- ドルニエ機による人員派遣
第二期ドームふじ観測計画−南極氷床深層掘削計画−では、2003/2004年から連続する3回の夏期シーズンにドームふじ観測拠点において3000mを超える深さまでの深層掘削を実施する。観測船「しらせ」による隊員の派遣では、ドームふじ観測拠点において掘削に必要な時間を確保することが不可能なため、航空機により隊員を派遣する。ドイツのアルフレッド・ウェゲナー研究所(Alfred-Wegener Institute: AWI)の協力により、AWIが所有する双発航空機であるドルニエ機(Dornier)により隊員を派遣する。
AWIのドルニエ機の南極での離発着は3000mの高度までという制限があるため、南極での航空機の拠点となるノボラザレフスカヤ基地からドームふじ観測拠点間の航空中継拠点までは航空機による人員輸送を行い、航空中継拠点からドームふじ観測拠点までは雪上車による人員輸送を行う。ノボラザレフスカヤ基地へは、ドロンニングモードランド航空網(Dronning Maud Land Air Network: DROMLAN)に参加する国々(日本含む)が共同で運行する大型航空機で南アフリカのケープタンから入る。
第45次隊隊員(越冬隊員1名、夏隊員4名)は、2003年12月上旬に、ドルニエ機によりノボラザレフスカヤ基地からARP1(航空中継拠点1)まで行き、待機していた第44次ドームふじ越冬隊員と共に雪上車でドームふじ観測拠点へ入る。ドームふじ観測拠点において第45次隊隊員5名は第44次隊越冬隊隊員8名と共同で2004年1月下旬まで深層掘削を実施する。
掘削終了後、第45次隊隊員は第44次越冬隊隊員と共に雪上車でARP2(航空中継拠点2)へ移動し、第45次隊夏隊員4名はドルニエ機によりS17地点経由でノボラザレフスカヤ基地へ戻る。
- 派遣隊員
ドームふじへの派遣隊員の選定にあたっては、高所順応の能力、緊急事態に対処する能力、掘削技術に精通していること、南極観測隊参加の経験があることを基準にした。
ドームふじ観測拠点 ドリラー 本山秀明(45次夏隊) 田中洋一(45次越冬隊) 吉本隆安(45次夏隊) 宮原盛厚(45次夏隊) 鈴木利孝(45次夏隊) ノボラザレフスカヤ基地 現地連絡担当隊員1名 古川晶雄(45次夏隊) 昭和基地 S17航空支援隊員1名+支援隊員3名 東 久美子(45次越冬隊)+支援3名
- 航空機による輸送計画
- 人員の派遣(2003年12月上旬)
使用する機体:ドルニエ機(Polar 4)
飛行経路:ノボラザレフスカヤ基地→ARP1(航空中継拠点1)→ノボラザレフスカヤ基地
- ノボラザレフスカヤ基地→ARP1(73.67シS, 35.00シE, 3000 m a.s.l.)
距離:843 km、飛行時間:02:55
人員・貨物:- 操縦士、副操縦士、整備士
- 観測隊隊員5名
- 個人装備 JARE最大積載可能荷重
- 非常装備 660 kg
- 非常食料(4週間分)
- 通信機器
- その他(掘削用部品等)
燃料補給量(ARP1):Jet-A1ドラム缶6本+予備ドラム缶3本
- ARP1→ノボラザレフスカヤ基地
距離:843 km、飛行時間:02:55日程(予定)
日付 飛行隊 出迎隊 11月24日 成田発 ドームふじ観測拠点発 11月25日 ケープタウン着 距離430kmを走行スピード85km/日として5日間で走行 11月27日 ケープタウン発 11月28日 ノボラザレフスカヤ着 ARP1(航空中継拠点1)着 11月29〜30日 ↓ 滑走路作成、待機 12月(1〜)3日 ノボザレフスカヤ発、ARP1着
雪上車隊と合流。高所対策のため一晩滞在待機 12月(2〜)4日 ARP1発
距離430kmを走行スピード85km/日として5日間で走行12月(6〜)8日 ドームふじ観測拠点着
- 人員の収容(2004年1月下旬)
使用する機体:ドルニエ機(Polar 4)
飛行経路:ノボラザレフスカヤ基地→ARP2(MD244地点)→S17地点→ノボラザレフスカヤ基地
- ノボラザレフスカヤ基地→ARP2(MD244: 72.94シS, 43.46シE, 3032 m a.s.l.)
距離:1086 km、飛行時間: 03:45
燃料補給量(ARP2):Jet-A1ドラム缶2本+予備ドラム缶10本- ARP2→S17(69.03シS, 40.08シE, 608 m a.s.l.)
