目次
 
 
 目次
アイスコアって何?
アイスコアを分析すると何がわかるの?
掘削場所はどうやって決めるの? (動画あり)
アイスコアはどうやって掘るの?(動画あり)
アイスコアを掘ったあとはどうするの?(動画あり)
南極内陸部から日本まではどうやってアイスコアを運ぶの?
国内へ持ち帰ったあとはどうするの?
持ち帰ったアイスコアを使ってどんな分析をしているの?(動画が2つあり)
いま目指しているものは何?
終わりに
 
アイスコアって何?
 
 
 アイスコアって何?

 南極やグリーンランドの氷床は、数万年から数十万年にわたる過去の積雪が積み重なってできたものです。こうした氷を専用のドリルによってくりぬき、円柱状のサンプル  -アイスコア-  を採取・分析すると、それがもともと雪として降り積もった時代の地球の古環境を読み解くことができます。地球の気候変動の将来を予測する上で、とても重要なデータを供給します。中緯度の山岳地帯には氷河や氷帽(山頂付近を覆う氷)が存在し、そうした氷河でもアイスコアを採取し気候や環境の変動を研究します。

 本ページでは、アイスコア研究のなかでも最も規模の大きな研究である、南極大陸での深層アイスコア研究に焦点をあてて紹介します。



図:グリーンランド(左図)と南極大陸(右図)。どちらも、陸地は巨大な氷である氷床(ひょうしょう)に覆われています。こうした氷床の中の適地を選び掘削することで、気候変動を読み解く氷サンプル「アイスコア」を採取します。


 

図:左側、南極内陸部「ドームふじ基地」での2006年の掘削風景。観測隊員が、掘削機を地下に向かって降ろしているところです。南極内陸向け仕様の掘削機の全長は12メートル以上あります。この画像には、その上部2mのみがみえており、残りの10mあまりは、地下に向けて釣り下がっています。こうした掘削機を、最深では約3000m深まで下降させてアイスコアを採取します。
右側、掘削直後の4m長のアイスコア。直径94mmです。南極内陸向け仕様の深層掘削機では、1回の掘削毎に4m長のアイスコアを採取します。


 

図:左側、掘削直後のアイスコアの円柱状の断面。
右側、南極ドームふじ基地で掘削した最も深く、最も古い時代のアイスコア。約72万年前の氷でした。



写真:日本が1993年から基地をかまえてアイスコアの深層掘削を実施してきた基地「ドームふじ」。夏期間には、晴天の日が多く、白夜の陽光が輝きます。
  
 
アイスコアを分析すると何がわかるの?
 
 
 アイスコアを分析すると何がわかるの?

 アイスコアは、地球環境変動史(東南極で約70-80万年)の重要な情報源です。アイスコアには、地球の気温の変遷にかかる情報、温室効果ガスを含む、地球の大気成分の変遷にかかる情報、海洋環境の情報、陸域環境、さらには、宇宙起源(たとえば太陽活動)の情報を含んでいます。こうした情報は、アイスコアを構成する水の同位体の分析、含有の微量イオンや不純物の分析、土壌起源は火山噴火起源の固体微粒子や火山灰の分析などから明らかにしていくことができます。 
 多地域のアイスコアのシグナルの比較で、全球の気候変動現象が面的にわかるという特徴もあります。たとえば、地球上で気候変動が出現した場所がわかるほか、それが地球上にどのように拡がっていったかを追跡することも可能となっています。


図:アイスコア(雪氷学的記録)からわかることの主な項目や時間スケールを、地質学的な記録や生物学的な記録のそれと比較してみます。上の表題で「proxy」とは、古環境情報を明らかにするうえで仲立ちとなるものです。アイスコア、海底堆積物や鍾乳石などがこれに該当します。図は藤井理行氏による。




図:分析項目と、その分析によりわかる気候・環境要素の対応表。藤井理行氏による。


これまで多数の報道発表をおこなっています。下記のリンクでご覧ください。
 報道発表へのリンク


 

