南極観測隊便り 2017/2018


2018/01/17

帰路行程のなかで眺める南極氷床の姿

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 本日は帰路行程の6日目になります。距離的には、行程のなかばに近づきました。往路と同様、移動する雪上車のなかでは、人工衛星から観測した雪面の様子をGPSナビ画面で確認し、また、そのときの氷床の厚さも逐次確認しています。夕食後には、バックアップデータの作成にあわせて、その日走行した氷床の断面画像を作成します。そうした毎日の作業を通じて、氷床流動のイメージの構築が可能になります。

 氷床を流動させる駆動力は、斜面にかかる重力です。ドームふじ頂部付近は、たとえば10キロメートルの距離を水平に移動しても、表面標高は1メートル違うかどうかです。ですから、流動の駆動力はとても弱く、実際にも年間の流動速度が1メートル以下のエリアは大きいです。帰路、ドームふじから距離が離れても、標高はなかなか低くなりません。ドームふじの標高は約3,800メートル。標高がそこから100メートルさがり標高3,700メートルになるまで、水平方向には約140キロメートル!の移動を要しました。レーダで氷下の地形をみていると、その標高3700m付近の下に、巨大な山塊があります。面積としては、約5千平方キロメートル程度の山塊です。周囲とくらべ、約500m基盤地形が高くなっています。この山塊が氷床の流動をせきとめている様相がみえてきます。山塊の直上の氷床はにわかに傾斜がきつくなります。頂上付近にせき止められている氷が、山塊をこえてあふれ出ているのです。標高をもう100メートル、つまり3,600mまで下げるのには、わずか60キロメートルの移動で済みます。つまり、最初の山越えの段階で、傾斜は、頂上付近と比べて2~3倍になりました。

 標高約3,700m以下のこのエリアにはいると、氷床表面にはメガデューン(12月の過去記事をご参照ください)の出現がはじまります。傾斜の上を吹き下ろす風が、雪粒子の堆積の巨大な構造に作用したのです。メガデューンは標高3,700メートル以上のエリアにはありません。傾斜が大きいことがメガデューン形成にとって重要な要素であることがわかります。メガデューン直下の氷床の微細な層構造もレーダでとらえました。他の地域は比較的単純で明瞭な層構造があるのとは対照的に、メガデューン直下では、堆積があった部位となかった部位が複雑に入り交じった積雪の履歴があったことを読み取ることができます。

 レーダでは氷床の最深部の流動の様子も確認することができます。前述の山塊にせき止められた氷床の内陸側では、比較的単純な層構造を深部によみとることができますが、山塊直上付近には、氷が大きくひずんでいることにより、氷床の底部に電磁波をよく散乱する層が発生します。そこに特に強い力がかかり、氷が変形している様子がみえるのです。実際、氷床は、岩盤に近いほど地熱の影響をうけていて、温度は高くなっています。そうした氷は、力をうけると比較的容易に変形してしまいます。表層付近の冷たい氷よりもずっと変形しやすい。氷床の構造は、底部付近の限られた部位が変形し、あとは、その上にどっかりと乗った変形しにくい氷になっているのです。氷床流動を起こすような氷の変形の大部分は底面近傍でおこっています。変形しやすい氷と変形しにくい氷はやがて明瞭に上下に2分化(2層化)し、その境界面からは強い電磁波の反射が起きます。この上下2分化は氷床の流動構造の重要な要素です。

 ひとたび最初の山塊を乗り越えた氷は、その後もいくつもの氷下山地を乗り越えながら下流に流れます。山を多数乗り越えて流れ落ちる粘性体、私はそれが氷床の姿であるとおもっています。断面画像を大陸スケールでみると、あたかも水か滝が流れ落ちるように見えます。氷と大陸岩盤の間には、多くの部分に水があります。氷下山地の上を氷が流動するときには、山のうえに氷が乗り上げて、その乗り上げた氷に風による昇華や削剥が作用して、凸凹の少ない光沢の多い雪面になります。山と山の合間の氷下盆地の上には、積雪が多く、且つ、斜面を吹き下ろす強風が凸凹をきざみつけサスツルギを形成してしまいます。こうして、氷床表面と深部の様相は、概して氷下の地形や、頂上付近からの位置関係できまっています。私達は、現在、こうしたわずかな光沢雪面と広大なサスツルギ帯が繰り返しでてくるようなエリア -中継拠点とみずほ基地の間のルート- を、沿岸に向けて走行しています。輸送中のアイスコアや積雪資試料に決してダメージを与えてはならないと注意しつつ。標高は本日3,000メートル以下にはいりました。標高もぐんぐん低下をはじめています。経路や周囲には多数のメガデューン。これから2~3日がサスツルギ帯ごえの正念場。
(藤田記)

キャンプ地:MD222(標高2948 m)
気温:-31度(6時)、-21度(18時半)
風速:3〜6 m/s
気圧:671 hPa
本日の行動:MD300からMD222まで移動、レーダー観測、ルート沿いの積雪サンプリング
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