アイスコア研究ブログ

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2019/05/21

Paleo Consraints on Sea-Level Rise

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PAGESのウェブサイトでPaleo Consraints on Sea-Level Riseという短いレビューが集まったマガジンが公開されています。


10:37 | コメント(0)
2019/05/06

Astronomical forcing of the MPT

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EGU2019で出会った講演の紹介を続けます。
セッション「40k to 100 k: climate before and after the MPT」では、最古のアイスコアが研究ターゲットとするような、過去100万年をこえる時間スケールでの気候変動にかかわる要素について講演が展開されました。このセッションの目的は、将来複数の「最古のアイスコア」が掘削されてくる前に、この時代の気候変動についてあらかじめよく勉強し認識を深めておこうとするものです。
このセッションでの最初の招待講演が、Didier Paillard氏による
「On the astronomical forcing of the Mid-Pleistocene transition 」というものでした。

気候変動の大きな周期性は、約100万年まえに、それ以前の4万年周期の卓越から、その後の現在に至る10万年周期に変化しています。このMPT遷移の変動は、しばしば大気中のCO2の減少と関連付けられがちです。まだアイスコアがカバーしていない時代(約80万年以前)の大気中の温室効果ガス濃度はまだデータが少ない状況が続いています。Paillard氏は、海底堆積物のなかに含まれる炭素の同位体である13Cに着目し、その気候変動としての周期性を示しました。氏が示したのは、この13Cには、明瞭に40万年~50万年の周期性があり、40.5万年の周期が特に卓越していること。この振動の意味を理解することが、気候変動メカニズムのパズルを解く本質的な要素ではないかということが氏のメッセージです。これらのサイクルは、公転軌道の離心率(eccentricity)に何らかの関係がありそう。興味深いことは、40万年の離心率サイクルの最小値が、ちょうど100万年前の MPT前のタイミングにあたっていること。そして、さらに以前の最小値が、ちょうど300万年前のthe Plio-Pleistocene transitionに相当していること。さらにはこうした関連が、Oligocene や Mioceneの時代にも見えること。カーボンサイクルの長周期変動が天文学的なforcingをうけていることに特に注目すべきであるということがこの講演者の主張でした。これらのサイクルは、巨大氷床にかかわる位相という点で過去100万年に奇妙な特徴をもっている;40万年周期のカーボンサイクルはMPTを境として反転している。こうした観測事実はMPTを境とした気候の周期性の変動メカニズムに対して何等かの束縛条件を与えるのではないか?
大気中のpCO2がMPT やthe Plio-Pleistocene transitionで変動することが、天文学的なforcingによるということが、講演者の提案でした。

講演者からのメッセージのひとつは、
We need conceptual model for pCO2 before it is actually measured.


講演要旨のPDFはこちら。
EGU2019-13905.pdf

なお、ここで根拠としたδ13C in marine sedimentsにかかる論文はこちら。
Cramer, BS et al. (2003): Orbital climate forcing of d13C excursions in the late Paleocene-early Eocene (chrons C24n–C25n). Paleoceanography, 18(4), 1097, https://doi.org/10.1029/2003PA000909

講演者がこの内容を主張している論文はこちら。
Paillard D. (2017) The Plio-Pleistocene climatic evolution as a consequence of orbital forcing on the carbon cycle. Clim. Past, vol. 13 pp. 1259-1267.
08:10 | コメント(0)
2019/05/05

海水面上昇のペース現況

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 4月8日に、Sea Level Change のセッションに参加しました。基調講演は、NASAのSea Level Change (SLC)チームに所属するSteven Nerem氏がおこないました。
人工衛星搭載の高度計に基づいて1993年以降続いている海面上昇の数値が示され、これまで70mmの上昇が平均値で観測されています。加速傾向にあり、その加速度は0.097mm/yr^2となっていました。同氏は昨年にPNAS誌に下記の論文を発表しています。

Climate-change–driven accelerated sea-level rise detected in the altimeter era
R. S. Nerem, B. D. Beckley, J. T. Fasullo, B. D. Hamlington, D. Masters, and G. T. Mitchum
PNAS February 27, 2018 115 (9) 2022-2025; first published February 12, 2018 https://doi.org/10.1073/pnas.1717312115

