南極観測隊便り 2017/2018


2018/01/27

国内とのデータ通信・ボイス通信

Tweet ThisSend to Facebook | by ishida
南極の内陸へ遠征中は、通信環境が日常とは大きく異なります。本記事は主に技術情報です。今後に極地に出向く方のご参考になればとおもい、記事にします。


 今回の遠征にあたり、国内とのメール通信の確保とボイス通信は重要でした。昭和基地の環境では、インテルサット衛星回線が整備されており、インターネット接続もボイス通信も確保されています。内陸では、そのような設備はありません。データ通信もボイス通信も、基本的にはイリジウム衛星携帯電話か、インマルサットBGANと呼ばれる衛星回線を利用する携帯機器を用意する必要があります。機器のコスト面では、イリジウム衛星携帯電話が大幅に安価です。今回これを利用するにあたり、問題はメールアカウントの確保と安定した通信の確保でした。極地研究をすすめる関係の方々に照会しても、うまくいっている事例はみあたりませんでした。


 GoogleのGmail等は、イリジウム衛星携帯電話をモデムとした通信をおこなうと、通信時間が遅いことをエラーとして認識し、通信を自動的に遮断してしまいます。日本での実験段階では、AOLのアカウントが有効で、何回かのテストを経て「これでOK」とおもっていたのですが、なんと、今回南極の昭和基地入りをしたタイミングで、AOL側から「セキュリティの問題あり」通知が入り、アカウントは強制的に廃止されてしまいました。そうした状況のなかで、ノルウェー極地研に勤務する研究者である松岡さんから、米国にあるサービスuuplusの紹介をうけました。


http://uuplus.com/


 PCにこのuuplusの通信ソフトをインストールし、uuplusと月額約6,000円の契約をすると、イリジウムやインマルサットBGANの通信が圧縮されて高速でおこなわれます。メールに特化したシステムで、ウェブ閲覧は対象外です。メール送受信の接続完了まで10-20秒台で接続が確立します。普段使用しているメールソフト(たとえば、Thunderbird、Outlook、Becky!)は、このPC上にあるuuplusをlocalhostとして、メール送受をします。イリジウム通信が途中で遮断されてしまっても、次に接続したときには遮断した部分からの再開となり、やり直しのムダが発生しません。


 欧米では漁船を中心に多くのユーザーがいるそうです。uuplusとの契約は、通信量にかかわらず定額です。あとはイリジウム衛星携帯の料金が、通話時間に応じてかかるだけです。私は、南極や北極やグリーンランドにしばしば出向く方々に照会をかけるなかで、皆イリジウムのデータ通信の確保で難儀していることを理解しました。それで、この仕組みの情報を共有することは意味があるかとおもいました。今回の内陸行動中、快適に使うことができました。本ブログ記事のテキストの多くも、メール通信で、国立極地研究所アイスコア研究センターに送り、ブログにアップしてもらっています。感謝!。契約には1週間のお試し期間があります。ノルウェー極地研では研究所としてuuplusと契約しているとのこと。日本隊の内陸遠征でも、たとえばIridium Go!という通信機器をルーターとしてチームメンバーが一定のメール送受をできる環境を確保することで、昭和基地のインターネット環境からははるかに劣るとしても、職務・通信の効率化、留守家族の安全保障、精神衛生の改善がすすむと考えます。工夫や改善は重ねられるべきと考えています。


 今回は、昭和基地に居る段階で、このソフトをその後使用することになる可能性を念頭に、ダウンロードしてPCにインストールをしていました。しかし、契約方法の説明がウェブではほとんどわからない。昭和基地を離れてS16についてから、AOLアカウントの強制廃止を確認しがっかり。その後、日本にいる私の家族がuuplusに数回の照会をいれて使用法や契約方法を確認してくれました。予めインストールしておいたことが幸いし、往路の途中で契約とメール通信確保が成立しました。半ば奇跡的とおもっています。ほっと胸をなで下ろした状況でした。
松岡さんと家族からの情報や対応に大感謝でした。


データも、ボイスも、通信の確保は内陸隊やそのメンバーにとってどんな場合でも極めて重要です。

(藤田記)
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