南極観測隊便り 2017/2018


2017/12/07

雪上車での長旅

Tweet ThisSend to Facebook | by 管理者
南極ブログファンの皆さん こんにちは 機械隊の小林です

ドーム旅行 という言葉を使っていますが、観光地巡りをするような楽しい旅ではありません。目的はドームふじ基地へ行き、深層掘削地の調査、アイスコア持ち帰り、などの重要なミッションをこなすことにあります。現在はドームへ行くためにひたすら雪上車で移動の毎日です。今回ドーム旅行初の試みで伊藤隊員がPB300でサスツルギを削りながら走りやすいルートを作って進みます。後続の4台の輸送車は気を使うことなく比較的安定した雪面をオートマミッションの2速固定、8㎞/hで進んでいます。時々コースを外れてサスツルギを乗り越えてみるとジャンプ台かと思うほどの落差。PB300と伊藤隊員の技術のおかげで機械にも人にも優しい走りができています。以前の隊は数メートルもの落差のあるサスツルギを越えたとも聞きます。雪上車にも大きな負担がかかったことでしょう。

宮岡隊員と私の乗る109号車は20年前の旧車。故障リスクが一番大きいと思い私が担当しています。さて日々の旅行、ドライブですが決して快適とは言えません。まずは騒音。車内にエンジンカバーが飛び出しているのでエンジン騒音は日本を走るトラックとは比較にならないほどの大きさ。走り出すとキャタピラが雪ときしみ合う音と振動でこれまた凄い。音楽を聴こうとスピーカーを置き最大ボリュームにしてもほとんど聞こええずイヤホーンで聴いていても騒音が割り込んできます。エンジンを挟んで隣の宮岡隊員との会話は怒鳴り合い、まるでケンカでもしているよう。必要最小限の会話しかしないので必然的に疎遠になります(笑)

そして振動、これまた凄い、食堂車であるこの車には鍋やヤカン、食器類、食材が置いてあったり吊るしてあったりしますが、それが一日中、ガランガランと音をたて、棚に置いた荷物はほとんど床に落ちています。一番激しいのはテンパーで左右の駆動輪を制動させて方向を変えるとき、大きく左右に振り回されて、まるで横揺地震体験車のようです。走行中、手すりに頼らず車内で立っていることはまず不可能です。

観光と言えば変化する景色を楽しむことが醍醐味ですが、初日感動した360度地平線を見渡せる真っ白な雪原も見飽きました。湖や山、木の一本も無い生物もまったくいない極寒地です。まるで大海原が一瞬にして凍結したように無数のサスツルギが固まった波のように見えます。ルートは一週間走ってもまったく景色は変わりません。キャンプ地も雪上車、橇の停車時の配列が同じなので写真だけではいつのものか判断できません。ドームまで1000㎞、標高は約4000m 斜面の平均勾配は0.4% ほとんど傾斜を感じない真っ平な雪原は自転車でも登りと感じないでしょう。この地球上にこれほどまでに大きな真っ平な雪原があるのでしょうか。二度とできない退屈極まりないこの旅を楽しみたいと思います。ドームまでの観光地といえば、南緯70度線の看板、みずほ基地、中継拠点くらいなもの、こんな時は隊員全員大はしゃぎです。ずいぶんと走りましたが、長い厳しい旅はもう少し続きます。
小林記

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