南極観測隊便り 2017/2018


2017/12/17

医療に関する真面目な話

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こんにちは医療隊員宮岡です。虫干しではないですが、今回持ち込んできた医療物資をすべて並べてみました。3か月という期間だとこれだけの量(200kg程度)になります。この中には、飲み薬・点滴・血圧計・採血機械・手術道具等々が入っています。これらの医療物資は前次隊の医療隊員によって準備していただいています。(今後、私も昭和基地にて来年度の内陸調査用医療物資を準備します)



ドームをはじめとした内陸調査において、皮膚の腫瘤をとるといった局所麻酔の手術の記録はあるものの、全身麻酔や腰椎麻酔(いわゆる下半身麻酔)による手術の記録はありません。実際に手術が出来るか検討してみました。

まず、手術場所の検討です。適度な広さ・電源・温度が必須項目です。
1)    ドーム基地…×;広さはあるものの、電源無し、-50℃以下なので不適です
2)    屋外でのテント…△;広さOK、電源は雪上車から、温度はヒーターいれても氷点下を上回るかどうかといったところで、患者の保温という面では適切ではありません。あと、メスや攝子といった金属をもつ私の手が凍傷になる可能性もあります。
3)    雪上車内…△:狭いものの、電源あり、30℃前後の温度が保てます。但し、ホコリがダイヤモンドダストのごとく見えます

消去法で考えると、雪上車しか残りません。
同じように見える雪上車も内部の構造が微妙に異なっており、術者が立て、なおかつ手術台に見立てたベッドが適切な高さになっているものは1台しかありませんでした。

その雪上車で、医療器材が展開できるか試してみました。点滴は番線のフックにつるします。シリンジポンプやそのほかの注射の類は、術者の対側におきます。手術モニターは無線機の上、酸素ボンベは運転席、人工呼吸器は患者の頭のすぐ横(この機械は製造・メンテともすでに国内では中止になっているもの、予算があれば新しいのが欲しい所)、挿管は場所が狭くて非常に困難ですが、エアウェイスコープ(喉頭をモニターで確認しながら挿管できるスグレモノ)があるので、なんとか可能でしょう。夜の23時、カーテンを閉め切ったうえでの照度は400LUX程度、全然足りないので必要時はヘッドライトや懐中電灯で術野を照らしてもらう必要があります。



結論から申し上げると、『手術は可能だが、緊急要請にて飛行機呼んだ方がレスキューの可能性が高い』です。ブリザードで飛行機が飛んでこない、保存的加療よりも手術の方が助かる可能性が高い時のみ、といった限定的な形になりそうです。(緊急手術が大好きな私にとって、少し残念ではあります)
医療物資を持ち込めば持ち込むほど対応範囲は拡がりますが、搭載にも限界がありますので、何をどれだけ持ち込むかは非常に難しい所です。(医療物資は基本使用しないので、使用期限切れで廃棄する事が多いです)いずれ、どこかの学会で報告してみたいと思います。
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