図:左側、ドームふじアイスコアから明らかになった知見:過去72万年の間に、地球は約10万年周期で氷河期と呼ばれる寒冷な時期と間氷期と呼ばれる温暖な時期を繰り返してきました。ドームふじアイスコアの研究から、氷期の間にも、何度も南極が温暖になる現象が繰り返し発生したことを明らかにしました。上のグラフは、気候の温暖と寒冷、下のグラフは、地球規模で大陸棚がどれだけ氷に覆われずに露出されているかを知る手がかりです。
右側、ドームふじアイスコアの分析から、地球上のどこかで大量の硫酸ガスを噴出した痕跡を大量に見出し、過去21万6千年でみたとき1401回、南極のドームふじと、2000km以上離れたドームC地点で年代が一致している噴火の痕跡を共通に見出しました。地球上で火山噴火が発生する頻度を知る手がかりになるほか、遠く離れた2地点のアイスコア間の精密な年代一致点を1401個見出すことに成功しました。
 
 
 
掘削場所はどうやって決めるの?
 
 
 掘削場所はどうやって決めるの?

 アイスコアの掘削場所は、どの地域のどれだけの時間スケールの気候変動の歴史を明らかにしたいかの目的に基づいて決定します。全地球規模の気候変動の歴史を100万年の時間スケールで明らかにしたい場合には、南極大陸でなければ、そうした古くまで時代をさかのぼれる氷は残っていません。大西洋の北部に位置するグリーンランド島も、南極と同様に巨大な氷床に覆われていますが、さかのぼれる時間スケールは10万年程度になります。中緯度や極域の氷河や氷帽では、さらに短い時間スケールだが、高分解能の気候変動の解明研究を実施しています。ここに書いたどの場所にしても、極寒の極地です。きわめて周到に準備をしてすすめる仕事になります。


  
図:氷床断面の概念図: 氷床は、それ自体の重さがあるため、重力によって高度の高いところから低いところに向かって流動していきます。流動によって氷の層が乱されてしまうと、古環境を明らかにするサンプルには適さないことになってしまいます。そのため、氷床の頂上付近が、流動が少ない理由によりアイスコアの採取の適地となります。




図:実際の氷床断面を、レーダ探査により可視化した画像: この画像は、レーダを搭載した雪上車が、氷床表面の上を約200km移動しながら氷の内部からの電波反射を観測した結果を画像化したものです。厚さ約2100~3400mの氷の下にある大陸岩盤を読み取ることができます。また、氷の内部には無数の縞々(しましま)模様の層構造が存在することがわかります。この層構造は、過去の地球環境の変化、特に火山噴火起源の硫酸が氷床の内部に層状に含まれていることや、氷の結晶のもつ配向(アイスファブリックと専門用語で呼びます)が層構造を成していることから電磁波の反射が起こることによります。アイスコアの掘削地点を選定する際には、こうした層構造が安定して(褶曲や断層がないこと)いることが大前提になります。さらには、氷床の底面が融けているか、凍結しているかなど、種々の条件を満たすかどうか入念に点検します。




写真: レーダ探査装備を搭載した2台の雪上車(2018年12月、南極ドームふじ基地)。最新鋭のレーダを2台の雪上車に搭載しています。送信用のアンテナを使って地下に向けて発射した電磁波が、氷床の内部で跳ね返ってくるものを、受信用のアンテナで受信しています。こうした装備を用いて、現地に滞在する1か月余りの間に数千キロの走行を実施して掘削候補地の調査を行います。


  動画:南極内陸部での氷の厚さの調査 最大分解能はHD設定となっています。 


 
アイスコアはどうやって掘るの?
 
 
 アイスコアはどうやって掘るの?

 アイスコアは、専用のアイスコア掘削機を用いて掘削します。ドームふじで実際に使用されている掘削機の図を示します。この掘削機の開発は1980年代にはじまり、既に30年以上にわたる関係者の開発・改良の歴史があります。現在の掘削機は、1回のコア掘削で約4m長のアイスコアを掘削することができます。氷床の表面から、約3000m厚の氷を採取するためには、掘削機を1000回以上掘削孔のなかに昇降させて繰り返し掘る必要があります。実際に採取されるアイスコアの直径は94mmです。掘削機の刃を回転させながら周囲の氷を切削していくため、刃の削りしろを必要とします。実際の掘削孔の径は135mmです。掘削した孔の内部には、周囲の氷床から高い静水圧がかかります。そのため、掘削孔周囲の氷が変形して孔が閉じてしまうことを予防するために、掘削孔の内部は「液封液」と呼ぶ氷とほぼ同等の密度をもち粘性の小さい液体を流し込みます。掘削孔の深度約100mよりも深いところは、この液封液で満たされます。日本が実施するアイスコア掘削では、この液封液としては「酢酸ブチル」という有機溶剤を用いています。

