南極観測隊便り 2017/2018


2017/12/09

生活用水を造る!

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 内陸旅行隊では、基本は雪上車等に居住する長期の不自由な生活になります。日常の生活への様々な工夫は欠かせません。筆者が内陸観測をともなう南極観測に関わってから意外に進歩が乏しかったのが、生活用水の環境です。生活用水は、飲料用の衛生的な水と、体ふきや洗濯に用いるような水になります。南極内陸部は周囲一面雪と氷の砂漠です。水の材料は無尽蔵です。問題はそれを融解するための熱です。雪を鍋に入れてお湯まで沸かすような場合には、融解熱が極めて大きく、コンロの灯油やガスの燃料量も大きくなります。そこで活用しているのが、雪上車のエンジンの廃熱です。

 内陸では、ふたのついた20リットルポリバケツに雪を入れて、雪上車内にある廃熱吹き出し口に起きます。そして、ポリバケツの周りに、熱を逃がさないように木箱をかぶせます。-40℃程度の低温の雪は、空気を介した熱交換で暖められて、やがて水、そして最終的には+45℃程度のお湯に変わります。こうして造った水を、さらに熱して、食事に用いてきました。ただ、バケツの量や、上記の木箱の量が限定されると、造水能力には限界がでます。シャワー、洗濯、入浴にはとても足りない。これまで、JAREの内陸観測旅行といえば、旅行中はシャワー・洗濯・入浴がないことが普通でした。数カ月間の旅行中に皮脂はたまり汗は悪臭となり、決して衛生的ではありませんでした。昭和基地に帰還後、すぐにでも入浴・洗濯に向かわないと、帰還した隊員が放つ悪臭を昭和基地の隊員にいやがられる事例は多々ありました。さて、精神衛生面の点でも、造水能力を強化し、衛生状態を保つ必要がありました。国内での準備段階から、造水用のポリバケツの量を増やしました。さらには、空気を介した熱交換の効率をあげるために、試験的に4個の蓋付きステンレス製寸胴鍋も用意しました。昭和基地に先行して滞在されていた第58次観測隊の越冬隊の方々とも連絡をとり、造水の際に用いる木箱を各車2個用意していただき、各車両でバケツ4個、合計80リットルの造水を可能にしました。大ざっぱにいえば、-40℃の雪から造水をはじめれば、初日で、約80リットルの常温の水になります。翌日も温風を当て続ければ、翌日には約80リットルの50℃近いお湯になる状況ができました。これを雪上車4台でおこないますから、大量のお湯の生産が可能になりました。熱源はこれまでフル活用とはいっていなかった車両エンジンの廃熱です。原料は無尽蔵!コスト増や燃料消費増は一切ありません。

 さらにさらに、小型ユニットバスの用意、野外シャワー用のテントや給水機構小道具の用意を経て、隊員は希望すれば数日に1回程度は、少なくとも温水シャワー・入浴や汚れた衣類の洗濯が可能になりました。これらにかかる内陸観測の衛生環境は今回間違いなく革新しつつあります。衣類の洗濯は各車で日常的におこなわれていますし、夕食時には、「今日シャワーに入る方は?」と人数や順番確認をすることが日常となっています。ただし、シャワーにはいる前の周囲の温度はマイナスです。屋外に張ったテントの初期内部温度はマイナス30℃を下回ることも日常的です。ぬるいお湯しか準備できなかったようなとき、凍えるような寒さを経験するようなことになります。テントでシャワーをはじめて試した隊員が、あまりの寒さに屋外で絶叫したようなこともあります。体にかければとても熱いような、45℃付近のお湯を用意しておくことが必要なようです。車外においたシャンプーは凍っており、使用前にまずお湯に入れて溶かします。今回のチームでは、皆さんがシャワーや入浴法を工夫し、情報交換と改善をおこなっています。既に約1カ月、内陸環境で皆さんと共に過ごしました。今後あと約55日、いろいろなノウハウがたまるといいな。そして、たとえば私は科学研究者です。科学研究者らは、今回もいつも、現場では機械担当、医療担当、野外活動支援の多くの方々の長期の献身的な力に太く太く支えられてこの内陸活動に従事することができています。大感謝なのです。こうした支援に専従くださる方々にとって内陸ならではの不自由さや不衛生がいくぶんでも改善し、南極内陸の科学調査旅行は衛生面では十分OKと思っていただけるような環境になったらいいと思っています。(藤田記)
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