南極観測隊便り 2017/2018


2018/01/03

雪質と層構造

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 氷床探査レーダを用いた広域の探査のために、雪上車でドームふじ近傍の広いエリアを走行しています。走行しているエリアは、標高最高点である「ドームふじ」よりも内陸側であったり、海側であったりします。また、氷の下の大陸岩盤の地形は、氷床表面の微少な起伏や傾斜の変化に影響を与えています。このため、行く先々で、異なった雪質や層構造をみることになります。

 海側からの水蒸気の輸送が比較的潤沢に来るエリアでは、12月頃にここを訪れると新雪に覆われています。粒子が細かい分、太陽光を良く反射し、白い輝きが際立っています。一方、起伏や風等の様々な条件で雪が積もりにくい場所もあります。特徴的には、そうした場所にはさざ波型のデューン - ひとつの波の間隔が十数センチメートル程度の - が頻出します。このさざ波デューン頻出の意味は、その場所には雪はそれほど降らず、風で漂う氷粒子が通過しているような環境です。さらに堆積の少ないところでは、光沢気味の堅い雪面になっています。ときおりサスツルギもともなう。雪の変態(粒子の粗大化など)がすすんでいると、光の反射率もにぶります。新雪に比べれば明らかに、散乱する光の鮮やかさがにぶっています。陰をおびた反射率とでもいいましょうか。雪上車走行をかさねていくと、比較的めまぐるしく、そうした雪面状態の空間変動にぶつかります。

 遭遇した興味深い現象としては、走行するあるエリアの表面はびっしりと新しい霜で覆われて、そこではさざ波型デューンの兆候はみえません。数キロ、あるいは地平線まで、白く輝くやわらかそうな雪面が続いています。しかし、ある明瞭な線を境界に、霜のほぼ全くない、「あまり輝かない」雪面の領域に切り替わります。見回しても、前述の霜領域はもはや全く見当たらない。アイスコアの研究にとっては、どんな性質の雪(あるいは霜)が固定されて気候記録になっていくか知っておく必要があるので、こうした雪質の変化は結構大きな問題です。どんな条件がこの雪面領域の明確な境界線をつくっているのでしょうか?

 私達は、様々な化学分析や、物理的な解析をおこなってこうした積雪の性質も調査しています。南極の現場でできることは限られており、おもにサンプルの収集です。これを国内のラボに持ち帰り、光の反射率、構成粒子の形状、電気的な性質などを調べます。サンプルの、南極の現場での状態をできるだけ保持できるように、温度条件に気をくばり、輸送中にも震動や衝撃を与えないようにします。アイスコアの研究では、降雪後の初期条件の雪質が、アイスコアの信号(アイスコアシグナル)として、たとえ数千年たっても数万年たっても、含有気体成分や氷の物理的特徴として記録されていることが明らかになってきています。そのため、ごく最近の降雪や降雪直後の変態を知っていくこともとても重要な要素なのです。
 
 現在、チームのベースキャンプ(略称、BC2)はドームふじの南東方約50キロメートルにあります。この地域やさらにその南側は、「ふじ峠」に近く、海側から来る水蒸気が届きにくい場所にあります。人工衛星軌道から、「マイクロ波放射」と呼ばれる雪面からの電磁波の放射量をみると、この地域は極めて特異な場所です。単純に申しますと、単位厚さあたりの層構造数が多く、且つ、氷結晶の粒のサイズが大きい特徴が際立っている場所です。私たち「レーダ探査班」は、年末29日からNDF地点を発ち走行し通しで、BC2入りをまだしていませんが、行く先々の雪質をみるにつけ、硬く、にぶい光沢の雪面 -堆積のすくない場所に特徴的な- を眼にしています。これが、人工衛星データにみえた特異な特徴と強い関連があるはずとの仮説をもっています。海からの水蒸気が届きにくい、そして、カタバ風も弱い。そうした乾燥領域が形成され、層位間隔は細かくなり、日射や日々や季節の温度勾配によって水蒸気の上下移動は活発であり結晶は成長しているのではないか?。BC2で現在掘削がすすめられているアイスコア、それに、BC2に到着後に採取し日本に持ち帰る雪氷試料から、この地域の雪氷や気候の特徴が見えてくるはずと期待しています。
(元旦に、藤田記)
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