図:深層掘削機の概念図 (藤井理行氏による)


 

写真 左右共: ドームふじ掘削場で引き揚げた掘削機を横たえて作業をする様子。


 

写真左 掘削機のバレルから採取したアイスコアを取り出すところ。 写真右 掘削機を制御する掘削コントロール室の風景。


 

写真左 12m長の掘削機を地下に向けて吊り降ろすための溝、通称トレンチ。 写真右 掘削機の筒(バレル)に充填されて引きあげられたばかりのアイスコア。




写真:掘削場を外から見る。右側のテントの下で掘削が実施されました。左側にあるドアは現場処理場(下に説明します)に降りる階段。アイスコアの最終貯蔵庫を、雪を掘りこんで建設していた、2006年に撮影した写真です。
 
  動画:深層アイスコアの掘削風景 最大分解能はHD設定となっています。
 
 
 
アイスコアを掘ったあとはどうするの?
 
 
 アイスコアを掘ったあとはどうするの?

 掘削したアイスコアは、やがて日本に持ち帰ったうえで本格的な分析にかける必要があります。南極の掘削現場でまず行う必要のあることがいくつかあります。

掘削の状況やサンプルの状況など、現場のことを正確に記録し、掘削したアイスコアの連続性を確認したうえで基本帳簿を作成する。
現場でおこなうことが合理的であるような計測、あるいは、現場で計測しておかなければならないような事項を計測する。
国内に持ち帰るために必要な切断と梱包を実施する。
優先度の高い梱包から、国内に向けた輸送に送り出す。

こうした一連の作業を、私達は現場処理と呼んでいます。南極の深層コアは、全長3000メートルにもおよびます。このため、上に述べた作業の作業量もとても大きなものになります。南極の内陸基地でのごく限られた人員でこの作業をおこなうため、作業は省力化・自動化して実施します。掘削場の作業環境の温度は概ね-20℃に設定しておこないます。アイスコアを処理する空間も、ほぼ-20℃としています。

 

写真左:掘削チームが掘削後、現場処理にかけるまで棚に一時貯蔵するアイスコア。貯蔵温度は-30℃~-40℃程度としています。
写真右:現場処理チームが実施する水平切断作業。省力化のため、特殊なノコギリ(バンドソー)の刃に対してアイスコアを自動的に送り出しています。
 

 

写真左:アイスコアの自動切断の制御画面。液晶画面が凍ってしまっています。
写真右:バンドソー切断後のアイスコアの表面を鏡面に削り込む作業を、機器「大型ミクロトーム」という器材を用いて行っていきます。


 

写真左:バンドソーで側面を2面切断した面を、ミクロトームと呼ぶ大型の研削器で平坦面を作成したうえで、氷の内部での光の散乱を確認します。氷の内部に含まれる不純物物質、火山灰などがあると、光の散乱が強まります。稀ですが、微隕石を含む層も2層確認しました。
写真右:氷の表面の電気伝導度を計測しています。過去に地球上のどこかで火山爆発が起こった時代に積もった雪に起源をもつ氷には、硫酸が多く含まれています。そうした氷は高い電気伝導度をもつため、電気伝導度の計測によって火山爆発の痕跡をとらえることができます。


 

写真左:アイスコアを国内に輸送するためには、専用の段ボール箱に収納するために、1コアあたりの長さを50cmに整えます。そのための切断作業を実施しています。
写真右:国内に輸送するアイスコアは一つ一つID情報を記載した「コアカード」とともにビニルチューブに収めます。これをあわせて6~9本づつを1つの段ボール箱に収納していきます。


  

写真左: アイスコアを段ボール詰めにしていきます。
写真右: 最終貯蔵庫に積み上げた帰国持ち帰り用段ボール梱包。1梱あたりの重量は30kgをこえます。こうした梱包を約450梱、日本に向けて輸送します。重量は合計で約14トンになりました。この最終貯蔵庫の温度は-50℃を下回ります。掘削した氷の質を劣化させずに済む、貯蔵温度としては非常に良い温度です。

動画:深層アイスコアの現場処理 最大分解能はHD設定となっています。
 
 
 
南極内陸部から日本まではどうやってアイスコアを運ぶの?
 
 
 南極内陸部から日本まではどうやってアイスコアを運ぶの?

