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南極氷床の流動過程

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 キークエスチョン:
南極氷床とグリーンランド氷床は、動力学・流動過程としてどれだけの氷を海に向けて供給するのか?

 南極大陸には、大陸の岩盤の上を覆う厚い氷「氷床」が存在します。こうした氷は、大陸の上に雪や霜などの形で固定された水蒸気が、自重により焼結・圧密することによって成立している氷であり、氷床の内部の氷は万年~数百万年規模の年代をもつと考えられています。ちなみに、時間連続的な気候記録を有する「アイスコア」のこれまでの最古のものは、欧州連合が掘削した約82万年の年代をもつものです。こうした巨大氷床は、大陸内陸部ほど表面標高が高くなります。そうした氷は、地球の重力を駆動力にして、標高の低い方向、つまり、海の方向へ流動していき、最終的には海に流出していきます。その流動の早さは、氷床の温度、氷結晶の物理化学的性質、氷床底面が凍結しているか融解しているか、基盤地形の形状等、多くの要因に支配されています。下に示す図は、人工衛星からの観測に基づき氷床の流動速度の分布を示したものです。流動速度が相対的に小さい内陸部と、際だって流動速度が高いような、沿岸付近の「氷流」(stream flow)に区別できることがわかります。

私達は、こうした南極氷床について、粘性流動構造体としての100万年規模やそれ以上の時間スケールの歴史や支配メカニズムを読み解くことを研究課題のひとつとしています。南極観測の流動過程の研究は、人工衛星データの応用、南極現場での流動観測や内部構造観測、それに、氷床流動モデル研究を融合した研究が必要になります。



(上)合成開口レーダ干渉法を用いて作成された南極氷床表面流動速度実測図 (Rignotら, 2011)

 人工衛星を用いた南極観測が本格化する1990年代前後までは、南極全体の氷床流動の俯瞰像をとらえることは容易ではありませんでした。現在は、上に示すような「合成開口レーダ」をもちいた差分法(時期の異なるデータを比べ、表面の特徴の変位を抽出する)ことにより、南極全体の氷床流動の分布がわかるようになってきました。上に示した合成開口レーダだけでなく、近年は光学センサを搭載した衛星「Landsat 8」のデータの解析に基づき、詳細な氷床流速分布図が発表されるようになってきました。

このように、流速分布の把握には人工衛星データが必須なものとなっています。一方、氷床の流域や場所によって、流動構造が大きく異なる事実もあります。このため、下記に示すような要素に着目して、様々なメカニズムを探る研究も重要となります。

 沿岸部、中流部、氷流でのそれぞれの流動プロセス
 底面融解・氷下水流や底面すべりの評価

また、人工衛星からの観測技術としては、現時点では氷床内部構造まで検知することはできません。氷床内部の観測は、地上あるいは航空機をベースにして、「アイスレーダ」と呼ぶレーダを用いて観測することになります。下記が、アイスレーダを用いて氷床内部の断面構造を読み込んだ一例になります。


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図:氷床探査レーダ(アイスレーダ)を用いて氷床内部を観測した断面図(上)。そのデータに基づいて、氷床内部に存在する等年代面(同じ時代の堆積面)を読み取ったもの(下)。

こうした氷床断面のデータに基づき、私たちは以下の研究課題に取り組んでいます。
 3次元内部構造から、過去の氷床変動を解読していく。
 古環境復元のためにアイスコア掘削すべき最適地はどこかを同定する。



図:雪上車搭載のレーダで用いているアンテナを装着した雪上車。写真は、2017/2018シーズンの南極観測での様子。雪上車を用いた探査では、航空機を用いた探査と比較したとき、広域調査に向けた展開力では大きく抑制される。しかし、レーダを観測対象である氷床に極めて近いところ(氷床表面)に設置できる利点がある。さらには、大型のアンテナを用いて、レーダ観測で高いアンテナ「利得」性能(観測対象に向けての電磁波エネルギーを集中できる能力)をもつことができる。このため、比較的限定された地域の氷床の詳細な内部構造を探査することには、雪上車を用いた観測は適している。