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ドミノ倒しのキングペンギンの謎
話題のニュース解説

トピックス1 2001/11発信
  



ビックリ!大きな反響を呼んだおもしろニュース

2000年の11月に、キングペンギンが低空飛行の航空機に驚いてドミノ倒しを起こす、というニュースが流れました。飛行機に注意を奪われて見つめ続け、そのまま後ろにひっくり返って、長い列のドミノ倒しになるというわけです。
このため、生物への航空機の影響を調べる調査団をイギリスが派遣する、というのがニュースの内容です。
日本でも複数の新聞やテレビで取り上げられ、かわいらしいドミノ倒しのイラストつきでペンギンたちへの影響が心配されています。


ペンギン専門家の意見は…
ペンギンは地上には敵のいない南極域に住んでいますが、トウゾクカモメなど卵やヒナをねらう鳥がいるので、上空を常に警戒しています。飛行機は気になるでしょうが、倒れますかねえ?

ホームページでの反響は…
ホームページ上でもこのニュースの反響は大きく、ちなみにgooなどホームページ検索サイトで「ペンギン ドミノ倒し」あるいは「penguin domino」をキーワードに検索をかけてみたら、多くの人々の心の琴線に触れた模様で、このニュースに意見を寄せるいくつものページがヒットします。日本人ってほんとにペンギン好きなんですねえ。

英国での新聞報道は…
「派遣された科学者の一人、リチャード・ストーン博士は、仰向けに倒れるという現象には懐疑的。『調査の目的はむしろ、繁殖期に繁殖場所の上を航空機が飛んだ場合,どのような影響があるのかをはっきりさせることにある』とのべた」なる一文も添えられていました。


 
子育て中のキングペンギン

生物グループがニュースソースを調査すると…

このニュースは、極地研究所生物グループには、はじめは英国の放送局BBCの記者のジョークと伝えられていましたが、英国滞在の研究者へ実際どうだったのかの調査を依頼しました。

ストーン博士がつかまらなかったので同僚に確認したところ、BBCの記者のジョークではなく、イギリス海軍の士官がどこかのプレスにジョークのつもりでいったものだそうです。
すなわち、ストーン博士がヘリコプターのペンギンへの影響を調べるために海軍の船、エンデュアランス号にのってサウスジョージアに向かうにあたり、プレスがエンデュアランス号を取材した。取材に対応した海軍の士官が、ストーン博士はペンギンがヘリに驚いてひっくり返るかどうか調べにいくのである、とジョークをいったのを記者が真に受けた、ということだそうです。
海軍が自分たちがサポートするまじめな科学プロジェクトを、おもしろおかしく宣伝した、というところでしょうか。

彼いわく、ジョーク好きのイギリス人の言うことを真に受けてはいけませんよ!


調査団からの報告がありました…

2001年8月、アムステルダムで開かれた南極研究科学委員会の生物学シンポジウムで、この調査団から以下の発表がありました。

飛行機がペンギンに与える影響の調査
実験日 2000年12月
場所  サウスジョージア島
    キングペンギンコロニー
発表者 イギリス極地研究所
    Dr. Richard Stone
    およびDr. John Shears
結論  ペンギンはひっくり返らなかった!

イギリス空軍のヘリコプターが、コロニー上空を1768mから230mの高度で何度か飛行し、ペンギンの反応を観察した。
抱卵していないペンギンは、ヘリが近づくと逃げ出した。
抱卵しているペンギンはくつろぎや睡眠といった行動は減少したが、逃げず、周辺の固体とのなわばり行動(突っつきあいや羽でたたく行動)が増加した。破卵や卵放棄などはおこらず、ヘリの通過後の5分以内に、通常の状態に戻った。
約300m以下で飛行しない限り、ペンギンはヘリの飛行に慣れるようで、ヘリ飛行はペンギンにほとんど影響を与えていない。

まったく影響が無いわけではありませんが、ドミノ倒しに倒れるほど、ペンギンはオバカサンではないようです。
この研究の結果は、南極でのツーリズム・観測調査などの人間活動が環境に与える影響の基礎資料として用いられます。