南極観測隊便り 2018 - 2019


2019/01/08

アイスコア浅層掘削の完了

Tweet ThisSend to Facebook | by ishida
筆者(藤田)は、前日12月28日までに主担のレーダ探査走行を終えていたので、翌29日は川村さんを主担当とするアイスコアの浅層掘削チームに参加しました。1月10日前後に、ここから約550km離れた略称でARP2と呼ぶ航空拠点からノルウェー極地研究所からの同行者を、彼等を迎えにくるツインオッター機に間に合わせて連れて行かなければならない、大きな時間的な制約があります。逆算して、1月7日にはその航空拠点に到着し、滑走路整備やレーダ機器の取り外し・収納を実施。さらに逆算して、遅くても1月2日にドームふじ基地を出発し長時間の雪上車隊の走行をしなければ、それに間に合わすことができなくなります。それをにらんで、当地でのレーダ走行探査も、アイスコアの浅層も、12月29日の完了が条件となりました。
 アイスコア浅層掘削については、既に岡田ドクターによる記事「南極で三線!?」で写真を中心とした紹介もありますので、そちらも再度ご覧下さいませ。筆者が体験したのは、あくまで最終日の一日の様子です。この地域で100数十メートル深までのアイスコアを掘削すると、過去3000年~4000年程度の雪の堆積を得ることができます。推定の年間の堆積量は、氷換算で約25mm程度です。こうしたわずかづつ積もる雪がだんだん焼結(粒子が分子拡散という現象によって融合し、瀬戸物のように固まっていく)するプロセスが、表層の約100メートルの区間で起こります。約100メートル深までは、雪のなかの通気があるのですが、約100メートルを超えると、氷の量が空隙の量を圧倒し、通気性が完全になくなります。筆者が参加した日には、掘削が既に130メートル台に達しており、通気がないので、掘削孔のなかの空気採取作業(岡田ドクターによる記事「南極で三線!?」参照)は既に終わっていました。掘削開始当初、この掘削作業を把握していたのは担当の川村さんだけで、他は専門外の方々でのチームとなっていました。しかし今は既に経験を積んだ方々のチームに変貌しています。アイスコアが地上に引き上げられて、コアを掘削機容器(バレルと呼びます)から取り出し、ドリル機器に各種の手入れをする段階を私達は「サービスタイム」と呼びます。作業内容や注意点を担当者それぞれが声を出して確認しながら迅速に作業をすすめていきます。F1サーキットのピットのような状態でした。参加されている方々はそれを楽しんておられました。


写真:当日撮影時の掘削チームの方々。左から、岡田さん(医療担当)、櫻井さん(設営担当)、伊藤さん(設営担当)。コアがあがってくると、迅速な処理作業をおこないます。掘削も、アイスコアの処理も、昼食時間や休憩時間を相互にずらしながら交替でおこない、実質、終日の連続作業でした。時間帯をずらし川村さん(リーダー、雪氷)や高村さん(フィールドアシスタント)、栗田さん(気象・大気観測担当)も掘削チームを担当していました。


写真:掘削したアイスコアをまさにバレルから取り出すところ。

 筆者はアイスコアの現場処理(掘削直後の記録や計測や梱包)を担当し、処理ラインに参加しました。山田さん(気象・大気担当)と交替交替でこれを担当。「F1ピットチーム」によって早いペースで40cm長程度のアイスコアが次々とあがってきます。コア同士の連続性確認や長さやコア径の記録、国内持ち帰りのためのパッキングを遅れないようにすすめていきました。最終掘削RUN後の処理にも立ち会うことができ、142m深に達した最終・最深コアの写真を撮影しました。


写真:60次夏期掘削の最終アイスコア。略称NDFNコア。今後各種の気候変動史の分析に用います。滞在中にドリルを掘削孔底に下ろしての掘削回数は通算321回。採取したコアの区切り(梱包)数は合計300試料となりました。


写真:コア処理を担当する山田さん(気象・大気観測担当)

この掘削作業をもって、今回のチームでの浅層掘削は、深度目標を達成し完了しました。残る作業は、国内にこれを持ち帰り、種々の分析を軌道に乗せることです。「氷」を「データ」に変換し、さらには気候学的な解釈を加え論文やデータとして出版するところまでやってはじめて本当の意味がでます。

29日の午後後半には、レーダ探査走行を続けていたもう一台の車両111号車(米国レーダ搭載車)も、全予定ルートの探査を終えてベースキャンプに戻りました。この日の夕食は、レーダ走行探査とアイスコア浅層掘削など、ベースキャンプを拠点としての多くの仕事の実質完了を祝してささやかな祝宴となりました。かに汁、刺身類、焼き肉などをつついて。翌日以降は、このベースキャンプの撤収開始という大仕事が待ち受けています。振り返れば、天候の影響をうけて予定よりも1週間程度遅れてここに到着して以来の作業の連続でした。疲労は正直とても大きいです。研究者にも、支援にあたる方々にも、疲労は蓄積しています。また、最初に書いたようにノルウェー同行者を国際的に打合せ済の航空機運航日程に沿って送り出さなければならない時間的な制約があります。事故やケガには十分に気をつけて、睡眠休養はしっかりとって、まずはノルウェー同行者の送り出しまで過ごしていく必要があります。

60次内陸ドーム隊チームの皆様、ベースキャンプでの数多くの観測へのここまでのご支援を大変にありがとうございました。この内陸ドーム隊はまだ1月下旬の昭和基地への帰還まで続きますが、この大きな区切りに、深い感謝を申しあげます。29日のチームミーティングの場でも、それを申しあげました。
 
2018年12月30日:藤田記
13:27 | 投票する | 投票数(12) | 日々のできごと