南極観測隊便り 2018 - 2019


2019/01/18

ノルウェー極地研究所同行者が空路帰途へ

Tweet ThisSend to Facebook | by ishida
1月9日に、当初の予定を一日早めてノルウェー隊員2名がARP2地点から空路帰途につきました。
その前日(8日)に、雪上車に設置していた米国のレーダは、撤収を既に完了し、また、3台の雪上車を用いた800m長の滑走路整備を済ませていました。
出発当日は、朝は休養をとれるようにして食事はブランチ、そしてこの日は比較的のんびりと時間が経過しました。滑走路作成の最後の仕上げで、雪上車が動きました。この日はカタバ風が比較的強く吹いていました。風が吹くと、飛行機は風下から進入し比較的ゆっくりとした動きで離着陸をします。

 夕刻17:00、ほぼ予定通りにBASのツインオッター機は到着し、約一時間半かけて、物資搭載や燃料補給を実施し、最後に2名の乗客を乗せて離陸しました。日本側の隊員は、これらの支援をおこなったあと、離陸を見送りました。



写真1:飛来し着陸するツインオッター機(撮影:岡田)

 ノルウェー極地研究所の2名の方々は、11/26に内陸にツインオッター機で飛来して以来、45日間この内陸ドーム隊で行動を共にしました。Briceさんは、主に米国レーダのオペレータ役として積極的な仕事をされました。移動経路の雪尺計測にも参加しました。設営担当の金子さんや、レーダ観測担当の津滝さんと3人のチームで、ドームふじ近傍の1240kmにわたるレーダ計測走行に参加されました。金子さんが運転、Briceさんと津滝さんがレーダーのオペレーターでした。JCさんは雪研究の専門家として、複数の先端計測器材を持参され、アルベド計測、雪の物理特性の計測などを実施されました。機器はそれぞれ欧州の雪研究の専門家等が開発してきた先端の機器です。ドームふじ近傍の雪を、これらの機器を用いてどう評価されるか、結果がでてくるこれからが楽しみです。 
 日本の南極地域観測隊の、彼等にとっては「異文化」のなかで、言語や食事や習慣や日本隊的チーム集団行動への対応をはじめご苦労は多々あったかとおもいます。現場を発つにあたり、印象に残ったことなどをいろいろお話されていました。ドームふじ調査の機会に、是非ということでご参加を選択したことなどを話されていました。このブログにもこれまで書いてきましたが、天候の影響から常に押し気味の日程のなかで、日本の隊員とともに観測に大きな努力をしてきました。休みもほとんどなく、最後の1週間はフライト日程に間に合わせるために帰路をひた走りました。ノルウェーに帰還し、今回の参加経験をどう総括されていくでしょうか。

 合計12名の内陸ドーム隊のうち、まず2名の同行者の方々がこれで内陸ドーム隊から離れます。私達日本人隊員も、沿岸に到着後、それぞれの次の行き先(昭和基地に越冬滞在される方々、しらせに乗船して日本に向かう方々、再度南極航空網を経由して帰国の方々)に解散していくことになります。日本出発前から開始し、こうしてつづけている本内陸ドーム隊ブログも、その「皆が大陸から離れオングル海峡を渡る頃」を目途に、毎日の投稿をほぼ終了する区切りとする予定です。移動等の経過を伝える散発的な記事は今後も追加していく予定です。

 9日に「ARP2」地点を発ったツインオッター機は、当初はベルギーのプリンセスエリザベス基地を経てその日の深夜にノルウェーのトロル基地に向かう計画でした。しかし、トロル基地方面の天候が飛行に適さなかったため、プリンセスエリザベス基地に1泊し、翌10日にトロル基地に着きました。ツインオッター機は続けて、英国隊の活動地域であるハレー基地方面に帰還しました。日本隊の居る内陸旅行ルート付近は、翌10日以降悪天となり、ホワイトアウト・降雪・強風に順次見舞われました。本原稿を執筆している16日まで、そうした状態が連日続きました。雪上車走行が全くできない日すらありました。ノルウェーの方々2名の飛行機によるピックアップをもし9日の機会を逃していれば、今頃まだ彼等は内陸隊からの帰途につくことができずにいたことになります。こうした天候状況がくることを、予め航空機を運航する方々が先読みした結果の迅速な帰還でした。

 私は、観測隊チームも、観測そのものも、世の中の諸事と同様に「一期一会」の世界であると思っています。限られた観測展開期間に、準備を周到にしたうえで臨み、最善を尽くします。今回の内陸チームも、ノルウェーからの同行者の方々も、まさにそうでした。観測隊に参加される「海千山千」の多分野の経験豊富な方々にめぐり会えるのは観測隊参加の間違い無く醍醐味です。ここに来なければこれだけ深く知りつきあうことのなかった方々。それぞれの道のプロ。同じ釜の飯を長期共にします。特に越冬隊でのつきあいは濃密になります。私が最初に大学院生として観測隊に越冬参加したときには、若い眼からみて「自分も人としてああなりたい。」と思わせてくれた諸先輩がおられました。

以下は彼等の出発当日の写真特集になります。



写真2:ツインオッター機のパイロットが、自らの積荷である補給燃料を機内から機外に落としました。(撮影:川村)


写真3:ノルウェー同行者の帰国物資の機内搭載が順次始まりました。(撮影:川村)


写真4:米国のアラバマ大学とカンザス大学に送り返すレーダー器材を搭載しました。(撮影:栗田)



写真5:飛行機の整備士(左)とパイロット(右)。どちらも女性の方です。(撮影:栗田)


写真6:左から、JC、金子、Brice(撮影:栗田)


写真7:離陸の直前に、抱擁の別れ。(撮影:川村)


写真8:いよいよ搭乗。(撮影:岡田)



写真9:滑走路から飛び立つツインオッター機。(撮影:岡田)


写真10:滑走路から飛び立つツインオッター機に、ピステン上から国旗を振る伊藤。(撮影:岡田)

藤田記
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