この段階では、加速度をもっと小さな値で示しています(0.084)。上方修正(更新)のようです。実際には、海面上昇には地域特性もあります。時系列変動としても、エルニーニョ・ラニーニャの出現に応じた短期的な海面上昇の停止やその後のリバウンドも観測されています。将来どうなるかの外挿は、多項式近似(Quadratic)や直線近似の大雑把な外挿で表現され、こうした現象の解析的な予測が困難な様子を示していました。

海水準上昇は、2100年までに、2005年と比べ約65cm程度と見積もられていますが、この数字が、氷床流域の融解によってどう増加しうるか、それが今後の世界にとり非常に重要な課題になります。
23:22 | コメント(0) | 学会での見聞録など
2019/04/27

アイスコア中の氷期と間氷期の塩微粒子の組成

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再度、3月末のアイスコア研究会から。
北大低温科学研究所の長谷川さん・飯塚さんらは、レーザーラマン分光装置を用いてアイスコア中の氷期と間氷期の塩微粒子の組成の研究をおこなっています。レーザーラマン分光装置のレーザー光源を更新し、ドームふじアイスコアに対する研究をすすめています。
 今回新たに報告されたこととしては、塩微粒子の組成の調査結果として
間氷期ではNa2SO4が大半であるが、氷期には、CaSO4やNaNO3が多く出現する。硝酸は、氷期の塩微粒子のmajorityを占めるということです。
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  この研究結果は、アイスコアの固体電気伝導度の解釈にも強く影響しそうです。イオンの存在状態によって、電気の伝導機構が影響を受けるからです。連続融解解析(CFA)がすすめば、イオンの分布状況に関してはいろいろ紐解けそうに思えました(藤田)
15:56 | コメント(0) | アイスコア研究
2019/04/27

Solar Proton Eventによる10Be増大と相関するイオン

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3月末のICC研究集会からもうひとつ話題提起です。
Solar Proton Eventによる10Be増大とNa+イオンが相関することが、名古屋大学の三宅芙紗さんらから報告されました。これらに、0.4程度の相関を見いだしたとの報告でした。
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 現在のホロシンの環境では、海塩起源のNaClと、海洋生物起源や火山起源の硫酸が積雪の表面付近で反応すると、硫酸塩を生成し、解離したCl-がフリーになり、塩酸として氷のなかに速い速度で拡散していくとの考えがあります。この場合、Naは、もともとNaClが存在していた場所にそのままNa2SO4などとして取り残されます。「
10BeとNa+イオンの相関」はこうしたプロセスのどこかに関わるのか、あるいは無関係なのか?(藤田)
15:43 | コメント(0)
2019/04/27

ドームふじアイスコアのガス中のO2/N2比

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3月末のICC研究集会、そして、EGUで、極地研の大藪さん、川村さんらによるドームふじアイスコアのガス中のO2/N2比の解析結果の報告を拝見しました。
ガス中のO2/N2比は、ミランコビッチサイクルによって起こる南極への日射量と同期して変動することが過去の研究によってわかっており、深層アイスコアの年代決定を行う際の重要な情報です。
ミランコビッチサイクルに沿った大きなスケールの(数千年~数万年)抑揚のほかに、ノイズ状の抑揚が「気泡→ハイドレート」遷移直後に起こることが、大藪さん、川村さんらからこれまでも報告されてきました。
 今回の報告の新たな視点の一つは、イオンであるMg2+, Ca2+, F-と、このノイズ状の抑揚が一定の相関をもち、相関係数が0.28程度になるということです。
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「気泡→ハイドレート」遷移の際には、気泡中とハイドレート中のO2とN2の分別が起こることは約15年以上前からドームふじコアで見いだされてきました。「Mg2+, Ca2+, F-と、このノイズ状の抑揚が一定の相関をもつ」ことは、ハイドレート化の先行/後発の度合いと、不純物の存在(ダストや塩微粒子など)によるハイドレートの核生成に関係がありそうに思えます。ミランコビッチサイクルに沿った大きなスケールの抑揚が、ごく短期の不純物の分布によって攪乱されてしまうのです。一方、攪乱が時空間的にどのように緩和・解消していくかに着目すれば、O2やN2の氷のなかでの拡散について知見を得ることができるのかもしれません。(藤田)
15:18 | コメント(0) | アイスコア研究
2019/04/14

