南極観測隊便り 2017/2018


2017/12/08

いくつかの「メガデューン」の近くを通過しました

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 先日の投稿「曲がりくねったルート、まっすぐなルート」のなかで、「メガデューン」とよぶ特徴が写った画像を紹介しました。これについて紹介します。ちょっと堅めのサイエンスの話ですが、おつきあいください。

 本投稿に示した画像は、南極大陸氷床表面の中継拠点付近(右上)から、12月4日に到着したキャンプ地点(図中央部)を含むエリアです。ドームふじと昭和基地方向は、それぞれ、図の左下と右上です。背景の画像は、「MODIS画像」といって、南極大陸表面に地平線方向から太陽光が差し込んだときの陰影がわかる画像を集めたものです。わずかな起伏の変化でもこの画像にうつる陰影でよくわかります。画像の各所に、白黒のしましまがみえています。傾斜が2~5キロメートルの周期で、振幅は概ね数メートルで規則的に波打っているのです。これが、「メガデューン」と呼ばれ、斜面に出現する現象です。

「デューン」とは、砂漠などに風によってできる砂丘のことです。メガデューンは、雪粒子がもとになってできる巨大な風成丘です。

 ここに示した事例は小規模ですが、「メガデューン」は、東南極氷床内部の広大なエリアを覆っていることが知られています。東南極でのその総面積は、50万平方キロメートル以上にもおよびます。実に広大です。メガデューンは、雪の堆積と、風によるその再分配のプロセスで発生します。このため、メガデューンの理解は、南極に積もる雪の量の見積もり(質量収支と専門用語で言います)やアイスコアの解釈には非常に重要とされています。近年の研究によって、卓越風(カタバ風)の方向や気候条件が、メガデューンの生成に決定的や役割を果たしていることがわかってきました。メガデューンが発生する場所は、ややきつい傾斜をもった斜面であり、そこにほぼ常に吹き続けるカタバ風がある場所です。メガデューンは、2~4メートル程度の振幅、そして2~5キロメートル程度の周期をもっています。その周期のなかで、雪の堆積量は、デューンの風上側で大きく(周囲平均の約120%)、風下側で小さく(周囲平均の約25%)なります。風下は、光沢雪面になり、サスツルギがなく、「霜ザラメ」と呼ばれる雪質で覆われます。風上は、最大1.5メートル程度の高さにおよぶサスツルギ帯になります。こうした構造が周期的に続いているのです。しましまは、風の向きと直交しています。このメガデューンが起こり始めるトリガー(きっかけ)は、卓越風向に沿った斜面の傾斜が乱れるところから起こり始めると解釈されています。

人工衛星画像が入手できる今でこそ、大陸の内陸部や、現在私たちが走行しているこの地域にこうした現象があることを私たちは知っています。しかし、かつては、現象の存在を認識しないままこの地域を内陸調査隊が通過していました。人工衛星を用いた観測の進歩によってメガデューンは私達の前にその姿を現しました。メガデューンの内部の構造は、氷床内部探査用のレーダを用いて研究されてきました。氷期~間氷期の数十万年にわたる時間スケールで、こうしたメガデューンが起こってきたことがわかっています。南極の内陸部(たとえばボストークと南極点とドームふじとドームCを結ぶエリアのなかの傾斜地)では、層構造がとても乱れた堆積層の存在を非常に深い深度まで読み取ることができます。メガデューン地域の氷床をアイスコアとして採取して過去の気候を復元しようとしても、層の情報が乱れすぎていて解釈はかなり困難になるでしょう。

 上の画像や、先日の画像にあるようなメガデューン帯を今回私達は数日間にわたり通過しました。斜面上方にある「波」は、地平線が盛り上がってみえます。斜面下方にある「波」も、地平線がいったんくぼみ、その先が盛り上がって見えます。言い換えると、地上からの視界は「ただそれだけ」なのです。人工衛星画像などの俯瞰的にとらえる手法を用いなければ、地上に居る人には認識できません。サスツルギを伴うので、内陸旅行にとっては移動の障害ともいえる現象です。
(藤田記)



図の説明:12月4日の内陸調査隊の走行路(赤線がルート、青線は走行記録)と、周囲の氷床表面の起伏。所々に白黒のしましま構造をもったエリアが散在する。図のサイズは縦と横がそれぞれ約170×100キロメートル。標高は3,400から3,600メートル付近。
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