和名:シロナガスクジラ
英名:blue whale
学名:Balaenoptera musculus

形態
分布
生息環境
餌と採餌行動
繁殖
個体数の現状と保全

形態
シロナガスクジラは地球上に現れたどの動物よりも大きい.体長は成熟オスの平均が約25m,メスが26.2m,体重は100〜120t(最大記録31m,200t以上).他のナガスクジラ類にもいえることだが,メスはオスに比べ5〜6%ほど体長が大きい.ヒゲ板は最大部で長さ約1mだが,長さの割には幅広で,黒色を呈し,内縁の繊毛は荒い.このヒゲ板はかなり特徴的なもので,これを見れば容易にシロナガスクジラと同定できる.左右それぞれ270〜395枚ほどが上顎の下側外縁に沿って付いている.体色は全体として濃い青灰色が基調色で,これに絣状の斑紋が重なり,シロナガスクジラの独特の体色が生み出されている.高緯度域では,全身が珪藻に覆われていることがしばしばある.胸鰭の裏側は白色ないし淡青色.体型は流線型で,形状に変異がある小さな背鰭が吻端から4分の3あたりに位置する.尾鰭は大きく,後縁中央はV字型に切れ込んでいる.胸鰭は細長くて先端は尖っており,長さは体長のおよそ14%程度である.頭部は,他のナガスクジラ類に比べるとやや幅広く,上顎は扁平で頑丈な印象を与える.1本の稜線が,噴気孔から上顎先端にかけて走っている.噴気孔は1対の鼻孔よりなり,その前方と左右は顕著な隆起に囲まれている.この隆起はナガスクジラ科に共通であるが,同じ科でも他の種ではこれほど盛り上がっていない.
分布
両半球の赤道域から極域まで,広い範囲に分布する.標識再捕調査により,何千kmも隔たった低緯度と高緯度の海域を周期的に回遊していることが明らかにされている.夏には高緯度海域で摂餌し,冬には低緯度海域へ戻って繁殖するという1年の周期があるらしい.回遊ルートはほとんどわかっていない.シロナガスクジラは.摂餌期には特定の摂餌場に戻るのが普通で,経度が大きくずれるようなことはほとんどない.一方,ごくわずかの例外を除き,繁殖海域が低緯度海域のどこにあるかはわかっていない.

生息環境
本来外洋性で,沿岸に姿を見せることはきわめて稀であるが,夏期の高緯度海域では,交代する氷塊の後を追うように回遊することがしばしばある.水温の変化に対する耐性がかなり高いらしい.

餌と採餌行動
南極海の摂餌場では,群集性のオキアミしか食べない,従って本種は,食物網の上ではナガスクジラ,イワシクジラ,ミンククジラ,などの他のナガスクジラ類と,この季節的な食物資源を巡って直接的な競争関係にある.シロナガスクジラの摂餌回遊は春の早い時期に始まることと,後退する氷塊の淵にたえず付き従い,そこに発生した大量のオキアミ類をすぐに摂餌しようとする習性が,この食物資源に対する本種の依存度の高さを裏付けている.仮に周囲に摂餌可能な小魚の群がいても,それを食べずにオキアミを食べる.成熟個体の主胃はおよそ1tものオキアミが一度に入るといわれる.



繁殖
繁殖様式はわかっていないが,おそらく一時的につがいが形成されるのだろう.妊娠期間はおよそ11ヶ月で真冬(盛期は5月)に温暖な海域で体長7m,体重2.5t前後の子供を1頭産む.出産間隔は通常2年だが繁殖や摂餌活動の状態によって変化する.性成熟の体長は,オスで22.6m,メスで24mくらいであり,体重は最終体重のほぼ70%に相当する.年齢5〜6才で性的に成熟すると考えられている.授乳は6〜7ヶ月続き,離乳時には,子クジラの体長は12.8mに達している.離乳は春から夏にかけて,高緯度への摂餌回遊の途上で行われるものと思われる.南半球三のシロナガスクジラについては,自然死亡率が年間5%と推定されている.疾病と,かつての捕鯨以外の主な死亡要因は,子クジラや病気か怪我で弱った個体へのサメかシャチの攻撃である.
個体数の現状と保全
19世紀,高速捕鯨船と爆発銛の導入により,鯨油生産量の最も高いシロナガスクジラは全海洋において捕鯨の対象となった.捕獲はおもに夏期の摂餌場である高緯度海域を中心に行われ,1930/31年漁期だけで,3万頭近くが捕獲された.1930年代に,出漁国間で自主的な漁業管理が始まった.採用された方式は「シロナガスクジラ換算方式」と呼ばれているもので,シロナガスクジラの産油量を基準にして,各種の捕獲頭数をシロナガスクジラに換算する方式だった(1BWU[シロナガスクジラ単位]=シロナガスクジラ1頭,ナガスクジラ2頭,ザトウクジラ2.5頭,イワシクジラ6頭).しかし,この方式では資源が悪化しているシロナガスクジラを保護することはできず,後に廃止された.1946年に国再捕鯨取り締まり条約が締結され,ようやく捕鯨業の管理が可能になったときには,シロナガスクジラはすでに激減していた.しかしそれでも,過剰捕獲であることを示す多くの情報が捕鯨産業の利潤追求のために無視し続けられ,シロナガスクジラの捕獲は経済的にわりが合わないほどに個体数が減少した20年後まで継続された.捕獲が全海域で停止されたのは1966年のことである.それまでに累積捕獲頭数は30万頭に達し,ほとんど個体数の回復が望めないレベルまでに減少していた.