和名:ナガスクジラ
英名:Fin whale
学名:Balaenoptera physalus

形態
分布
生息環境
餌と採餌行動
繁殖
個体数の現状と保全

形態
体長は18〜25mで,オトナの平均体長はオスで21m,メスで22.3mであり,体重は45〜75t.メスは同齢のオスよりも大きい.ヒゲ板の色彩は左右非対称で,右側の先端から3分の1だけは白ないしクリーム色で,他のヒゲ板は濃灰色の地に数本の黄色い縦縞がある.長さは最長で0.9mくらい,内縁の繊毛はシロナガスクジラより細い.上顎の左右両側にそれぞれ260〜475枚ある.体色は背面側は全体として濃灰色あるいは濃褐色,背面および胸鰭と尾鰭の裏側は白色である.頭部の模様は左右非対称で左側が背面の体色と同一であるのに対して,右側は下顎の外側から口の中まで白色である.ナガスクジラはシロナガスクジラについで大きく,その流線型の体形はシロナガスクジラに類似している.鎌形の背鰭は体の前から3分の2あたりに位置し,イワシクジラやミンククジラのように直立してはおらず,なだらかに後傾している場合が多い.尾鰭は幅広い三角形状で,後縁の中央部にV字状の切れ込みがある.上顎は平坦で先端がとがるが,ミンククジラほど尖ってはいない.上顎の中央には鼻孔から吻端に走る稜線が1本ある.1対の鼻孔の前側は,他のナガスクジラ類と同様,隆起によって縁取られている.喉から腹部にかけては55〜100条のうねがあり,後端はへそに達している.
分布
全海洋で見られる.熱帯域から極地周辺域まで分布するが,外洋性であり,沿岸域に姿を現すことは滅多にない.冬季は低緯度海域に,夏季は高緯度海域に回遊する種なので,毎年数千kmの距離を移動している.回遊はもっぱら南北方向で東西方向への移動は少ない.

生息環境
本来外洋性であるが,海域によっては沿岸域に姿を現すこともある.

餌と採餌行動
ナガスクジラは群遊するオキアミ類を<のみこみ型>で捕食するように進化している.南極海では,おもにナンキョクオキアミを食べている.ナガスクジラは,採食の際に横向きになって群集性の魚を飲み込むことがよくあるが,非対称的な頭部の色彩もこの採食方式と何らかの関係があるのかもしれない.ナガスクジラは本科の他種よりも集合性が強く,1頭あるいは2頭連れである場合の方がはるかに多いものの,6〜10頭の群で発見されることもしばしばある.また,採食場には100頭以上集まっていることもある.しかし,これらの集団が家族なのか,あるいはたんに同じ目的で行動を共にしているだけの集まりなのかは不明である.ナガスクジラの潜水深度は最も深い場合でおよそ300m,潜水時間は10〜15分である.呼吸間隔は,通常で毎分1〜2回であるが,高速で追尾されると6〜8回に増加する.また採食中に船で接近しても,船に反応せず採食を続けている場合が多い.



繁殖
繁殖周期は平均2年である.約11ヶ月の妊娠期間を経て,冬季に低緯度海域で1頭の子を出産する.出生時の体長は6.4m,体重は1.75t.出産間隔は平均2年である.生後およそ6〜7ヶ月後,高緯度の採食場で離乳する.この時点での体長は11.5m,体重は13.25t.ナガスクジラの最高寿命は94才. 25〜30才で肉体的成熟年齢に達する.性成熟に達するときの体長はオスが19m,メスが20m,年齢は6〜12才.
個体数の現状と保全
ナガスクジラは南半球産,北太平洋産,北大西洋産の3つの個体群に区分でき,それらが混ざり合うことはない.どの個体群も近代捕鯨による打撃を受け,危機に瀕している.南半球のナガスクジラの捕獲は1976年に禁止され,北太平洋の捕獲も同じ頃まで続いていた.すべての商業捕鯨は1986年に停止されたが,アイスランドは調査捕鯨により年間最高80頭の捕獲を,少なくとも1989年まで継続している.現在の個体数は,南半球全体で8万5000〜10万頭と考えられ,捕鯨実施以前の個体数(40万〜50万頭)の4分の1以下にまで低下している.個体数が捕鯨開始以前のレベルに戻り得るとしても,何十年,あるいは数世紀さえも要するだろう.