筆者(藤田)は、前日12月28日までに主担のレーダ探査走行を
終えていたので、翌29日は川村さんを主担当とするアイスコアの
浅層掘削チームに参加しました。1月10日前後に、ここから約5
50km離れた略称でARP2と呼ぶ航空拠点からノルウェー極地
研究所からの同行者を、彼等を迎えにくるツインオッター機に間に
合わせて連れて行かなければならない、
大きな時間的な制約があります。逆算して、1月7日にはその航空
拠点に到着し、滑走路整備やレーダ機器の取り外し・収納を実施。
さらに逆算して、遅くても1月2日にドームふじ基地を出発し長時
間の雪上車隊の走行をしなければ、
それに間に合わすことができなくなります。それをにらんで、
当地でのレーダ走行探査も、アイスコアの浅層も、
12月29日の完了が条件となりました。
アイスコア浅層掘削については、既に岡田ドクターによる記事「南
極で三線!?」で写真を中心とした紹介もありますので、そちらも
再度ご覧下さいませ。筆者が体験したのは、あくまで最終日の一日
の様子です。この地域で100数十メートル深までのアイスコアを
掘削すると、過去3000年~4000年程度の雪の堆積を得るこ
とができます。推定の年間の堆積量は、
氷換算で約25mm程度です。こうしたわずかづつ積もる雪がだん
だん焼結(粒子が分子拡散という現象によって融合し、瀬戸物のよ
うに固まっていく)するプロセスが、表層の約100メートルの区
間で起こります。約100メートル深までは、
雪のなかの通気があるのですが、約100メートルを超えると、
氷の量が空隙の量を圧倒し、通気性が完全になくなります。
筆者が参加した日には、掘削が既に130メートル台に達しており
、通気がないので、掘削孔のなかの空気採取作業(
岡田ドクターによる記事「南極で三線!?」参照)
は既に終わっていました。掘削開始当初、この掘削作業を把握して
いたのは担当の川村さんだけで、他は専門外の方々でのチームとな
っていました。しかし今は既に経験を積んだ方々のチームに変貌し
ています。アイスコアが地上に引き上げられて、
コアを掘削機容器(バレルと呼びます)から取り出し、ドリル機器
に各種の手入れをする段階を私達は「サービスタイム」と呼びます
。作業内容や注意点を担当者それぞれが声を出して確認しながら迅
速に作業をすすめていきます。F1サーキットのピットのような状
態でした。参加されている方々はそれを楽しんておられました。
写真:当日撮影時の掘削チームの方々。左から、岡田さん(医療担
当)、櫻井さん(設営担当)、伊藤さん(設営担当)。コアがあが
ってくると、迅速な処理作業をおこないます。掘削も、アイスコア
の処理も、昼食時間や休憩時間を相互にずらしながら交替でおこな
い、実質、終日の連続作業でした。時間帯をずらし川村さん(
リーダー、雪氷)や高村さん(フィールドアシスタント)、
栗田さん(気象・大気観測担当)
も掘削チームを担当していました。
写真:掘削したアイスコアをまさにバレルから取り出すところ。
筆者はアイスコアの現場処理(掘削直後の記録や計測や梱包)を担
当し、処理ラインに参加しました。山田さん(気象・大気担当)
と交替交替でこれを担当。「F1ピットチーム」によって早いペー
スで40cm長程度のアイスコアが次々とあがってきます。
コア同士の連続性確認や長さやコア径の記録、国内持ち帰りのため
のパッキングを遅れないようにすすめていきました。
最終掘削RUN後の処理にも立ち会うことができ、142m深に達
した最終・最深コアの写真を撮影しました。
写真:60次夏期掘削の最終アイスコア。略称NDFNコア。今後
各種の気候変動史の分析に用います。滞在中にドリルを掘削孔底に
下ろしての掘削回数は通算321回。採取したコアの区切り(
梱包)数は合計300試料となりました。
写真:コア処理を担当する山田さん(気象・大気観測担当)
この掘削作業をもって、今回のチームでの浅層掘削は、深度目標を
達成し完了しました。残る作業は、国内にこれを持ち帰り、
種々の分析を軌道に乗せることです。「氷」を「データ」
に変換し、さらには気候学的な解釈を加え論文やデータとして出版
するところまでやってはじめて本当の意味がでます。
29日の午後後半には、レーダ探査走行を続けていたもう一台の車
両111号車(米国レーダ搭載車)も、全予定ルートの探査を終え
てベースキャンプに戻りました。この日の夕食は、
レーダ走行探査とアイスコア浅層掘削など、ベースキャンプを拠点
としての多くの仕事の実質完了を祝してささやかな祝宴となりまし
た。かに汁、刺身類、焼き肉などをつついて。翌日以降は、このベ
ースキャンプの撤収開始という大仕事が待ち受けています。振り返
れば、天候の影響をうけて予定よりも1週間程度遅れてここに到着
して以来の作業の連続でした。疲労は正直とても大きいです。研究
者にも、支援にあたる方々にも、疲労は蓄積しています。また
、最初に書いたようにノルウェー同行者を国際的に打合せ済の航空
機運航日程に沿って送り出さなければならない時間的な制約があり
ます。事故やケガには十分に気をつけて、睡眠休養はしっかりとっ
て、まずはノルウェー同行者の送り出しまで過ごしていく必要があ
ります。
60次内陸ドーム隊チームの皆様、ベースキャンプでの数多くの観
測へのここまでのご支援を大変にありがとうございました。この内
陸ドーム隊はまだ1月下旬の昭和基地への帰還まで続きますが、
この大きな区切りに、深い感謝を申しあげます。29日のチームミ
ーティングの場でも、それを申しあげました。
2018年12月30日:藤田記