いよいよノルウェーからの同行者が到着するその日が来ました。長
い一日のことを書くので、本日の記述はやや長いです。
フライト実施の前日である11/25の段階から、当該のBrit
ish Antarctic Survey ( BAS)のツインオッター機の内陸隊までの運航を管理するトロル
基地から、「明日はフライトを実施する」
旨の連絡がはいっていました。当日11/26は、
朝から穏やかな天気で、青空がひろがりました。先日まで10メー
トルやそれ以上あった風も弱まり、気温は-30℃
前後と低い状況でした。航空機の運航にかかる事前の打ち合わせに
沿って、朝から一時間毎に内陸隊からMD180地点の気象通報を
トロル基地へ送り続けました。トロル基地からは、航空機がベルギ
ーのプリンスエリザベス基地を09:07UTCに発ってフライト
を開始したとの連絡がはいり、約2時間後の到着予定時刻も伝えら
れました。
滑走路は、降雪をともなう荒天のあとだったので、再度荒れてしま
っていました。雪上車4台で再度の整地作業が実施されました。
写真1: 滑走路を再度整地するピステン車。
写真2: 整地されて航空機の到着を待つ滑走路。長さ500m、幅60mで
す。滑走路の片側には、50メートル毎に黒い旗を設置しており、
離着陸するパイロットが距離をはかれるようになっています。
私達の居たキャンプ地も、降雪と風で雪上車や橇の周囲に吹きだま
りがたくさんできていたので、
航空機が到着する前にキャンプ地を約50メートル移動し、ピステ
ン車が吹きだまりを整地をして平坦な雪面にしました。地上に居た
私達は、12:00UTC過ぎに、まず双眼鏡で地平線近くに飛行
機が接近してきたことを視認しました。
最初遠くに見えた黒い点は、航空機が接近してくるにつれて機体の
実際の色である赤い色として視認できました。
航空機は滑走路上空を通り過ぎたあと旋回し、そのまま一度滑走路
に向けて降下しました。着陸するかに見えましたが、速度を落とす
ことはなく後脚を滑走路に接触させたのみで再び上昇しました。
後に聞いたところによると、滑走路の固さや粗さを確かめるための
通常の着陸前の確認手順であるそうです。前脚を着地させずまずは
後脚のみで滑走路の状態をはかるのだそうです。航空機は、
再度上空で旋回してから降下し、今度は着陸しました。12:
21UTCでした。ベルギー基地からの所要時間は約3時間でした
。
写真3: 滑走路に着陸する直前のツインオッター機(川村撮影)
日本隊のメンバーは、着陸の際には、滑走路から約200メートル
離れた位置に待機して着陸の様子をうかがっていました。
航空機が動きを停止し、乗員が機体から機外へ降りる動作をするこ
とを確認したのち、機体に雪上車や徒歩で接近し、降りてきた人々
を挨拶を交わしました。着陸後、約1時間の短い時間を使って、た
だちに荷下ろしや燃料補給が行われました。燃料は、内陸隊が輸送
してきた航空機用燃料です。
写真4: 荷下ろしされた物資
写真5: 航空燃料を橇に積んだドラム缶から給油。(川村撮影)
荷下ろしや給油のひとおおりの作業を終えた後、現場に居た全員で
記念撮影をしました。日本の南極観測隊員10名、ノルウェー極地
研究所から同行者として参加した2名、それに、ツインオッター機
のクルー(パイロットと整備士、各1名)です。
写真6: 全員で航空機を背景に記念撮影。(内陸隊撮影)
ツインオッター機のクルーの方々は、その後ただちに同日中に、ま
ずはベルギーのプリンスエリザベス基地、そしてさらにノルウェー
のトロル基地への帰路につかなければならないということで、
ただちに離陸準備、そして離陸し、私達の居たMD180地点を離
れました。
写真7: ツインオッター機へ乗り込む整備士の方。パイロットは男性、整備
士は女性でした。(川村撮影)
