamed Hatha, C.S. Neethu, S.M. Nikhil, K.M. Mujeeb Rahiman, K.P. Krishnan, A.V. Saramma
 本研究により、コングスフィヨルドの海水および堆積物中から分離した好気性従属栄養細菌群および大腸菌群の中の、抗菌薬耐性株の割合を明らかにした。この研究は、北極フィヨルドへの人為的影響が比較的少ないため、薬剤耐性変異株に対する選択圧がほとんど無いとの仮説に基づき実施された。これを検証するため、好気性従属栄養細菌に属する200の分離株および大腸菌群に属する114の分離株に対し、ベータラクタム、アミノグリコシド、キノロン、サルファ剤やテトラサイクリン等5つの異なるグループに属する15の抗菌薬への耐性試験を行った。ベータラクタムおよび基質特異性拡張型ベータラクタム(ESBL)抗菌薬に対する耐性はかなり高く、従属栄養細菌と大腸菌群とで、有意に(P<0.05)異なることが判明した。大腸菌群ではESBL抗菌薬に対する耐性が有意に高かったのに対し、好気性従属栄養細菌では、複数の抗菌薬耐性指数と耐性のパターンで示されたように、抗菌薬耐性の幅と多様性が高かった。最も注目すべき点は、フィヨルド堆積物からの分離株(従属栄養細菌と大腸菌群の両方)が、一般的に、テストした抗菌薬のほとんどに対して、比較的高い割合で耐性を示したことで、フィヨルド堆積物中の薬剤耐性変異株に対してより強い選択圧がかかっていることを示している。

Potential changes in feeding behavior of Antarctic fish, Pseudotrematomus bernacchii (Boulenger, 1902) on the East Ongul Island, Antarctica
Suchana Chavanich, Voranop Viyakarn, Daiki Nomura, Kentaro Watanabe
 2004/2005年及び2009/2010年の夏季に南極昭和基地付近の沿岸定着氷下において南極産魚類、ショウワギス(Pseudotrematomus bernacchii (Boulenger, 1902))の食性を調査した。その結果、胃内容物の調査より、端脚類及びオキアミが主要な餌であることがわかった。しかし、各調査期において、イカ、タコ、その他甲殻類などの大型無脊椎動物の占める割合に有意な差が生じた。そして、すべての大きさの個体において、胃内容物に占める端脚類及びオキアミの割合は5年の間で減少した。これは、海氷融解、生息域、環境などの変化が摂餌行動のパターンに影響したことが原因かもしれない。

Chinstrap penguin foraging area associated with a seamount in Bransfield Strait, Antarctica
Nobuo Kokubun, Won Young Lee, Jeong-Hoon Kim, Akinori Takahashi
 高次捕食者の採餌の集中する海洋環境要因を調べることで、その海域の生態系のホットスポットを特定することができる。本研究では、南極半島域の代表的な高次捕食者、ヒゲペンギンにGPS-深度ロガーを繁殖期3シーズンにわたって取り付け、採餌にとって重要な海域を調べた。ヒゲペンギンは各年とも、繁殖地から25 km離れたブランスフィールド海峡の中にある直径約10 kmの海山をよく訪れていた。この海山周辺の海域では、海域の面積と繁殖地からの距離によって予測される数を上回る潜水が観測され、ペンギンはそこでナンキョクオキアミを捕食していた。この海山周辺では表層の海流と海底地形の作用による局地的な湧昇が生じ、それがナンキョクオキアミの利用可能性を高めることで、ヒゲペンギンの好適な餌場が形成されていたと考えられる。