南極観測隊便り 2017/2018


2018/01/22

みずほ高原の氷床下の深い谷

Tweet ThisSend to Facebook | by ishida
帰路も氷床レーダ観測を継続しています。みずほ基地から沿岸に向かうまで、氷床の下にある基盤岩に、幅数キロ、長さ名が数十キロかそれ以上にわたる深い谷地形が無数にあります。昨日と本日、それぞれ数箇所の谷の上を横切る形で通過しました。過去に何度もこの地域の谷の上でレーダ観測をしてきましたが、深すぎて、送信した電波が途中で吸収されてしまい、深さをこれまで検知できずにいました。昨日と本日の二日間、今回用意した高感度の計測設定を使ってついに計測ができました。

 この近傍の氷床の厚さは、概ね2,000メートル前後です。そのなかに、幅2~3キロメートル、深さが最大約500メートルのV字形の谷がありました。氷床に覆われた地形なので、氷河特有のU字谷の可能性を考えていましたが、多くの谷の底は鋭いV字の形状をもっています。氷河が削ったのではないとすると、一体何が原因で形成された地形なのでしょうか。人工衛星画像でこの地域の地形をみると、こうした谷が、粗い碁盤の目のごとく縦横に入り組んでいます。まるで、上下に力を繰り返しかけて割れたかのようにみえます。もしかすると、氷河期と温暖期の氷床の増減を反映して、大陸岩盤が上下動を繰り返すなかで発達した割れ目なのかもしれません。そうであれば、谷底の形状が鋭いVであることとも辻褄があいます。帰国後に、こうした現象に詳しい方々にお示ししていきたいとおもっています。谷底の標高は、海面下数百メートルに相当します。

 標高約2,300メートルにある「みずほ基地」も、実はこうしたV字谷のごく近傍にあります。みずほ基地から、南側に百メートルも移動すると、氷の厚さは2,000メートル前後から一気に厚くなり、2,500メートルをこえます。谷の対岸までの距離はやはり数キロメートル。氷床がもしなかったら、「みずほ基地」は谷の「崖っぷち」に立つ基地であったことになります。実は、みずほ基地は上流から流れてくる氷が、収束してくる場所であることが以前からわかっています。谷地形は、氷床の流動を集めてくる構造をもつ場所である可能性が高そうです。谷底には相対的に暖かく軟らかい氷があることや、谷底の水の存在が影響を与えているのかもしれません。昭和基地とみずほ基地間は古くからの日本の南極観測の対象エリアですが、未知・未解明の現象はまだまだあります。特に、「氷床下」は南極研究の最前線のひとつと多くの研究者が認識しています。谷の深さや形状や効果的な計測方法が今回わかったことで、大陸や氷床の歴史をひもとく研究をこの先につなげていくことができそうです。

(藤田記)
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