南極観測隊便り 2017/2018


2017/11/29

内陸行動中のナビゲーション

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 本投稿のテーマはナビゲーションです。南極の大陸氷床の上は、とてもゆるやかな起伏のある雪原になっています。360度見渡しても、どの方向も雪や氷の地平線になっています。「測地衛星」と呼ばれる人工衛星が1980年代に登場するまでは、自分が居る緯度経度を知る方法は、時刻の太陽の位置を観測する「天測」と呼ばれる方法が基本でした。これとあわせ、磁方位と移動距離を組みあわせた多数の地点を結ぶ「ルート」をつくり、大陸の上を安全に移動する経路を確保します。かつては、大陸上を移動する際には、コンパス(方位磁針)と距離計が必須の道具でした。さて、科学技術の進歩とともに、GPSの発達によって、ナビ技術も進歩しました。

 現在では、内陸部を移動するのに基本的に頼りにするのは、GPSに基づいたナビゲーションです。昨今は、GPSや、ナビゲーションソフトウェアを載せる電子機器はさまざまにあり、それぞれに、進歩が著しい状況です。今回の調査旅行のナビゲーションで最も頼りにしているのは、PCとナビゲーションソフトウェアとGPSセンサーを組み合わせた仕組みです。Fugawi Global Navigator という、野外用のナビゲーションシステムです(写真1)。こうした仕組みは、昭和基地近傍から内陸ドームふじ地域に向かう内陸旅行では、約10年前から使いはじめました。スウェーデンの南極観測の関係者から紹介いただいたものです。

 このナビゲーション用ソフトウェアに、あらかじめ、移動ルートの緯度経度情報を入力します。昭和基地からドームふじに至るには、データ点としては合計約600ポイントになります。さらに、ソフトウェアには、内陸隊が走行している地域の情報として、様々な地理情報をあらかじめめ背景画像データとして埋め込みます。たとえば、①標高地図、②氷の厚さの地図、③光学センサで南極を衛星軌道から撮影した画像、④マイクロ波を衛星軌道から照射し、電波の散乱をとらえた画像、などなど。これらの地図をもとに、走行しながら、自分たちが今どんな環境を走行しているかを把握することができるのです。氷の割れ目である「クレバス」などの危険が潜む地域の分布も把握することができます。ナビゲーションソフトは、今私達が実際に走行すべき走路と現在位置のずれや進むべき方向を常に運転者に示します。運転者は、こうした情報をみて直観的に舵をきり方向を定めることができます。原理的には、GPS信号が取得できるかぎり、ブリザード(雪嵐)などで視程が悪化してもこのシステムを頼りに慎重に移動することは可能です。

 今回の内陸行動では、こうしたナビシステムを、走行する全車両である5台に配備しています。どの車両にいる隊員も、等しく位置情報を把握することができます(写真2)。現代でこそ活用可能になった便利な技術に私達も支えられています。ただし、いろいろなバックアップは必須です。多数のGPS機器のほか、旧来の航法も可能なように、コンパス等の用意も怠ってはいません。

 少しだけやっかいなこともあります。南極の氷床は、大陸の上に乗った氷が重力によって内陸から沿岸に向かって常に流動しています。みずほ基地のような内陸域でも、年間数十メートル流動しています。ある年次に緯度経度を把握していても、ルートの標識として立てた旗は、数年後に再訪すると数十メートルから100メートル以上動いてしまっているのです。ルート方位表で、ルート点間の相対位置を磁方位と距離で記載されているときは特段に問題ではないのですが、その地点を経緯度で記述すると、毎回ルート旗がある緯度経度を書き換えなければなりません。今回の旅行でも、氷床が流動してしまった結果ルート旗が移動した場所を予め予測したうえで、ナビゲーションをおこなっています。(藤田記)




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