Interhemispheric observations of field line resonance frequencies as a continuous function of ground latitude in the auroral zones
S. Takasaki, N. Sato, A. Kadokura, H. Yamagishi, H. Kawano, Y. Ebihara, Y.-M. Tanaka
第48次南極地域観測隊では昭和基地から70kmほど離れた南極大陸の内陸と沿岸部に衛星通信機能付き省電力磁力計(NIPR-LPM)を2台設置した。イリジウム衛星電話を経由したデータ収集システムにより、NIPR-LPMによる観測データは極夜期を除いて1日1回国立極地研究所に伝送される。南極に設置したNIPR-LPMによる磁場観測と、その磁場共役点アイスランド Tjornes での磁場観測から地球磁力線の定在振動を抽出した。さらに、経験値モデル(T04)で仮定した地球磁場と観測された周波数を磁力線の振動方程式に入力し、数値解析することによって磁気圏赤道域プラズマ密度の時空間変動を推定した。
Origin of sapphirine-bearing garnet-orthopyroxene granulites: possible hydrothermally altered ocean floor
Sotaro Baba, Ryuichi Shinjo, Brian F. Windley
サフィリンは地殻深部を構成するMgやAlに富む岩石に認められる希少鉱物である。本研究では塩基性グラニュライトの内部に薄層として産する含サフィリン−ザクロ石−斜方輝石(SGO)グラニュライトの原岩について、全岩化学組成,Sm-Nd同位体組成比を用いて考察した。その結果、SGOグラニュライトは塩基性グラニュライトの原岩である玄武岩が浸透交代作用を受け形成した変質岩に由来することが明らかになった。そのような変質岩は、海洋底における熱水変質帯(Recharge Zone)で形成したと考えられる。熱水変質を被った海洋玄武岩質地殻が沈み込み帯で付加体中に取り込まれ、その後に起こった島弧-大陸衝突により地殻深部でグラニュライト相変成作用を被った結果、SGOグラニュライトは形成されたと考えられる。
Size fraction and class composition of phytoplankton in the Antarctic marginal ice zone along the 140°E meridian during February-March 2003
Fuminori Hashihama, Toru Hirawake, Sakae Kudoh, Jota Kanda, Ken Furuya, Yukuya Yamaguchi, Takashi Ishimaru
南極アデリーランド沖 (140°E線上・63.3-66.5°S) における植物プランクトンサイズおよび群集組成を、2003年の2月下旬と3月上旬に調査した。観測海域の大部分でクロロフィルa 濃度は1μg l-1以下と低く、直径20μm以下のピコ・ナノサイズの群集が優占していた。それらの群集は主に珪藻類やハプト藻類から構成されていたが、2月下旬の65.5°Sの観測点においては混合層直下の極低温水塊 (-1.5°C) で緑藻類が優占していた。有光層内のアンモニウム塩濃度は全域を通して比較的高く (>0.2μM)、ピコ・ナノ植物プランクトン群集は高い捕食圧の下で再生した栄養塩を利用して維持されていることが示唆された。
Glaciation of a mixed-phase boundary layer cloud at a coastal arctic site as depicted in continuous lidar measurements
James R. Campbell, Masataka Shiobara
本論文は北極スバールバル諸島ニーオルスンにおけるライダー観測と高層ゾンデ観測データに基づき、氷晶の種まき作用による混合相雲の氷化過程について述べたものである。この観測例では、過冷却状態の水雲の上部にすでに発生していた氷雲から氷晶粒子が降り注ぎ、その種まき作用により水雲が氷化し、さらに氷と水に対する飽和蒸気圧の差に起因する氷晶の成長と沈降およびライミングによって氷化が促進する様子が示された。極地で特徴的な混合相雲の振る舞いは、その放射過程を通して極域の気候形成におよぼす影響の点でも重要視され、その詳細な物理過程を調べる上でも、ライダーによる連続観測は極めて有効である。
Outline of a small unmanned aerial vehicle (Ant-Plane) designed for Antarctic research
Minoru Funaki, Naohiko Hirasawa and the Ant-Plane Group
南極の夏期間に科学観測用いる小型無人飛行機(Ant-Plane)の開発を行っている。今までに4種の自動飛行機体を開発した。Ant-Pane 2号機により桜島と鳥海山で空中磁場観測を試みた結果、風が弱い時は機体の位置精度は30m以内で、極めて良い自動飛行が確認された。最大風速が22m/sでも機体はウェイポイントに向けて飛行し,概ね良好な直線飛行飛行であったが、旋回時に風下側で大きくルートを逸脱した。風が弱い時は、Ant-Planeで空中磁場観測が可能であったが、強風時には大きな磁気ノイズが発生した。Ant-Plane 4号機は500kmの連続飛行と最高飛行高度5690mを達成した。南極の夏期沿岸地域でAnt-Plane により静穏時に500kmまでの航空機観測が可能になった。
Nitrogen concentration within Saxifraga oppositifolia in different successional stages on a glacier foreland in the high Arctic
Atsushi Kume, Yukiko S. Bekku, Yuko T. Hanba, Takashi Nakano, Hiroshi Kanda
氷河が後退し、地表が露出すると、様々な生物が定着して植生遷移が進行し、土壌環境も大幅に改善される。そのような環境変化に植物がどのように対応しているかを調べるために、氷河が後退した後の様々な遷移段階で優占する植物の炭素同位体比(δ13C)と窒素濃度(Np)を調べた。δ13CとNpをそれぞれx, y軸として測定値をプロットすると、各植物の値はx-y平面上の異なった場所に位置し、ほとんど重複しなかった。ムラサキユキノシタは全ての調査地で生育していたが、 Npとδ13Cは狭い範囲に保たれていた。これらの結果は、生理生態学的特性の調節には、形態の違いが重要であることを示唆した。
Role of Antarctic ice mass balance in present-day sea-level change
C.K. Shum, Chung-yen Kuo, Jun-yi Guo
2007年IPCC報告以降に出版された知見のレヴューを行い、現在(1992-2006年)の海面上昇における南極の寄与を論じた。後氷期地殻隆起モデルの選び方が主たる不確定要因で、結果として得られる南極の寄与には-0.12 mm/yrから+0.52mm/yrという幅が生じている。観測による上昇率(1.8 mm/yr)と地球物理モデルから得られる値(2.10 +-0.99 mm/yr)の差は0.30 mm/yrである。衛星観測期間を長くし、長期GPSデータを用いることで、mass balanceによる氷床下鉛直変動を区別し、融解による氷床の弾性荷重応答による海面変化を検出することによって、南極の寄与はもっと精度良く規正されるであろう。