過去と将来のティッピングポイントと地球史のなかでの大規模気候変遷

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今回EGU2019に参加するなかで、筆者にとって最も印象深く且つ勉強になったセッションは、「Past and future tipping points and large climate transitions inEarth history」という最終日のセッションでした。2つの導入講演と、6つの招待講演の組み合わせで、過去約8億年前から近年、そして未来にかけて、tipping point (ある敷居値)を超えたとき地球環境が如何に不可逆な変動を起こすかということについて講演が続きました。講演名、演者や要旨についてはここにリンクを置きます。
 
温室効果ガスの濃度が地球上で増えることによって、氷期は今後約5万年間は起こらない。温室効果ガス濃度の上昇で地球の温度が約8℃上昇したとき、南極氷床は今後徐々に縮小・消滅に向かう。地球上の氷床というシステムが、如何に脆弱なものであるかということを、最新の研究成果をレビュー的に示してあらためて俯瞰的に印象づけられた講演群でした。要旨を読んでくださると文脈はかなりご理解いただけるとおもいます。

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Chairperson: Robert DeConto

Introduction: Large climate transition inEarth history from past to future by Gilles Ramstein

The causes of climate change over the last800 million years 
EGU2019-19030_Godderis.pdf

Yves Godderis, Pierre Ma

Plate tectonic driven changes in weatherability as the long-term control on Earth’s climate state 
EGU2019-18957_Swanson-Hysell.pdf
Nicholas Swanson-Hysell, Francis A. Macdonald, Yuem Park, Yves Godderis, Lorraine E. Lisiecki, and Oliver Jagoutz

Cryosphere as the thermometer of CenozoicEarth system evolution
EGU2019-18980_Colleoni.pdf

Florence Colleoni, Laura De Santis, andAndrea Bergamasco

 

Introduction: Cryosphere and climateinteractions from past to future by Ayako Abe-Ouchi

 

Paleoclimate constraints on criticalclimate thresholds
EGU2019-18714_Ganopolski.pdf

Andrey Ganopolski

The dynamics of abrupt climate changesduring the last glacial cycle

EGU2019-18848_Nisancioglu.pdf
Kerim Nisancioglu, Chuncheng Guo, and MariJensen

Future tipping points of ice-sheets onEarth
EGU2019-18955_Winkelmann.pdf

RicardaWinkelmann
11:24 | コメント(0) | 学会での見聞録など
2019/04/13

Jacques Laskar氏の講演

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 今年のEGUでは、Jacques Laskar氏がMilutin Milankovic Medalという賞を受賞されていました。フランスの天文学者の方で、太陽系の軌道計算や軌道の進化を研究されている方です。地球のミランコビッチサイクルにかかる各種計算結果は、アイスコアをはじめとした古環境研究で活用されています。

ウィキペディアでもその業績をみることができます。
https://en.wikipedia.org/wiki/Jacques_Laskar

この記念講演がこちら。
Astronomical solutions for paleoclimate studies. Historical views and new challenges. 
Jacques Laskar
https://meetingorganizer.copernicus.org/EGU2019/EGU2019-18523.pdf

講演の概要は、上の要旨を読んでくださると一番いいのですが、ミランコビッチサイクルの信頼できる計算限界として、10M年、20M年、40M年といういくつかの限界を示されていました。解析的に計算できる時代、解析解は無理で数値計算に臨むことになる20M年以上の時期、そして、40M年以上の計算は、誤差が拡がり不可能とのこと。アイスコア研究の時間の範囲では、現時点で1M年前後までを研究対象にするので、十分に信頼できる範囲にはいってきます。40M年以上の古い時代においては、Geological recordを読むことで、逆に地球の軌道要素を推定していくことが、今後の研究の方向であることを述べられていました。
13:33 | コメント(0) | 学会での見聞録など
2019/04/12