 合計約14トンにおよぶアイスコアは、以下の流れで日本に向けて送り出します。
まず、ドームふじ基地で、輸送用の橇に積載し、南極氷床の上を約1050km輸送し、沿岸にあるヘリコプターの空輸拠点まで輸送します。
空輸拠点で、砕氷艦「しらせ」のもつヘリコプターに積み替え、砕氷艦「しらせ」上に搭載された冷凍物資用コンテナに積み替えます。
こうして「しらせ」に積載されたアイスコアは、南極から日本までの長い航海を経て、日本に送り届けられます。
アイスコアは、現在は主に、東京都立川市にある国立極地研究所に輸送し、そこに保存されています。アイスコアの一部は、札幌市にある北海道大学低温科学研究所に保管されているほか、首都圏の大震災などの災害への備えとして一部を仙台市にある冷凍倉庫に貯蔵しています。 

 

写真左:橇に段ボールを積載し、断熱のシートで覆いをかけた。強い日射によるアイスコアの昇温を防ぐための輸送法(2005年)
写真右:同様にアイスコアを積載した橇列の作成(2018年)


 

写真左:アイスコアを積載した橇をけん引する雪上車。この雪上車で、約1000km牽引します。行程は約3週間かかります。
図右:雪上車による約1000kmの輸送経路。沿岸でヘリコプターに移し替えて、砕氷艦「しらせ」へ空輸します。


  

写真左:アイスコアを搭載した橇の付近に「しらせ」から大陸上に飛来したヘリコプターが到着したところ。このタイミングで仮に悪天に遭遇してしまうと、ヘリコプターが現地へ飛ぶことができず、その間にアイスコアが現地の気温である-10℃程度まで昇温してしまいます。好天時にこの沿岸の輸送拠点に到着できるように気象状況を慎重に見計らって行動します。
写真右:ヘリコプター内に積載されたアイスコアが甲板に降ろされたところ。これから冷凍コンテナへ入れます。

2004年~2007年にかけて掘削した3035m長のアイスコアは、段階的に日本国内に向けての輸送を続けてきましたが、2018年4月までに全アイスコアの日本に向けた輸送を完了しました。

 
 
国内へ持ち帰ったあとはどうするの?
 
 
 国内へ持ち帰ったあとはどうするの?

 研究の全国的組織体制をつくっています

 ここで紹介しているドームふじ深層アイスコアの国内での研究は、国立極地研究所アイスコア研究委員会の中に設置された共同研究組織「ドームふじアイスコアコンソーシアム(略称:ICC)」のもとで実施されています。ICCでは、国内外の関連研究期間が効果的に連携と推進することをはかっています。このICC は、南極氷床ドームふじ深層掘削計画で掘削された深層および浅層コアの解析と研究を実施する目的で組織されました。 構成メンバーは各研究機関や大学からの参加で合計約80名です。ICCは、アイスコアの管理、研究計画立案、解析の実施、解析情報の相互利用と共同研究の推進、研究会の開催、 研究成果の国内外への発信の奨励などをおこなっています。下のバナーをクリックするとICCのホームページが開きます。
   

 研究センターの体制をつくっています

 国立極地研究所には、南極やグリーンランドなどから採取されるアイスコアの研究を強化し、中長期的視野に立ってアイスコア研究を総合的に推進していくこと目的として
アイスコア研究センターが設置されています。このセンターは、世界最先端の氷床深層掘削技術を有しています。南極氷床内陸に建設したドームふじ基地にて2度にわたる深層掘削を実施し、70万年以上をカバーする3035mの深さまでのアイスコア掘削に成功した実績を持ちます。また、100~300mの深さの浅層アイスコアの掘削を南極・北極やグリーンランドの多地点で実施してきました。本センターはアイスコア研究分野において、高度なサンプルの分析研究と高度な掘削技術を持つという大きな特色を持っています。さらに、アイスコアを、高度な分析技術を駆使した分析機器群を用いて高速で分析することができる体制をこれまでにととのえてきました。アイスコア研究センターは、国内的と国際的に、アイスコア研究を学際的融合研究として飛躍的な進捗をさせること目指しています。下のバナーをクリックするとホームページが開きます。




