南極観測隊便り 2017/2018


2018/02/10

自転車

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ドーム隊ブログをお楽しみの皆さん お久しぶりです ちょっと前の話で
本日は私事です お正月 ドーム基地で貴重な休日がありました。私の趣味は自転車です。何とか南極の内陸で自転車に乗ってみたいという夢がありましたが、今回は(観測船しらせ移動)ではなく一か月早い飛行機移動の先遣隊だったので、荷物に厳しい制限があり、自転車などとても持ってゆく余裕はありませんでした。南極サイクリングを諦めていたところ、57次越冬隊の古見さんから「昭和基地に自転車置いてあるから乗っていいよ」と声がかかりました。リーダーの川村さんに許可をもらい、諦めていた夢が現実になることに感激。皆さん、往路の109号車の屋根の上に自転車が載っていたのにお気づきでしょうか。
さてその自転車ですが最近流行り始めたファットバイクと呼ばれているマウンテンバイク。タイヤサイズは26×4.0 幅4インチもあるオートバイ並みの太さのタイヤ。これならかなりの雪道でも走れそう。屋根から自転車を下ろしてみると、マイナス25℃以下の極寒地ではチェーンオイルが凍り付いてクランクが回らない。変速機のテンションプーリーも固着。後ろの車輪に付いているフリーホイルも回らない。さすが南極! 対策はチェーンに付いたオイルを南極軽油で完全に洗浄、とりあえず無給油。プーリーを分解し内部のグリスをぬぐい取り、雪上車に使う南極専用グリスをうっすら塗る。後輪を雪上車内に持ち込んで温め、フリーホイルに浸透性潤滑剤スプレーを流し入れる。これを極寒の中に出して試運転してみると、何とか普通に動いた。しかし低温下ではペダルやホイールのハブなどのベアリング部分はグリスが固まってとても動きが悪くなっていました。問題は雪面。素人考えでドーム基地まで行けば極寒地の氷の上を走れる、と考えていたのが大間違い。ドーム周辺の雪は軟雪で、表面の薄いクラストの下はサラサラの雪。クラストが割れればまったく走れない。吹き溜まりのやわらかい雪に入ってしまうと進まない。まったく予想を裏切る雪面でした。結果、雪上車の走った跡が一晩経つと固くなるので、そこをタイヤの空気圧を落としてかろうじて走れる程度でした。それよりも何よりも、ドーム基地は標高3800mの高所。気圧は600hpと非常に空気が薄い。何もしなくても、息苦しくなる時もあり、少し歩いたり、雪堀りなどしただけで、ハーハーと息切れ。これは私だけでなく隊員全員が空気の薄さに苦しんでいます。この状況下で自転車を乗るとどうなるかというと。自転車の体力には自信があった私でも、抵抗の多い雪面を走ってみると100m走っただけでハーハーゼーゼー、少し頑張って走ると呼吸困難になるほどです。この苦しさは、ヒルクライムという登りだけの自転車レースのゴール地点の苦しさ以上でした。南極をなめていました。
今まで、移動、観測の手伝い、食事の準備、車両整備などでのんきに自転車に乗っている暇などあるはずもありませんでした。ルーフに乗った自転車はずっと飾り物でした。ドーム基地では長い滞在になる予定でしたので、そのわずかな半日の休みに南極内陸をほんのちょっと走ってきました。忙しい日々のわずかな正月休日のサイクリング。と言っても雪上車からドーム基地、天文観測塔までを、雪上車の踏み跡を往復するだけのものでしたが、間違いなく私は南極大陸を自転車で走ったんだ! そんな気持ちで満たされた一日でした。
小林 記








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