EISCATについて(EISCAT:欧州非干渉散乱)

EISCATレーダーの所在地

欧州非干渉散乱(EISCAT)レーダー科学協会のレーダーシステムは、
1) スカンジナビア北部のトロムソおよび、キルナ、ソダンキラに設置された世界唯一の3局方式のVHFレーダー、
2) 単局方式のトロムソUHFレーダー と電離圏加熱装置、
3) スヴァールバル諸島ロングイヤビンに設置されている2機のUHFレーダー、
から構成されています。


それぞれの地理緯度経度及び不変磁気緯度:
・Longyearbyen (Svalbard):(78º 09'N, 16º 03'E , Invariant Latitude: 75º10'N)
・Tromsø (Norway):(69º35'N,19º14'E, Invariant Latitude: 66º12'N)
・Kiruna (Sweden):(67º 52'N, 20º 26'E , Invariant Latitude: 64º27'N)
・Sodankylä (Finland):(67º 22'N, 26º 38'E , Invariant Latitude: 63º34')


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EISCATレーダーシステム構成

1981年に Kiruna- Sodanklyä- Tromsø (KST) UHF radar (送信周波数 931 MHz) を稼働開始しました。
また、1988年より Tromsø VHF radar (送信周波数 224 MHz) を稼働開始しました。
現在は VHF帯 (224 MHz) の電波を用いた3局方式観測を行っています。
これらのレーダーシステムを用いてサブオーロラ帯ーオーロラ帯の観測を実施しています。

また、カスプ領域ー極冠域を観測するため、
EISCAT Svalbard radar (ESR) (送信周波数 500 MHz) の 32m アンテナが1996年に、
さらに 42m アンテナが1999年に完成し、稼働開始しました。
これらのレーダーを用いた様々な実験を実施してきています。

EISCAT2.jpg


物理量の導出手順

以下の図に書かれた手順で、
電子密度、電子温度、イオン温度、視線方向のイオン速度の一次物理量に加え、
経験モデル等を組み合わせて電気伝導度や電離圏電流などの二次物理量を導出できます。

s-ISR_Parameter_12


三局方式による観測(EISCAT KST VHFレーダー)

三局方式のEISCAT KST VHFレーダー(以前は UHFレーダー)観測により、イオンの3次元速度ベクトルを導出できます。
F領域では、イオンが ExB ドリフト運動をしていると仮定できることから、イオンの3次元速度ベクトルから電離圏電場を精度良く導出可能です。

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三局方式による観測の模式図(EISCAT 本部提供)

背景と歴史

欧州非干渉散乱(EISCAT)科学協会は、 非干渉散乱(IS)レーダーを用いたヨーロッパにおける宇宙科学の研究や教育を推進するため、 レーダーの建設と維持・運用を主目的として、欧州6ヶ国(独、仏、英、ノルウェー 、スウェーデン、フィンランド) が共同出資し、1975年に設立されました。

科学協会設立の背景として、
(1)高緯度域の大気圏・電離圏・磁気圏に関する研究は、基礎科学として有意義であること。
(2)これらの研究にとって北欧諸国が地理的に非常に重要な位置にあり、且つ研究に必要な観測所を既に有していること。
(3)大規模施設の建設、維持・運用には国際協同が重要であること。
が挙げられます (極地研 News 1996年より)。

1975年にEISCAT科学協会が設立後、
・KST UHFレーダーは1981年より、VHFレーダーは1988年より観測開始。
・EISCAT Svalbard radar (ESR)の計画立案(1990-1992年)。
 ESR第1アンテナ建築(1993-1996年)、1996年より観測開始。
・日本のEISCAT協会への加盟(1996年)。日本が担当するESR第2アンテナ完成、観測開始(1999年)。
・KST UHF/VHFレーダーシステムのリニューアル(1999-2001年)。
・新協定の締結(2007年)。
 EISCAT協会加盟国は、独、英、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、日本、中国の7ヶ国。
・IPY観測期間中に、ESRによる1年間連続観測(2007年3月-2008年2月)。
・新協定の締結(2017年)。 加盟国(Associate)に加え、準加盟国(Affiliate)を設けました。
 韓国(KOPRIとKASI)やウクライナ、フランス(注:2019年まで)が準加盟国として参加。
 2020年にはドイツ(DLR)や米国(APL/JHU)が準加盟国として参加しました。
・あらせ(ERG)衛星とEISCATレーダーとの共同観測(2017年3月-現在)。
の流れで参加国・参加機関の変化と、システム増強や観測が進んでいます。


EISCAT組織と国内体制(2017年以降)

EISCAT科学協会は、全加盟国の合意による「協定書」と「規約」、及びスウェーデンの法律により統制される非営利財団です。 各加盟国からの設備投資金と毎年の維持費分担金を財源として、EISCAT科学協会を運営しています。
最も中心となる組織は、協会全体の運営方針に責任をもつ最高決定機関である評議会(Council)と、 協会全般の運営及びレーダー施設の維持運用を担当する本部(Headquarters)です。 評議会に助言する諮問委員会としては、科学的技術的な諸問題を審議する科学諮問委員会(SAC)と、 管理及び財務的活動について審議する財務委員会(AFC)があります。 評議会と各委員会は通常年2回開催されており、各国からの代表者が集まって議論します。
日本のEISCAT共同利用(2018年度からは特別実験とデータ解析)の公募を毎年実施しています。 EISCAT特別実験審査部会委員による申請課題の審査・評価を行い、その評価を参考にして、 特別実験配分時間案を作成します。その内容が毎年7月頃に開催される非干渉散乱レーダ委員会で承認されます。 特別実験の代表者や共同研究者は、北欧現地あるいは遠隔にてレーダー観測を実施し、研究に必要な観測データを取得します。

EISCAT科学協会の組織を以下の図に示します。


EISCATサイト付近における各種光学・ レーダー観測

名古屋大学宇宙地球環境研究所(ISEE)や国立極地研究所(NIPR)を中心として、 トロムソやロングイヤビンで各種光学・レーダー観測を実施しています。 これらの観測により、EISCATレーダー観測のみでは得られない物理量(中間圏・熱圏の風やオーロラ降下粒子の2次元分布など) を測定しています。

名大ISEEのトロムソ光学観測のページは こちらに。
極地研のトロムソ光学観測のページは こちらに。

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トロムソの光学ドームの一例

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ロングイヤビンの光学ステーション


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