南極観測隊便り 2017/2018


2017/12/04

曲がりくねったルートとまっすぐなルート

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 中継拠点に至るまで通過してしたルートの名は「NMDルート」と呼ばれるルートでした。新(New)のN、みずほ基地の頭文字M、ドームふじのDから成っています。名前の意味は、みずほ基地とドームふじを結ぶ新しいルートというものです。このルートを作る以前の旧来のルートは、単に、「MDルート」と呼んでいます。新しいルートができたわけなどについて、ここでは解説します。
 
 ルートが曲がりくねる場合、基本的にそれは悪路や障害物を回避しています。危険な氷の割れ目であるクレバスがある地帯は避けます。そうした意味のルートの曲がりくねりは、沿岸地域にあり、昭和基地から大陸にあがる「とっつき岬」から、輸送拠点の「S16」地点までのルートは多くのクレバス地帯を回避して曲がりくねります。さらに、「S16」から「みずほ基地」に至るルートのなかにも、直線ルートのなかに時折何かを回避する曲がりがあります。人工衛星画像で見てみると、確かに何か変則的なもの(おそらくはクレバス)を避けている様子を確認できるのです。

 さて、みずほ基地から、ドームふじ方向に向かう約360kmの区間は、南極大陸氷床の斜面を吹き下ろす風が強い場所です。大陸表面で放射冷却で冷えた空気は重く、斜面を吹き降りてくるのです。こうした斜面下降風のことを「カタバ風」と呼んでいます。英語ではkatabatic windです。一方、南極氷床の表面は、氷床の下の基盤岩のもつ地形に応じ、ゆるやかな凹凸をもっています。基盤岩の地形は、そもそもは南極が氷に覆われる前の時代(約3,500万年以前)までに温暖であった大陸の上で形作られた地形です。多くの山や谷を、巨大な氷体が覆い尽くしているわけですが、凸凹な地形の上を氷が流れたとき、基盤岩の凸凹形状は、わずかですが氷床表面の起伏の変化として現れるのです。凸の氷床表面は、カタバ風に常にさらされて、雪が積もりにくい比較的平坦な地形になります。凹の氷床表面には、雪が多く積もりやすいのですが、強い風によってそうした雪が高さ数十センチから時折1メートルにもなる凸凹の雪原をつくります。表面の荒れた地帯を私たちは「サスツルギ地帯」と呼びます。「サスツルギ」はロシア語なのだそうです。さて、MDルートは、みずほ基地とドームふじを結ぶために、ほぼ直線的につくられました。1990年代初頭のことです。当時は、南極氷床表面を撮影した人工衛星データがまだ出始めたころの時代でした。直線的にルートをつくることによって、そこには、氷床下地形として凸も凹もあります。結果として、ルート上には、比較的平坦な地形と、「サスツルギ帯」が多数出現します。サスツルギ帯では、通常は毎時7~8キロできる雪上車も、悪路によって時速3キロ程度まで低下します。雪上車や橇や搭載物資への負荷は大きく、且つ、人員の消耗も大きいものでした。2008年頃に、人工衛星画像から、「サスツルギ帯」の分布が読み取り可能になりました。その結果、サスツルギ帯をできるだけ回避する曲がりくねったルートを作れば、車両や橇や人員への負担を軽減し、さらには旅行期間まで短縮できることがわかったのです。
51次隊、54次隊、そして今回の58/59合同隊が新しくデザインされたNMDルートを通過しました。通過に難渋した長いサスツルギ帯を回避した結果、従来のMDルートよりも60キロ長い距離を走行しているにもかかわらず、日程を平均約1.2日程度短縮して通過できる実績ができました。これがNMDルートの由来です。1.2日分、車両の燃料消費を節約できるほか、おおきなメリットは人が消耗してしまうことを軽減できる点です。

 「中継拠点」からドームふじまでのルートは、サスツルギ帯は小さく、分布も不均一です。これから約1週間走行するこのルートは、曲がりくねるメリットはないので、直線的に最短経路でドームふじを目指します。
(藤田記)
 


GPSナビゲーション画面。白黒のしましまである「メガデューン帯」を縫ってルートができています。「メガデューン帯」についてはまた後ほど解説します。
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