降 雪 量 観 測 の 精 度 向 上 と
極 域 の 水 循 環 の 観 測 へ の 応 用
 
北海道・陸別町における雪の観測実験
極域の水循環の観測手法の構築
WMO/SPICEに参加
気象庁、防災科学研究所との共同研究
WMO/SPICE Final Report (2018)
Hirasawa et al. (2018), SPICE site report: Rikubetsu, Japan.
 
極域における降雪観測の取り組み
南極の水循環の研究
Ceilometerの適用(左の図)
Disdrometerの適用
降水レーダーの適用


2020年4月現在(年単位で更新が遅れます;直接ご質問いただくか、下記researchmapでご確認ください)
★ 陸別町の観測を継続;SPICE final reportに提出した結果を含めて論文の執筆中
★ 南極・ドームふじ基地のceilometerを用いた論文の執筆中
★ 南極、北極に設置したdisdrometerのデータ解析により、観測方法の適性を検討
★ 南極・昭和基地に降水レーダーを導入するための準備中
---> 最新の成果はresearchmap:平沢尚彦をご覧ください。


北海道・陸別町における雪の観測実験

陸別町は北海道東部の内陸、帯広市と北見市の境の峠の南側にある。 冬の寒い夜には氷点下30℃を下回ることは珍しくなく、日本で最も寒い地域の一つである。 札幌や長岡などに見られる豪雪とは異なり、いわゆる“冬型気圧配置”の期間においても 大量の降雪は無く、低温の中で小さな降雪粒子が観測されたり、晴天になることが多い。 夜間や午前中に晴天降水(ダイヤモンドダスト)が観測されることもある。陸別では “南岸低気圧”の影響を受けるときに強風とともに比較的大量の降雪がある。低温環境下 の小さな径の降雪や強風とともに比較的大量の降雪があることは極域の環境に類似している。 また、日本では日本海側に降る雪が雪の代表格であるが、世界を見れば、日本海側の雪は 地形の影響を受けた顕著な降雪として稀な現象であり、陸別に降る降雪の方が標準的と言える。 その意味では、陸別と日本海側(長岡や札幌など)の降雪の特徴を比べることも科学的に 意義深い。

陸別における観測システムは、WMOのプロジェクト、SPICE(Solid Precipitation InterComparison Experiment:固体降水比較観測)の方法に則って構築されている。そこでは二つの 機能が働いている。一つは観測サイト間の比較を可能にするための基準となるデータの取得設備であり、 二重の風よけ柵で重量式降雪量計を囲って観測する。そこで取得されたデータ、或いその設備を DFIR(Double Fence Intercomparison Reference、二重柵比較基準値)と呼ぶ。
もう一つはDFIRを介して比較される様々な測器である。陸別では最大10の降雪観測システムを運用した。 それらは、3種類のdisdrometer、微小降雪粒子カウンターによる2通りの計測、Ceilometer、気象庁の 標準測器である2種類の筒型測器(RT3、RT4)である。測器を設置した。更に、詳しい気象解析を目的 として、総合気象観測計、3成分超音波風速計、電子天秤式降雪量計、降雪粒子撮像装置、積雪深計、 などを運用している。

SPICEの観測期間は2013/14年の冬期と2014/15年の冬期だった。表は、この2冬期について、 各測器が冬を通して計測した総降雪量をDFIRとの比率で示す。LPMとParsivelはDisdrometerである。白抜 きのセルの数字は測器から出力された降雪量で、LPMは1.44及び1.51と過大評価、Persivelは0.79及び1.07 となった。薄い青で示したセルは我々が開発中のデータ補正アルゴリズムを通したもので、いずれも値は 改善されている。
一方、気象庁の測器はいずれも過小評価で、RT3が0.53及び0.58、RT4が0.66及び0.71である。筒型測器に おいては、風によって降雪粒子捕捉率が低下することが分かっている。国際的にも標準的な測器は筒型であり、 これらのデータの補正方法の確立がSPICEの最終目的の一つである。
累積降雪量の時系列には段階的な増加が示されている。低気圧等の影響を受けた比較的大量の降雪イベント である。各イベントを詳しく調べると、DFIRとの比率は一定ではない。主な原因はイベントごとに風速が 異なっていることが考えられる。それに加えて、気温、相対湿度、降雪粒子の特性が関わっている可能性が ある。今後の研究課題である。


南極における降雪観測の取り組み

地球温暖化が明らかとなり、南極氷床の質量が、現在、どのような変化を 始めているのだろうか?南極氷床の質量変化の主な過程は、降雪による増加、氷床の縁辺部 に向かう流動、縁辺部での融解や氷山の離脱による減少の結果としての収支によって決まる。 このうち、我々が担おうとするのは、降雪量を求める活動である。南極域の全体の降雪量を 現地観測できる人はいない。広域のデータをくまなく観測できるのは現在においては人工衛星 しかない。これは観測データであるが、リモートセンシングであり、現地の観測によって検証 される必要がある。もう一つの可能性は数値モデルを用いた推定である。数値モデルの精度の 向上は著しく、時に観測の不確実性を補完し得る。しかし、観測データとのクロスチェック をすることなくそれだけで地球の将来を語ることはできない。


我々が現地を観測できる範囲は昭和基地(図のS地点)及び南極氷床上の内陸の頂上の一つ であるドームふじ基地(同F地点)に続くルート上のいくつかの地点である。広域の面的な観測、 或いはルートに沿った連続的な観測は今はできない。しかし、複数地点で、今までより精度の高い、 時間解像度の高い観測ができれば、衛星観測や数値モデルによる広域のデータの信頼度の向上 をもたらす。

我々は北海道・陸別町で行っている実験結果を南極の現地観測に適用し、これまでより質の高い データを取得し、南極の気候変化の実態の解明に役立てようとしている。

2003年にドームふじ基地でCeilometerと日降水量の通年観測を実施した。冬期の7月の時系列 では、Ceilometerの後方散乱係数と日降水量の増加が同期している。ここで比較できるのは日単位の降雪強度 であるが、Ceilometerの観測間隔は15秒であることから、今後、より短い時間の降雪強度を求めることが できる可能性がある。これまでの南極や陸別における観測データからこの検討を進めている。
7月25日は総観規模擾乱の影響を受けて比較的大量の降雪イベントが起こった。それはCeilometerの後方散乱係数 の増加にも現れている。地上から2.5 kmまでの下層の部分を拡大してみると、後方散乱係数は地上に近いほど 大きい。特に地上から500 mの大気層で大きい。ここは気温逆転層が発達している。すなわち、総観規模擾乱 によりドームふじ基地上空(南極の最内陸部)まで持ち込まれた水蒸気がそこで気温逆転層の取り込まれて 降雪粒子として降っている。独特の降雪形成機構がある。


北極における降雪観測の取り組み

これまで及び現在、ロシア・ヤクーツク、アラスカ・PFRR、ノルウェー・NyAlesund においてdisdrometerを用いた観測に取り組んでいます。