以上に述べた約1時間の出来事は、すべて気温-30℃での冷たい
風のなかの出来事でした。着陸から離陸に至る約1時間の作業のな
かで、現場に居たメンバーの体は冷え、消耗していました。特に、
暖かい機内から突然この標高2800メートルの寒冷&寒風環境に
降り立ったノルウェーの方々にはこたえたようです。航空機が離陸
後、到着直後のノルウェーの方々をまずは雪上車にご案内し、暖か
い飲み物や甘い物で冷え切った状態からの回復をはかりました。
その後、同日は、夕方までかけて、今後の行動にかかる打合せや、
居住体制等の打合せ・確認作業をしました。
内陸隊としての移動の再開は翌日からです。
本航空機のオペレーションの実施にあたっては、航空機の運航に関
わった多方面から非常に大きな支援を受けました。
オペレーション後には、ノルウェーの方2名の到着の事実を伝える
連絡メール、それに、関係者間・関係機関間の連絡や礼状が多数の
メールで行き交うこととなりました。日本、ノルウェー、英国、
ベルギー、そして米国の方々です。
内陸隊では、これで12名のメンバー全員が揃いました。米国のカ
ンサス大学やアラバマ大学が開発した高性能のレーダー機器も、
ノルウェーの方々とともに内陸隊へ輸送されました。これらの機器
は、寒冷環境に置くことはできず、到着後ただちに、保温された雪
上車内に収納しました。
ここMD180地点からドームふじ地域までは、さらに陸路550
キロメートルを移動しなければなりません。更なるサスツルギ帯合
計約数百キロと、軟雪帯と呼ばれる地域合計約数百キロを越えてす
すんでいきます。そしてそこで、
今回目的としている氷床のレーダ-観測をはじめとした多くの観測
タスクが待っています。荒天がもたらした遅延によって、
日程的には、当初の合流日程よりも約1週間遅れています。さらに
は合流地点は当初予定よりも沿岸側に約60kmずれました。
この遅れを、今後の日程のなかでどうやって消化していくことにな
るか?国際チームとしてのチーム内の調和作り・維持も、これから
の課題になります。ノルウェーの方々とは、研究打合せに加え、
富士山高所合宿訓練や、米国で実施したレーダ操作訓練でご一緒し
てきましたので、呼吸はだいぶお互いにわかっています。
如何に今後、フルメンバーで、皆が納得できるような科学観測活動
をすすめていくか。気をひきしめて、前進していきます。
同日、11月26日、今回人員と物資を輸送したBAS ツインオッター機は、乗員2名で13:29UTCにMD180離
陸し、約2時間半後の15:53UTCにプリンセスエリザベス基
地(ベルギー)に着陸。さらに16:34UTCにここを離陸、
19:50UTCにトロル基地(ノルウェー)に帰還しました。こ
れは約3時間半のフライト。そしてその二日後、この飛行機は、1
1月28日17:33 UTCにトロル基地を出発し、英国の基地であるハレー基地に同日
20:45 UTCに到着しました。最後は約3時間のフライトでした。英国の
通常の活動域(南極半島や近傍の棚氷地域など)から片道の移動で
、飛行時間の総和だけでも9時間を超えます。離着陸地や経由空路
の天候条件が確保される必要がありますから、自ずと日数はかかる
ことになります。南極での活動では、陸上活動でも航空機の移動で
も、荒天との遭遇状況によって簡単に1~2週間の待機・停滞時間
を余儀なくされます。今回の一連の飛行オペレーションは、日程的
にもかなり首尾良くすすんだと私はとらえています。実現を主導あ
るいは支援くださった関係諸機関には深く感謝しています。BAS ツインオッター機は、来年1月の上旬~中旬にかけて、再度ノルウ
ェーの方々を迎えに内陸隊のところへ飛来する予定になっています
。そのときに、そのときまでに続く観測活動の経過をどう振り返っ
ているでしょうか。
藤田記