和名:ヒゲペンギン(アゴヒゲペンギン)
英名:Chinstrap penguin
学名:Pygoscelis antarctica
形態
分布
生息環境
餌と採餌行動
繁殖
個体数の現状と保全
形態
体長72〜76cmと中型。雌雄は似ている。額、頭頂部、襟首からしっぽを含む体の背中側は黒色で、腹側は白い。頬、あご、のどは白く、頭頂部の黒い部分とは、鼻から目の上を通って耳の辺りへ至るラインによってはっきりと区切られている。他種と識別するのに役立つあごの黒いラインが、耳と耳を結んで顎の下を通っている。フリッパーの表面も黒色。裏側は、白いが、先端には小さな黒い部分がある。足はピンクっぽい色で、足の裏は黒い。嘴も黒。

分布
極を取り巻くように分布している。南極収束線の南側、主に南極半島の南部から、アンバース諸島(南緯64度)にかけてや、南大西洋の亜南極の島々(サウス・シェトランド、サウス・オークニー、サウス・サンドウィッチ、サウス・ジョージア、ブーベ島)で繁殖している。ホーン岬でも小さなコロニーが見つかっている。

生息環境
海洋、特にウェッデル海の薄い浮氷のある地域を好み、開けた海や厚い浮氷のある地域にはいない。氷のない沿岸や、お気に入りの急な岩の坂、岬、浜辺、崖の縁で繁殖する。

餌と採餌行動
甲殻類(70〜100%、主にナンキョクオキアミ)といくらかの魚を食べる。水深10〜40m(最大潜水深度100m)で獲物を追いかけて捕らえる。日中、コロニー近辺の沿海で採餌する。キング・ジョージ島では、育雛中には、4〜6時にコロニーを出発し、7〜8時頃帰ってきて雛に給餌する。それからつがいのもう一方が、13〜15時に海に向かい、17時以降に帰ってくる。一方、シグニー島では育雛期の採餌旅行時間は、18〜48時間とキング・ジョージ島に比べはるかに長く、15〜19時に帰ってきて雛に給餌する。このように繁殖地によって採餌時間帯、採餌旅行時間は異なっていた。シグニー島では最大潜水深度は70m以上だったが、90%の潜水の深度は45m未満で、40%は10m未満だった。潜水の割合は、1時間当たり、6.6〜14.3回で、1回の潜水につき、11.6〜21.4匹のオキアミを捕らえていたと推定されている。シール島では、移動用潜水は平均深度が2.7〜2.8m、時間は18〜19秒で、全潜水の22〜30%に相当した。一方、採餌用潜水の深度の中間値は、28〜32m、潜水時間は73〜85秒であった。

繁殖
成鳥は、移動ないし分散のため5〜9月にかけてはコロニーにいなくなる。コロニーに再び戻ってくるのは、9月下旬から11月上旬で、高密度で巣を構える。サウス・サンドウィッチ島のように大きなコロニーもあるが、キング・ジョージ島のコロニーでは、平均で82つがいである。巣と巣の距離は60〜90cm。巣は小さな石をおおざっぱに丸く積み上げて、直径30〜50cm、高さ5〜10cmの浅いクレーター状の巣を作る。11〜12月にはだいたい1つがいが2つの卵を産む。抱卵は33〜35日間行われる。両親は長期の抱卵交代(5〜10日間)を4回と、一連の短めの抱卵交代を行う。孵化後、20〜30日間は両親が世話をする。両親が交代で警護と給餌を行う。12〜24時間毎の短い交代が行われる。その後雛はクレイシを形成し、2月下旬〜3月上旬(50〜60日齢)に巣立つまで、毎日両親から給餌を受ける。繁殖成功率は氷の状況によって、年ごとに大きな差を生じる。1つがいあたりの巣立った雛数は、0.016〜1.83であった。抱卵期や警護期には恍惚のディスプレイ、相互ディスプレイ、おじぎ、ぐるぐるまわりなどのディスプレイも見られる。 成鳥は繁殖が終わってから換羽する(3〜4月)。一夫一妻制でつがいのきずなは強く、82%の個体が翌年も同じつがいを形成した。前年の巣に戻ってくる確立も82〜94%と非常に高い。繁殖開始年齢についての詳細はわかっていない。
個体数の現状と保全
全個体数は、749万200つがいと指定されている。生息地の状況は、安定、もしくは増加傾向にある。いまのところ、個体数への大きな驚異はない。特にスコティア列島の個体数がこの25年ほど著しく増加している。おそらくは、環境の温暖化に伴って、広大な海氷が出来る年が減ったために、餌が増え、採餌のための移動距離が減ったことに関係していると推測される。南極半島では個体数の増加は顕著ではなく、人間活動のために個体数が減少しているコロニーもある。