南極観測隊便り 2017/2018


2018/01/12

夏至から数週間経過して

Tweet ThisSend to Facebook | by ishida
ドーム隊も約1ヶ月の内陸滞在を経て帰路につき始めました。
あと1ヶ月ほどで帰国となるでしょうか。
ドームふじ基地からS16へ移動中の藤田さんより連絡がありました。ICC事務局

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今回の内陸チームは、ドームふじ地域で予定されていたすべての観測や設営にかかるタスクを完了しました。昨日1月11日午後にドームふじを出発し、既に帰路についています。残る大きなタスクは、大量の第Ⅱ期掘削のアイスコアを初めとした資試料を輸送船「しらせ」まで輸送すること、それに、帰路に沿った、各種サンプリング・観測や氷床レーダ観測です。氷床レーダ観測では、ドームふじ近傍で設定した高性能のアンテナ設定を2台の雪上車で維持したまま沿岸地域に向かいます。従来の氷床レーダ観測と同じルートでも、従来では検知できなかったような氷床深部の情報が得られるはずです。あとはもちろん重要なことは、帰路行程を安全にすすめること。「ご安全に!」は毎朝の体操のあとの合い言葉です。

 往路の行程の時期は12月初旬まででした。そのときに軟らかい新雪であった氷床表面積雪は、夏の後半にあたるいま、すでに変態(状態の変化)のすすんだ硬い雪面になっています。あたかも土を焼いたとき固まったような様子です。特徴的には、表層5~10センチ程度の厚さが固くしまっています。夏至をすぎる時期にこれが顕著に発生することはこれまでも知られています。今回も、1月初旬にみるみるすすんだようです。密度の増加もともないます。ただ、この夏の終わりの雪表面の固化の現象の中身がよく知られているかというとそうでもないのです。たとえば、層毎の水蒸気のやりとりの収支や変形をともなうかなどは、温度や放射や堆積などを考慮にいれた高度なモデル計算を必要とします。もともと新雪を構成していた砲弾状と呼ばれる雪の断片が、夏の強い日射やそれにともなう雪のなか大気のなかの水蒸気の移動にさらされ、丸みをおびた大きな粒に変化し、さらには粒どうしの連結が強まります。雪の堅さは、この粒の連結に起因したものです。こうした3次元的な変化を、どうやって定量化できるかが研究のうえでの課題です。顕微鏡写真を撮影し、ビジュアルにこれをみる手法があります。外国の事例ですが、X線CTスキャナーを南極内陸高地に持ち込んで、採取直後の構造を明らかにしようとした事例もあります。でも、大型のハイテク機械を南極の現場にもっていくのはリスクでもあります。機器を持ち込んだはいいが、極地の高地の温度・気圧・湿度の環境では機能しなかったと聞きました。近赤外光と呼ばれる光の反射率が、雪の3次元的な構造、特に、氷と空隙のなす面積に相関することがわかっていますので、この原理を用いて近赤外高反射率を計測することは、近年は各国の研究者がおこなっています。今回、この私たちの隊でも、メンバーの大野さんがこの種の計測を実施しています。また、メンバーの杉浦さんも、
積雪の特徴の観測を継続的に実施されています。雪を日本のラボまで持ち帰れば、さらにできる計測は増えるのですが、輸送中に雪が変質してしまったり、輸送中の衝撃や振動の影響をうけたりします。それでも、破壊の歩留まりも見込んだ一定量の雪サンプルも採取し、国内への輸送を開始しました。雪の夏の変質にはまだ未解明の点は多く、それだけ研究上はやりがいもありますし、そこには国際間の研究競争の側面もあります。

 南極では、四季の定義はあてはまらず、白夜の日射のある「夏」と、暗夜期の「冬」、あとはその中間のような様相(太陽が昇り、沈む、昼と夜がある時期)があります。積雪がその外部から多くのエネルギーをうけて変態がすすむのは、なんと言っても夏、それも、夏至前後の強烈な日差しなのです。夏の日射がもしなければ、南極の雪質は、粒子間の結合のごく弱いまったく違ったものになることでしょう。水の安定同位体成分(酸素同位体、水素同位体)にも大きな影響があるはずです。日射の影響は、この雪が氷床深部に沈降していっても、様々な物理的特性や、含有ガスの成分などとして氷のなかの情報として残り続けます。この点の様々な物理プロセスも私たちの研究対象となっています。南極氷床という巨大な氷体。そのほぼ全部といっていい氷は、一度「雪」の状態を経験しており、日射や外気や氷床表面での温度勾配にさらされた経験ももつものです。日射や降雪量や風など、どうした条件の結果、どういう変態がすすみ、結果として氷や含有成分が生じるか、氷床表面から、最古の氷(100-150万年程度)まで、連鎖した課題です。その「初期条件」を、夏至をはさんだ約1カ月間の期間にまさに見ています。
(藤田記)
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