12/18を本格観測としての雪上車長距離走行開始の目標日と定
め、計測準備をすすめました。
本格観測は、以下の手順で実施します。
このドームふじ南方の氷の
下には、氷の下に山塊があることがこれまでの調査でわかっていま
す。特に昨年度、総走行距離2950km、測線の基本間隔5km
の調査を広域で実施したため、山塊の形状や周囲の地形との関係は
かなりよくわかっています。この11月には、
約3日間をかけた国際的な議論を実施し、今回どこをどのような科
学的根拠をもって優先づけするかを決定しました。調査地域を、
約400平方kmの3つの領域A、B、Cに分け、
それぞれの領域のなかを、測線間隔2kmで走行し、それをのべ4回繰り返します。これは、日本のレーダ、それに米国のレーダ、
それぞれ2回ずつの走行です。その結果として、最終的には、
測線間隔0.5kmでデータ収集が達成されます。1つの領域のな
かの1回の走行距離は200km~220km。車両1台あたり(
つまり各レーダあたり)の総走行距離は、今年度は約1,
300kmを予定しています。
走行開始の初日は、111号車(米国レーダ搭載車)は、ベースキ
ャンプとドームふじ基地間を往復し、約100km区間のデータを
取得しました。115号車(日本レーダ搭載車)は、C領域のなか
の約100km区間のデータを取得しました。データ取得は順調に
開始されました。こうした初日の観測をするなかで、
一つの決断をしました。それは、
日本レーダ搭載車のアンテナのダウンサイズ・機動化です。
このレーダは、初期設定としては、受信側のアンテナに4本の16
素子八木アンテナを用いていました。
写真1:片側に4本16素子の八木アンテナを使用した初期観測設
定。
実際の計測を1日・100km区間行ってみると、雪面の起伏を雪
上車が乗り越えるたびにこの大型側(受信側)のアンテナの前端部
と後端部が前後に大きくねじれて揺れ、アンテナ下部が雪面に接触
することも数回発生しました。データの質そのものはとても良好で
、この100km走行のデータは極めて貴重なものです。しかし、
残りの1200kmの走行をこの初期設定のまま実施するには無理
があると判断しました。アンテナ下部が雪面に接触し、アンテナ素
子が破損しても、交換用予備素子は多くもっています。交換する手
段はもっています。しかし、この受信側のアンテナを支える金属製
の支柱が繰り返しの前後方向のねじれが原因で金属疲労で破壊する
ようなことになれば、実質残り約10日間の観測ではかなり大きな
ダメージになります。一方、16素子八木アンテナ2本で構成する
送信側のアンテナの安定度は極めて良好でした。
大型側のアンテナの揺れを押さえるには、雪上車の走行速度も、
雪面状態が粗い(サスツルギに直交対面する)時には時速5-6キ
ロまで抑制しなければなりませんでした。この走行速度では、調査
期間を延長しなければ目的とするA~Cのエリアの全走行は無理で
す。走行速度は、上記の倍以上が必要です。
調査走行を完遂する手段として、送信・受信それぞれを、16素子
八木アンテナ2本で構成することとして修正することとしました。
アンテナ性能としては、受信感度が約3デシベル低下します。
しかし、これまでの計測試験によって、アンテナ性能を約3デシベ
ル低下させても氷床の底面付近までの内部構造を読み取れることは
判明していました。走行計測を1日おこなうなかで、データとアン
テナと雪上車の様子を観察し、最終的にこの判断をしました。
写真2:受信側アンテナ全体を一旦クレーンで吊り下ろし。
作業は19日に実施しました。アンテナをクレーンで吊り降ろす必
要があったため、設営担当隊員の方々(伊藤さん、櫻井さん)らに
ご協力をいただき、再度のクレーン作業となりました。吊り降ろし
たアンテナを地上で分解・再構成し、16素子八木アンテナ2本の
構成として置き換えました。
写真3: 再構成し、再度設置した16素子2本八木アンテナ(車両の左右そ
れぞれは、送信、受信です)
結果的に、観測の機動性と走行安定性は格段に増しました。走行の
平均速度は10-15キロ毎時で確保できるようになりました。ア
ンテナ下部が雪面に接触することはもはやありません。アンテナを
支持する金属棒にかかるねじれも小さくなりました。計算上も1/7です。氷床内部の氷から反射してくる信号も、氷床の底部付近ま
でよく見えています。八木アンテナとしては最大規模の観測を実施
した初日の観測結果はそのまま生きます。そして、今回機動性を選
択した観測を今後観測終了まで実施していきます。
本稿は、観測・研究現場の機動的動きの特に生々しい部分を読者の
方々にお伝えしたいとおもい、トピックとしてとりあげました。
藤田記