南極観測隊便り 2018 - 2019


2018/12/19

氷床のレーダ探査の準備

Tweet ThisSend to Facebook | by ishida
12/10以降、ベースキャンプでおこなっている仕事のなかで、氷床探査用レーダの準備についてご紹介します。
今回の内陸旅行では、将来の氷床深層アイスコア(最古の氷)の掘削候補地を見いだすために、複数のレーダを用いて、ドームふじ南方域を調査します。これまで日本隊では日本のレーダのみを用いた探査をおこなってきましたが、今回は、米国のカンサス大学、アラバマ大学、それに、ノルウェーの極地研究所の連携体制をとっています。レーダも、日本のもののみではなく、米国のこれらの大学のリモートセンシング関連の研究室が開発した2台のレーダを用います。

観測の準備として、日本製のレーダのみで探査をおこなうよりも、準備作業はどうしても時間がかかります。新規機器への習熟度の点、それに、レーダシステムが高度化するほどに、使用するアンテナも大がかりなものになります。先の記事「更に内陸へ、そして調査地へ(Ⅲ)」で紹介した写真は日本のレーダ用のアンテナです。日本の観測隊としてもおそらく国際的にも、サイズが際立って大きい、そして、結果として「アンテナ利得」という特性が高いレーダです。本稿執筆時にはすでに試験運用を開始しており、氷床の大深部の層構造をとらえはじめています。

米国製のレーダでも、「ログペリオディックアンテナ」という広い周波数帯域の電波の送受ができるアンテナを日本の製造会社に製造いただき、用いています。地上探査は、航空機のように広域を短時間で探査するようなことはできないですが、航空機には装着が困難な大がかりなアンテナ系を用いて観測を実施することができます。その点が地上探査では特に有利です。

 地上でのアンテナ組み立て風景


地上で組み上げたアンテナを、クレーンで雪上車に搭載する作業です。


クレーンでアンテナを雪上車に搭載後、初期固定をした段階です。まだロープを使用した本格固定を実施する前です。


さらに、比較的浅い層(表層から数十メートル)の詳細な構造をとらえる、FMCWレーダと呼ぶレーダのアンテナも搭載しました。車両の後部に吊しています。この段階ではロープ固定がある程度すすんでいます。



こうした作業に取り組んできたのが、12/10-17の期間です。大がかりなアンテナを雪上車に搭載する際、車両が動いたときの安定性が非常に重要な問題となります。ロープやラッシングベルト(荷物固定用のベルト)を駆使し、車両が動いてもアンテナが上下や前後左右にゆがむことにないよう、念入りに固定しました。日本南極地域観測隊の冬期訓練では、ロープワークを特に訓練します。訓練したことが大いに役立った作業となりました。ロープやアンテナの固定のために、脚立への昇降、雪上車の屋根に昇降した回数は数えきれません。-30℃の寒風のなか、作業判断を冷静に、そして慎重に、こころがけました。12/17頃に作業がひととおり完了し、その際には体のあちこちに筋肉痛が起きていました。筋肉痛はともかく、本格観測を開始してから、アンテナがゆがんだとか壊れたとか、落下したとか、そんなことを起こすわけには決していきません。そんなことが起これば、簡単に数日はロスしてしまいます。それどころか、観測中断ということすら可能性はあります。1月初旬に観測を終えるまで、雪上車の上に安定して固定しておく必要があるのです。

機器の設置とあわせ、機器を開発・製造した各方面との連絡も断続的につづきました。12/16には、これで観測を開始できるという目途がつき、12/18を本格観測として
の雪上車長距離走行開始の目標日と定めました。

藤田記
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