あけましておめでとうございます。
レーダー観測行動中の藤田さんよりご報告です。ICC事務局
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1月3日~4日にかけては、ドームふじ近傍は秒速10メートルを超える風と地吹雪に見舞われました。昭和基地近傍の沿岸に大きな低気圧が接近したようです。昭和基地からいただいていたドームふじの天気予報では、秒速20メートル程度の風になる可能性もあると言われていましたので、私達も、吹きだまりの発生やレーダアンテナへのダメージの可能性など警戒していましたが、結果的には風はそれほどは悪化せずにすみました。
地吹雪のあとの雪面には、強い風が表面の柔らかい雪をはぎ取ってしまった痕跡のささくれが多数あります。はぎとられた雪はきっとどこかに積もったはずです。堆積・風による昇華や削剥や再分配、水蒸気の移動など、南極の堆積の条件は複雑です。本日も、レーダ観測のための走行をしながら、複雑な形状の雪面を眺め、一時的や雪や年層についての扱いについて思案をしていました。
さて、本投稿の主題は「降雪イベント」。南極の現場に降る雪にかかわる要素は、「収入」として、「低気圧擾乱等による一時的な降雪」、「晴天時も常に舞うダイヤモンドダスト」があります。収入にも支出にもなるものは、水蒸気の昇華や凝結、風による雪粒子の再分配があります。このなかで、量的には今回のような降雪イベントの役割はとても大きいのです。年間に、指折り数える程度の主要な降水イベントの量を足し合わせれば、年間降雪量の大部分を説明できてしまうのです。だから、アイスコアのデータの解釈にあたっても、アイスコアシグナルには、「降雪イベント」の収入が足し合わさっていることを考える必要があります。極端な例として最近注目を集めている降水イベントに「atmospheric river」と呼ばれる現象があります。水蒸気を豊富に含む大気の流れが中緯度地域から南極に向かってつらなり、短期に大量の水蒸気が南極内陸に送り込まれ、降雪として大陸の上に固定される現象です。大気中の水蒸気があたかも大河のように1本の流れとして送り込まれる。2010年前後に、数回こうしたイベントがおこったことが確認されています。このとき、私達のいる東南極ドローニングモードランド地域で、ごく短期に積雪量が一気に増えました。現場観測でも、南極上空の衛星軌道からの重力観測でも、衛星からの南極表面の高度観測からも、共通して確認されています。これらのイベントを扱ったある論文によると、全地球の海水面の高さをミリにおよぶ単位で変えてしまうような水蒸気の移動だったそうです。では、こうした極端な水蒸気流入イベントが過去にどれだけおこってきたのか、今後の発生頻度や規模はどうなるのか、これが、関連研究者らが着目している部分です。過去の解明に関しては、今回掘削をすすめているような比較的浅いアイスコア(40 - 150mメートル深、年代にして現在~約900年前 -4000年前程度までをカバー)を解読していくことが手段になります。アイスコアは実際に過去を読み解く重要なカギなのです。私達は、ひとたびアイスコアを持ち帰り国内ラボに戻れば、情報読み取りの作業や、その情報公開作業(論文化やデータ出版)に集中することになります。資試料をまずはデータに変換し、そして、出版物やアウトリーチに変換します。今回のような調査活動や採取した資試料は、そうした過程を経て科学情報として社会に還元していきます。
(藤田記)