この建物に、国立極地研究所、統計数理研究所、国文学資料館がはいっています。低温室はB1階にあります。

 アイスコアの冷凍貯蔵体制 ーこの貴重なサンプルを研究に供しますー

 ドームふじアイスコアの貯蔵は、国立極地研究所、北海道大学低温科学研究所、それに、仙台市にある民間の冷凍倉庫を貯蔵場所としています。各地に分散して貯蔵することによって、仮に震災等の大災害が発生し首都圏の送電機能が麻痺するようなことがあっても、アイスコアサンプルが昇温・融解等で完全に棄損してしまうことの無いようにはかっています。 
 国立極地研究所では、極地研究や関連科学研究・技術研究を推進する施設として、近代的な低温室設備および先端の計測・分析・試料整形機器を有しています。計9室の低温実験室、計6室の低温試料貯蔵室、計2室の常温研究室を設置しています。この低温実験・貯蔵施設は、広く南極・北極等の極地研究者や、低温環境を必要とする実験研究の研究インフラとして活用でき、一定の手続きを経て、使用することができます。ドームふじで採取されたアイスコアは、-50℃それに-30℃の環境下に保存しています。下のバナーをクリックすると低温室のホームページが開きます。各部屋についての詳細は低温室のホームページからからご覧下さい。
 また、サンプルはほぼすべて写真撮影したうえでデータベース化しています。日本にあるサンプルがどれだけ使用されどれだけが保存されているかの情報は随時最新の状態に更新し、研究の関係者で共有しています。

  


   
写真: 順に、雪氷コア貯蔵庫B -50℃(左)、雪氷コア貯蔵庫A-1  -30℃(中)、前室  -15℃(右)


 国際的な連絡体制を構築しています
 ドームふじアイスコアをはじめとしたアイスコア研究の国際連携は、International Partnerships in Ice Core Sciences (IPICS)を通じて行なっています。IPICSは、国際間の連携・共同により関連研究者がより力を発揮できることを目的に、情報交換や協力体制の模索がおこなわれています.諸外国の研究グループとは、協力と競争の両面をもって切磋琢磨しています。下のバナーをクリックするとIPICSを紹介しているホームページが開きます。


 
      2016年3月に開催されたOpen Science Conference (豪州 Hobart)での集合写真
 
 
持ち帰ったアイスコアを使ってどんな分析をしているの?
 
 
 持ち帰ったアイスコアを使ってどんな分析をしているの?

 最も基本的な分析としては、水の同位体の分析、含有化学成分、固体微粒子成分、ガス成分、結晶物理解析の解析が実施され、本ページの上部に示したような気候・環境要素に関する情報を明らかにする作業をつづけています。そして、明らかにした知見やデータを順次論文化して公表を続けています。氷を、分析を通じてデータに変換し、そのデータの検討を通じて気候変動に関する重要な知識(アウトカム)を明らかにする作業に取り組んでいます。知識の革新に挑むには、分析の技術や私達自身の研究能力も常に磨き続けなければなりません。これらに対しても私達はエンドレスの作業として取り組んでいます。

低温室の様子と、解析の様子については、極地研探検2021では研究所探検として動画を公開しています。


写真:国立極地研究所の雪氷コア解析室(-20℃)に於いて、アイスコアの切断・整形や写真撮影・パッキングをおこなっている風景です。右下にある角柱状のサンプルは、連続融解解析(Continuous Flow Analysis: CFAと略称)に使用されます。CFAでは、水の同位体、各種元素分析、メタンガス成分などが、1mm程度の分解能で連続に分析することが可能になっています。

動画:低温実験室でのアイスコアの処理作業 最大分解能はHD設定となっています。




 

写真左:CFAの連続融解装置。正面に見えるのは冷凍庫。このなかで、金色に見える融解ヘッドをもちいて、角柱状のアイスコアサンプルを下側から融かしています。融解水や融解の結果アイスコアから解放されるガス成分は、それぞれ専用の分析装置に送られ、データに変換されていきます。
写真右:CFA装置のオペレーターが見るコントロール装置。

動画: アイスコアの連続融解解析作業 最大分解能はHD設定となっています。



写真:アイスコアを構成する結晶の物理的な解析の一例。左:結晶表面での光の反射。中:結晶の偏光薄片写真。色の違いは、氷を構成する様々な結晶粒の向きが違うことを意味しています。右:結晶方位計測結果を色を使って表現したもの。

 
 
いま目指しているものは何?
 
 
 いま目指しているものは何?

