和名:ワタリアホウドリ
英名:Wandering albatross
学名:Diomedea exulans
形態
分布
生息環境
餌と採餌行動
繁殖
個体数の現状と保全
形態
体長107-135 cm、体重 6.3-11.3 kg、翼開長 254-351 cm。羽色は年齢によって変化し、成長に伴い白色の部分が多くなる。オスはメスよりも若干体が大きい。最終的に成長したオスは初列風切の黒、次列風切の先端の黒を除いて全身白色となる。メスは最終的に成長しても雨覆いや尾の先端に若干の黒色を残す。嘴はピンクである。

分布
繁殖地は主に亜南極の島々である。オークランド諸島、サウス・ジョージア島、プリンス・エドワード諸島、クローゼ諸島、マッコーリー島など。外洋では南大洋において周極的に、南極周辺の海域から亜熱帯海域まで広く分布する。

生息環境
外洋域を主な生息域とし、繁殖のため以外陸地を訪れない。繁殖は離島で行う。繁殖地はタソックなどの草に覆われた斜面が多い。草がまばらな場所は飛行開始のとき離陸のために用いられる。繁殖しない年に彼らがどこでどのように過ごしているかは不明な点が多い。足に装着した小型のデータロガーの記録から、クローゼ諸島の個体が、繁殖のない一年間をオーストラリア東岸で過ごしたとの報告があり、繁殖地からかなり遠くの外洋を利用する個体もいることがわかってきている。

餌と採餌行動
餌は主にイカ類(ウデナガニュウドウイカ、コウイカ属、Histioteuthis 、ニュウドウイカ属)で、魚類や甲殻類も食べる。プリンス・エドワード諸島での調査では、餌構成(湿重比)はイカ類58.6%、魚類36.5%、甲殻類0.1%、その他4.8%であった。ほかのアホウドリ類に比べて、死んだ餌を食べている割合が高い。餌はおもに表層ですくい上げる方法によって採餌する。ほとんど潜水は行わず、5個体へ潜水記録計を装着し、それぞれ10日間の調査をおこなったが、最大潜水深度は0.3mだったとの報告がある。近年人工衛星を利用した個体の追跡により採餌域が明らかにされている。採餌域は広く、クローゼ諸島で繁殖する個体は抱卵期間中、最短14日間で3664キロから最長33日間で1万5200キロ以上に及んだ。一日で936キロも移動した個体もいる。ただし、移動には風が重要であり、高気圧帯の中に入ってしまうと移動距離は低下する。風を後ろからもしくは横から受けて飛行しているときの心拍数(エネルギー消費量の指標)は陸上で休息しているときより少し高いだけだが、風を正面から受けて飛行しているときや、離陸時には心拍数は高い。クローゼ諸島から北へ採餌に向かう個体(メスが多い)は反時計回り、南へ採餌に向かう個体(オスが多い)は時計回りの飛行経路を取ることが多い。これはそれぞれの海域によって異なる風の向きに対し、風を横からまたは後ろから受けて、移動に要するエネルギー消費を節約するためだと考えられている。

繁殖
成鳥は繁殖を2年に一回行う。ペアで求愛のディスプレーを行う。11月に繁殖が始まる。弱いコロニー性を示す。巣は地上に泥と草を使って作られる。450-550gの卵を1つ産む。抱卵期間はおよそ78日でオス・メスは2-3週間交代で抱卵する。雛は白い羽毛に覆われており、ふ化後4-5週間は親が抱雛する。巣立ちまでは278日を要する。性成熟するまでは9-11年かかる。成鳥の年死亡率は3%程度で、長生きである。平均寿命は30-40年と推定されるが、理論的には80年近く生きる個体がいると考えられる。クローゼ諸島では平均的なつがいは2.7年に一度、1羽の雛を巣立ちさせる。また繁殖成績は19-20才まで年齢が増すにしたがって上昇することが知られている。

個体数の現状と保全
個体数の総計はおよそ2万1千つがい、全個体数は10万羽以上と推定される。過去に個体数の激減があり、現在も少しずつ個体数は減少している。サウス・ジョージア島やクローゼ諸島では個体数の減少の原因の一つは延縄への羅網による死亡である。卵数が1で、かつ雛の巣立ちまでに要する期間が長いため繁殖率の低いワタリアホウドリにおいては、成鳥の生存率のわずかな低下が個体群の維持にとって大きな脅威となることが数理モデルによっても示されている。