南極観測隊便り 2018 - 2019


2019/01/17

米国レーダを用いた観測が完了!

Tweet ThisSend to Facebook | by ishida
1月は冒頭からノルウェー同行者のピックアップ日程をにらみ沿岸方向に向けて移動を続けていました。1月7日夕刻を目標として航空機の離発着の場となる「ARP2」地点に向かいました。7日になって、航空機の運航を管理するノルウェートロル基地から、「天候を鑑み、9日にピックアップを早められないか?」との打診がはいりました。10日以降なると、航空機の運航に適さない天候状況が予報されていました。このタイミングを逃してしまうと、ノルウェー側の都合で2名の同行者の帰国日程に大きな影響がでるリスクがありました。米国のレーダはノルウェーの担当で、この内陸からまずはトロル基地、南ア、そして米国まで輸送することになっています。米国レーダを雪上車から撤収したり梱包をつくったりという手間を考えたときに時間的にはギリギリでした。設営的には、滑走路整備も必要です。しかし「この日程打診を受け入れない」という選択肢はありませんでした。結果的には、ARP2に内陸隊が到着したのは1月8日の午前9時過ぎとなりました。米国レーダを用いた観測は、これをもって完全終了となりました。あとは、いくつかの点検作業ののちに早急に解体・梱包。



写真1:1月8日の早朝に。大型のアンテナを積んだ雪上車が居る光景もこの日で見納めです。設置後約4週間経過し、見慣れた風景になっていました。



写真2:ARP2地点到着後に、記念写真撮影のために2台のレーダー観測用車両を隣あわせに置きました。



写真3:レーダー観測用車両2台を背景に、記念撮影。59次越冬隊の方々が、出発前に旗に「祈安全、祈目標達成」と筆と墨で書いてくれています。それらを皆の力のお陰で果たすことができました。深く感謝です。米国製レーダ用アンテナ(アンテナは日本製です!)の最後の姿。



 実は、レーダー観測では機器の調子を確認する「校正」作業も重要な仕事です。あらかじめレーダー技術関係者と連絡をとり、今現場に居るこの段階で最低限計測をしておかなければいけないことをリスト化していました。たとえば、(1) レーダーの送信信号の波形を記録しておく、(2)標準反射板をレーダーの下に置いて、そこからの反射波形を記録する、(3)アンテナ類の相対的な位置関係を記録する、等等です。帰国してからも行うのですが、機器の現場での状態を記録しておくことがとても重要なのです。チームで連携してこれらの作業をおこないました。



写真4:マイクロ波レーダーのアンテナ直下に金属導体(銅メッシュとアルミ板)を置いた反射校正計測の風景。


解体作業は、8~9日にかけて約1.5日を見込んでいました。アンテナを地上に降ろすには、再度クレーンが必要として作業手順を組みました。まずはアンテナを保持し変形や落下を防止していたロープ類の撤去作業が先決でした。撤去作業と設置作業の大きな違いは、設置作業には常に設置位置の厳密な正確さが必要であったのに対し、撤去作業はとにかく解体し順次地上に降ろすことです。結果として、解体は思いの外早くすすんでいきました。比較的小規模の部品を取り外して順次下ろせたので、クレーン車使用も必要がなくなり、すべて手作業ですすめていきました。


写真5: 解体中の米国レーダー用アンテナ。


写真6: まず左翼を解体し、その後右翼の解体にかかりました。



写真7: アンテナをすべて撤去。そして写真にみえる単管パイプもこの翌日撤去しました。雪上車の上に毛布にくるんだ発電機が2台あります。これは沿岸に移動した後に撤去予定です。


上のような経過を経て、111号車に搭載してきた米国レーダ関連機器の撤去をすすめました。雪上車内では、津滝・Briceの2名が、レーダー本体を棚から撤去し、順次収納ケースに詰めていきました。8日の夕刻には作業はだいたい完了していました。撤収作業が前倒しで完了し、うれしい誤算でした。あとは翌日17:00(現地時間)に予定された航空機到着日程にあわせ、物資の整理をすすめていきました。データバックアップ作業の仕上げや、進捗状況を日本・ノルウェー・米国の関係者にリアルタイムで伝え続けてきた「進捗レポート」のほぼ最終号を執筆し、これらの関係者に対しても諸作業の完了とあらためての感謝の言葉を伝えました。
現場でレーダーの直接オペレートを担った2名の隊員(津滝・Brice)は観測全般、特にオペレートに大変な努力を払ってきました。また、チーム全体の献身的なご支援の大努力なしにはこの完了までの状況はありませんでした。ここまで、着実にすすんできました。最先端の精巧・高性能の科学機器や道具が如何に優れているかを英語で表現するとき、しばしば「state-of-the-art」という言い方をします。文字通り、「芸術の領域に達した」という意味です。今回、国際共同研究を通じて、この「state-of-the-art」のレーダーを活用する機会に恵まれました。
こうしたレーダーを、長期に、巨大な資金と人的投資をおこなって開発してきた米国側の努力なしには、この観測はありませんでした。まさにノウハウと技術の蓄積です。最先端の氷床レーダー観測機器を脈々と開発し現場に供給し続ける米国側の長期の努力には大変に頭が下がります。大きな敬意。今回の国際共同観測の諸経過が、こうした方々との今後の太い共同研究体制の大きな礎になればいいと心から願っています。JAREや国立極地研究所とこれらの方々との連携で探り出せる「南極大陸氷床に関する知識」は甚大と確信しています。

今は、まずは、全ての機器を、そのホーム(大学や研究所)に無事に送り戻し、また、今回取得したデータの情報を関係者間で十分に共有し、それらを再度の出発点として、今度は今終わった「観測フェーズ」から「研究フェーズ」にはいります。現場に居た私達も疲労をとり一端は頭を冷却して。春には関係者で集まり、この研究フェーズを確固とした体制ですすめていくべきことなどをこの頃のメールで打ち合わせました。無機的な「生データ」を起こし、科学的に展開し、研究発表や数多くの論文としてお示ししていく、大きな~国際共同の仕事が待ち受けています。期待と畏れと覚悟。

藤田記
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