アイスコア研究ブログ


2019/05/06

Astronomical forcing of the MPT

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EGU2019で出会った講演の紹介を続けます。
セッション「40k to 100 k: climate before and after the MPT」では、最古のアイスコアが研究ターゲットとするような、過去100万年をこえる時間スケールでの気候変動にかかわる要素について講演が展開されました。このセッションの目的は、将来複数の「最古のアイスコア」が掘削されてくる前に、この時代の気候変動についてあらかじめよく勉強し認識を深めておこうとするものです。
このセッションでの最初の招待講演が、Didier Paillard氏による
「On the astronomical forcing of the Mid-Pleistocene transition 」というものでした。

気候変動の大きな周期性は、約100万年まえに、それ以前の4万年周期の卓越から、その後の現在に至る10万年周期に変化しています。このMPT遷移の変動は、しばしば大気中のCO2の減少と関連付けられがちです。まだアイスコアがカバーしていない時代(約80万年以前)の大気中の温室効果ガス濃度はまだデータが少ない状況が続いています。Paillard氏は、海底堆積物のなかに含まれる炭素の同位体である13Cに着目し、その気候変動としての周期性を示しました。氏が示したのは、この13Cには、明瞭に40万年~50万年の周期性があり、40.5万年の周期が特に卓越していること。この振動の意味を理解することが、気候変動メカニズムのパズルを解く本質的な要素ではないかということが氏のメッセージです。これらのサイクルは、公転軌道の離心率(eccentricity)に何らかの関係がありそう。興味深いことは、40万年の離心率サイクルの最小値が、ちょうど100万年前の MPT前のタイミングにあたっていること。そして、さらに以前の最小値が、ちょうど300万年前のthe Plio-Pleistocene transitionに相当していること。さらにはこうした関連が、Oligocene や Mioceneの時代にも見えること。カーボンサイクルの長周期変動が天文学的なforcingをうけていることに特に注目すべきであるということがこの講演者の主張でした。これらのサイクルは、巨大氷床にかかわる位相という点で過去100万年に奇妙な特徴をもっている;40万年周期のカーボンサイクルはMPTを境として反転している。こうした観測事実はMPTを境とした気候の周期性の変動メカニズムに対して何等かの束縛条件を与えるのではないか?
大気中のpCO2がMPT やthe Plio-Pleistocene transitionで変動することが、天文学的なforcingによるということが、講演者の提案でした。

講演者からのメッセージのひとつは、
We need conceptual model for pCO2 before it is actually measured.


講演要旨のPDFはこちら。
EGU2019-13905.pdf

なお、ここで根拠としたδ13C in marine sedimentsにかかる論文はこちら。
Cramer, BS et al. (2003): Orbital climate forcing of d13C excursions in the late Paleocene-early Eocene (chrons C24n–C25n). Paleoceanography, 18(4), 1097, https://doi.org/10.1029/2003PA000909

講演者がこの内容を主張している論文はこちら。
Paillard D. (2017) The Plio-Pleistocene climatic evolution as a consequence of orbital forcing on the carbon cycle. Clim. Past, vol. 13 pp. 1259-1267.
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