南極観測隊便り 2018 - 2019


2018/11/20

S16での出発準備作業

Tweet ThisSend to Facebook | by ishida
11月10日~14日の期間に行われた60次夏期内陸旅行の出発準備について紹介します。

この期間におこなった作業は、ドームふじ旅行隊出発準備として、雪上車や橇の回送、車両整備、物資整理、橇編成などがありました
旅行隊メンバーは全員で10名、さらに、第59次越冬隊からも4名の方々が現地作業の支援にあたってくださいました。

内陸ドーム隊員は、11月10日に大陸に向けて出発しました。一部の人員は先行して大陸沿岸の拠点「S16」へこの日のうちに行き、残りの人員は途中の海氷から大陸への上陸地点「とっつき岬」に一泊し、翌日昼に到着しました。この段階で、とっつき岬からS16へ、内陸旅行で使用する雪上車や橇の一部を回送しました。

11月11日以降、車両整備、物資整理、橇編成の作業を本格化し、これを14日まで継続しました。
4日間をかけた大作業でしたため、写真を使ってご紹介したいと思います。

59次隊が、今から約1年前に既にこの旅行隊のために南極昭和基地に船舶輸送していた物資と、新たに60次隊が先遣隊として航空輸送した物資を整理し、橇に積載し、橇を必要な順番で配列・連結していきました。


写真1:物資を搭載し連結作業途中の通称「2トン橇」(撮影:川村)


写真2:燃料輸送に主力として用いる大型橇「リーマン橇」(撮影:川村)


写真3:橇の連結作業にあたる隊員。ワイヤーを、シャックルと呼ぶ留め具で連結していきます。(撮影:川村)


一方、旅行開始とともにただちに開始する観測の準備や、ドームふじ地域に到着したらただちに開始する観測の準備もここでおこないました。
氷床レーダ観測として、厚さ2千~3千メートルに及ぶ厚い氷「氷床」の内部の層構造を計測するレーダ装置の設置をおこないました。
「UHF帯」の電磁波を用いるレーダで、このレーダで往路S16地点からドームふじ到着までの片道の観測を実施します


写真4:雪上車を風よけにして、雪面でレーダの送受信用のアンテナを組み上げました。


写真5:組み上げたアンテナを、脚立を使って雪上車に設置された単管パイプ機構に設置していきます。(撮影:川村)


写真6:出発の前日である11月14日夕刻までに、レーダの本体、アンテナ、アンテナ用の信号の配線の設置を完了し、電波の送受信の試験も行いました。
写真中の左側のアンテナから電波を送信し、氷の内部で反射・散乱して戻ってきた信号を、右側のアンテナで受信します。
レーダは順調に動作し、約600メートルの厚さの氷の内部での散乱信号と、氷と大陸岩盤の境界面から跳ね返ってくる信号をとらえました。


写真7:雪上車の内部の棚に設置したレーダ機器の数々。上段の棚に設置したレーダは、ドームふじまでの往路で使用するUHFレーダです。
ドームふじに到着後は、下段の棚に設置したVHFレーダを用いて氷床の底面付近の層構造を観測します。


ドームふじに到着した後には、こうして雪上車に搭載をすすめている日本のレーダとあわせ、米国カンサス大学やアラバマ大学が製作し、今回日本・米国・ノルウェーが3国共同で運用するレーダを使用します。
このレーダが使用する電力が比較的大きいため、専用のガソリンエンジン式発電機を雪上車に設置します。
ガソリンエンジンを密閉空間である雪上車内で運転するわけにはいかないため、今回、雪上車の屋根に2台のガソリンエンジン式発電機を設置しました。
機械担当の方々がこの作業を担いました。


写真8:雪上車の屋根に、ガソリンエンジン式発電機をクレーンを用いて設置。
雪上車前部の単管パイプには、ドームふじへの到着後に大型のアンテナを設置する予定です。


写真9:2台の発電機を搭載し、その後、それらに毛布を巻いて保護しました。ドームふじ近傍でその力を発揮する予定です。


現地の作業としては、ピステンPB300型車と呼ぶ車種の2台の雪上車の整備がすすめられたほか、車両の連結作業がすすめられ、11月14日の夕刻までかかって完了しました。今回使用する雪上車としては、大原SM100型車と呼ぶ車種の4台の雪上車もあります。これらの雪上車の整備作業は、8月以降、第59次越冬隊の方々がすすめてくださっていました。


写真10:雪上車後部での作業。(撮影:川村)


この期間現地で作業に携わった人々の写真を紹介します。


写真11:59次越冬隊のメンバー。うち2名は今回の旅行に参加します。4名は、準備の支援にあたってくださった方々です。


写真12:今回の内陸ドーム旅行に参加する10名の隊員。後日、ノルウェーの隊員2名が、内陸に航空機で飛来し、このチームに加わります。(11月14日朝、支援隊撮影)


写真13:支援隊4名と内陸ドーム旅行隊10名の全員写真。左側の車両はピステンPB300型車、右側の車両は大原SM100型車。(11月14日朝、支援隊撮影)


いよいよ翌日からの出発に向けて、万全を期した準備を心がけました。緊急必要物資が発生し、昭和基地に依頼して届けていただいた物資もありました。
力を尽くしてくれた昭和越冬隊の皆様、それに、出発支援にあたってくださった支援隊の皆様、大変にありがとうございました。


写真14:翌朝早朝の出発に備え、出発隊列を組んだ雪上車と橇。この頃には曇天となりました。低気圧の接近が予報されていました。(11月14日夕刻、川村撮影)


写真15:同上(11月14日夕刻、山田撮影)


写真16:南に沈んでゆく深夜の太陽(櫻井撮影)

藤田記
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