氷の昇華に基づくアイスコアのガスの連続解析

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 1.5M年前のような非常に古い氷の分析では、1メートルの深度区間に1~2万年の年層があり、それを高分解能で解析する必要が生じます。下記は、昇華抽出と、レーザースペクトロスコピーに基づく連続解析の試みです。

deepSLice: A novel multi-species and high-resolution method for trace gas analytics in extremely thinned ice
Bernhard Bereiter (ベルン大)
https://meetingorganizer.copernicus.org/EGU2019/EGU2019-9076.pdf

真空中に棒状の試料(アイスコアサンプルの予備試料)を置き、その1断面を連続的に昇華させて、生じたガスの分析をしていくものです。氷の昇華を促すために赤外光を照射する仕掛けですが、その赤外光のガウス型の分布が氷の表面の昇華形状として出現したり、氷表面が面的ではなくささくれだつような形状で昇華していく、そうしたところに技術的な克服すべき点があることを示していました。
革新を目指す試みに見えました。挑戦しがいがありそうです。


09:14 | コメント(0) | 学会での見聞録など
2019/04/11

最古のアイスコアの最深部の概算年代付け

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 こうしたブログをすすめたいと思ったのが、昨年のSCAR2018(ダボス)参加時でした。すでに10か月近くの時間がたち、その間、「南極ブログ」はすすめたものの、「研究ブログ」への投稿ができずにいました。

 今回EGU2019 (2019. 4.8 - 4.12)に参加し、欧州や他の地域の多くの研究者が集まると刺激に満ちた研究成果や経過を見聞します。そうしたことをシェアしていきたいとおもいますので、これを機に少しづつでも書き綴っていきたいとおもいます。皆様も少しづつで構いませんから、投稿にもご参加くださいませ。


この2月に終えた南極観測の成果を発表するポスターの前で(筆者)。レーダ観測の結果を実施報告および速報として示しました。

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最初の話題は、
Synthetic ice core records of the past 1.5 million years (Wolff et al.)です。
https://meetingorganizer.copernicus.org/EGU2019/EGU2019-19.pdf

過去80万年をこえるような古さのアイスコアを掘削したとき、掘削直後の解析によってだいたいどれだけの古い時代に到達したかを見定めるには、海底堆積物の信号との比較が重要になります。しかし、アイスコアと、海底堆積物の間では、みている信号が異なりますから、何を比較すると相似の信号を対比できるかというのが本発表の課題でした。
DEP(固体電気伝導度計測)による計測は、深層アイスコアを掘ったときに最初に実施する非破壊計測です。これは、水同位体信号(温度の指標)とは一対一では相関をもたないため、DEP信号からただちに氷期間氷期サイクルを読み取るには難があります。
Martinez-Garcia 2011 は、EDCアイスコアのダスト信号と、海底堆積物ODP 1090から得られた鉄信号( Fe)との相関をみつけています。
これを参考にすれば、新たに深層コアを掘削したとき、アイスコアのダスト信号を早期に得ることができれば海底堆積物の古環境信号との年代同期を実施していくことができます。
また、Elderfield (2012)は、EDCアイスコアの水同位体比(δD)と、海底堆積物のMg/Ca(海洋の温度の指標)の間に相関があることを見いだしています。
こうして、DEP電気信号、ダスト、δDと、海底堆積物の信号の相関を例示したうえで、到達年代の見当をつけるには、ダスト解析を活用することが適しているとの見解を示していました。

(参考)
Martinez-Garcia, A etal. (2011): Southern Ocean dust-climate coupling over the past four millionyears. Nature, 476(7360), 312-316, https://doi.org/10.1038/nature10310.
Elderfield, H et al.(2012): Evolution of ocean temperature ... the Mid-Pleistocene ClimateTransition. Science, 337(6095), 704-709,https://doi.org/10.1126/science.1221294
Birner, B et al. (2016): Similar millennial climate variability on the Iberian margin during two early Pleistocene glacials and MIS 3. Paleoceanography, 31(1), 203-217
08:37 | コメント(0) | 学会での見聞録など
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