 私達は、気候・環境変動の歴史を明らかにするため、これまで採取してきたアイスコアに最先端の技術を用いて分析を継続し、論文出版を続けています。同時に、過去100万年をこえる時間スケールの気候・環境変動史を明らかにする「第三期ドームふじ観測計画」が立案され、実行段階にはいりつつあります。下の写真をクリックすると、ホームページが開きます。


 第二期ドームふじ観測計画において、72万年をさかのぼる氷床深層コアが掘削され、10万年周期の氷期・間氷期サイクルや、突然起こった気候変動などの研究に貢献してきました。一方で、海底堆積物コア解析による、さらに古い時代までの環境復元によると、氷期・間氷期サイクルの卓越周期は約4万年であったことが報告されています。しかしながら、その原因や10万年周期への移行のメカニズムはわかっていません。

そのため、100万年を超える気候記録を有する氷床コアを取得し、南極の気候と温室効果ガス濃度を復元することが、気候研究における大きな課題となっています。氷床コア掘削・研究の国際共同推進のためのエキスパートグループであるInternational Partnership in Ice Core Sciences(IPICS)は、重要課題として「Oldest Ice Core」(最古の氷床コア)プロジェクトを設定しています。これは、南極の異なる地点で複数の氷床コアを掘削し、150万年前までの気候記録の獲得を目指すものです。

 100万年を超える古い氷は、複数の条件を満たした場所に存在すると推定されています。氷は厚いほどその最下層に古い年代の氷が保存されている可能性が高くなりますが、一方で厚い氷は大きな断熱効果を持つため、地殻熱によって氷床底面が融解します。そのため、底面が凍結し、かつ古い氷が存在する適度な氷厚が求められます。また氷床流動が活発な場所では内部層構造が乱される可能性が高いため、低速で安定した氷床流動である必要があります。さらに古い氷が存在するためには、小さな涵養量であることも必要条件です。これらの条件を考慮した氷床モデル研究により(Fischer et al., 2013)、南極氷床の中で100万年を超える古い氷が存在しうる場所が推定されています。

 上記の条件を満たす複数の場所では、各国が掘削計画を進めています。ドームCでは、欧州連合のBeyond EPICAプロジェクトとオーストラリアがそれぞれ候補地として選定しています。またロシアはボストーク基地上流のリッジBでの探査を予定しています。ドームふじ周辺においても、氷床底面が凍結しており、流動が遅く安定した場所に、より古い氷が存在することが期待されます。当計画では、ドームふじ近傍における最も古い氷床コアの掘削を目的とします。


 
終わりに
 
 
 終わりに

 
アイスコアの研究は、古気候の解明を主な目的としていますが、その研究自体は基本的に科学や工学の多分野の複合的な学問になります。極地で氷を採取し、その氷に対し、様々な解析を実施し、気候や環境変動にかかる情報を読み解いていく研究です.関わる学問領域は多岐にわたります。分析には、科学的な目的に応じて、化学分析、ガス分析、物理分析、生物学的分析など、様々な手法や視点を駆使します。また、読み解いたアイスコア情報の解釈には、気候変動や地球システムにかかる高度な知識が必要になります。南極の探査には、氷河学、雪氷学、気象学、大気科学、レーダ工学などの知識を駆使します。氷床流動のモデル化には、数学や流体やレオロジーの知識が求められます。研究や知識の新たな地平の開拓には、新たな考え方や手法の導入が常に求められます.

 人間活動によって、温暖化や海面上昇や土壌劣化など、私達を取り巻く環境は危機が進行している状況にあります。そうしたなかで、地球の気候・環境システムを理解する重大な一部分を担っていきます。

 このページを訪ねてくださり、この分野の研究に興味をもつ学生の方々が、関連の研究室を訪問し、見学をしたり情報収集をしたりすることは特に歓迎します。現役の研究者や大学院生の生の声を聞き、どんな研究ができるか、どんな可能性をもっているか、どんなキャリア・やりがい・課題、抱える問題があるかをぜひ感じとっていただきたいとおもいます。今後10年、50年、100年、さらに先の将来の地球環境を人類にとって持続可能とするために、今何ができるか、それは科学文明と社会に突き付けられた問いになります。
ドームふじアイスコアコンソーシアム、国立極地研究所アイスコア研究センター、国立極地研究所低温室、国立極地研究所気水圏研究グループのホームページもぜひお訪ねください。