距離:450 km、飛行時間: 01:40
人員・貨物:
操縦士、副操縦士、整備士
観測隊隊員4名
個人装備
非常装備 JARE最大積載可能荷重
非常食料(4週間) 480kg
通信機器
燃料補給量(S17):Jet-A1ドラム缶7本+予備ドラム缶3本
- S17→ノボラザレフスカヤ基地
日程(予定)
距離:1108 km、飛行時間: 04:00
人員・貨物(ARP2→S17間と同じ):
操縦士、副操縦士、整備士
観測隊隊員4名
個人装備
非常装備 JARE最大積載可能荷重
非常食料(4週間) 480kg
通信機器
月日 飛行隊 帰還隊 1月23日 ドームふじ観測拠点発
距離500kmを走行スピード70km/日として7日間で走行1月29日 ARP2(MD244)着 1月(30〜)3日 ARP2発、S17着、1泊 1月(31〜)2月4日 S17発、ノボザレフスカヤ着 ARP2発
距離500kmを走行スピード70km/日として7日間で走行2月(6〜)10日 S16着
S16諸作業、車輌・そりデポ2月(8〜)12日 「しらせ」及び「昭和基地」にそれぞれピックアップ 2月15日 ノボラザレフスカヤ発
ケープタウン着
- ノボラザレフスカヤ基地への後方支援隊員の派遣
航空機、航空中継拠点(JARE地上支援隊)、ドームふじ観測拠点、ノイマイヤー基地、ノボラザレフスカヤ基地(ドイツ隊)、昭和基地、しらせ、極地研究所間の連絡、緊急時の現地対応のため、2003年11月下旬から2004年2月上旬まで、ノボラザレフスカヤ基地に後方支援隊員1名を滞在させる。
- 通信体制
- ドーム航空隊、ノボラザレフスカヤ基地後方支援隊、航空中継拠点地上支援隊、極地研究所、昭和基地、しらせ、ドームふじ観測拠点、ドルニエ機間の通信は主に衛星電話で行う。
- ドーム航空隊は、各経由地での出発日時、到着日時等、航空機による人員の派遣と収容に関する情報を、極地研究所、45次観測隊長、44次越冬隊長及び44次越冬副隊長へ連絡する。
- 後方支援隊(ノボ基地)は、ドーム航空隊がドルニエ機による飛行中に、位置情報の確認を行い、緊急事態発生時には、直ちに極地研究所、45次観測隊長、44次越冬隊長及び44次越冬副隊長へ通報し、ドイツ側との連絡を確保しながら、捜索・救助活動に関する情報収集、情報伝達、連絡調整等を行う。
- 地上支援隊(ARP1、ARP2、S17)は、ドルニエ機飛行前の気象情報の通報、ドルニエ機飛行中の一定時間間隔での位置情報の確認と気象情報の通報を行う。緊急事態発生時には、直ちに極地研究所、45次観測隊長、44次越冬隊長及び44次越冬副隊長、後方支援隊へ通報すると共に、必要に応じてドイツ側に連絡をとり、指示を待つ。飛行中の通信間隔と通信手段の詳細を、極地研究所、AWI、DLR(ドルニエ機運航会社)間で協議の上決定する。
- 気象予報
気象予報はノイマイヤー基地の担当者が行う。昭和基地から、地上気象データ(、高層気象データ、衛星による雲画像)をノイマイヤー基地へ通報する。また、航空中継拠点(地上支援隊)からは地上気象データを航空機へ通報する。出発の可否については、ドルニエ機の操縦士が判断する。
- 航空機の位置情報及び気象情報の確認
飛行中の航空機の位置情報の確認(flight following)は、ノイマイヤー基地、ノボラザレフスカヤ基地(ドイツ隊及びJARE)、航空中継拠点(JARE地上支援隊)において行う。また、目的地の地上気象データは一定時間間隔でドルニエ機の操縦士へ通知され、操縦士は引き返し不能地点(Point of no return)までに着陸の可否を判断する。
- 非常装備・非常食料
航空機に搭乗する隊員は、不時着した場合に備えて、テント、寝袋、コンロを含む非常装備と非常食料(4週間分)、衛星電話を携行する。
- 捜索・救援体制
緊急事態発生時には、日本に対策本部を置き、ドイツ側と連携しながら、捜索・救助活動を指揮する。必要に応じて、地上支援隊、昭和基地、しらせへ捜索・救助活動を依頼する。
本計画に使用されるドルニエ機(Polar 4)飛行中は、もう一機のドルニエ機(Polar 2)が待機している。またノボラザレフスカヤ基地周辺ではアントノフ(Antonov-2)2機が運航されており、これらの航空機が捜索・救援活動に参加する。2003/2004年シーズンの緊急時の対応の詳細についてはDROMLAN会議において決定される。
- ドームふじへの派遣隊員の高所対策
ドームふじへ派遣する隊員の高所順応対策として、気水圏専門委員会ドーム計画作業委員会の中に航空隊高所対策検討会(上田 豊、横山宏太郎、東 信彦、松林公蔵、本山秀明、田中洋一、藤井理行、古川晶雄)を設置して詳細について7月16日に開催した。検討結果に基づいて、8月30〜31日と9月5〜9日に富士山頂上への高所順応能力評価登山を実施し、ドームふじへ派遣される隊員らが参加した。45次医療隊員が同行し、血圧、脈拍、血中酸素飽和度、自覚症状の監視を行い、各人の高所順応能力には問題ないとの所見を得た。
万一、重篤な高度障害を発症した隊員が出た場合は、現地リーダーは医師の診断に基づいて対応を決定する。必要であると判断されれば、航空機による患者の収容を行い滞在高度を下げる。