南極観測隊便り 2017/2018


2018/01/08

氷床の下には水が満ちている

Tweet ThisSend to Facebook | by ishida
現在、氷床レーダ観測班は、1/7 - 1/10の日程で、氷床レーダ観測 通称「第4レグ」の区間の計測をすすめています。ドームふじ近傍の氷床レーダ観測としては今シーズンの最終計測走行です。「この第4レグ」がカバーする地域は、アイスコア掘削候補となるような氷下の山岳域はわずかで、大部分は「低い平地」です。「低い平地」の氷床底には水が満ちており、湖もしばしばあります。湖水地方とでも呼びましょうか。


さて、南極氷床の厚さは、全南極全体で約2千メートルです。ここドームふじ近傍では、今まさに計測を継続していますが、概ね、2千2百メートル~3千5百メートルの厚さです。日本の山岳地帯の標高をすっぽり覆うような厚さの氷が、豪州大陸よりも大きく、北米大陸よりは小さい大陸のほぼ全体を覆っています。この巨大なサイズこそが、地球規模の環境変動と南極氷床の関係を研究する多く
の研究者の動機(あるいは問題意識・危機意識)になっています。この氷床が縮小しても拡大しても、地球全体の海水面変動に確実に影響してくるのです。


 電磁波を氷床の底部に照射すると、ドームふじ近傍では氷の厚さが2千8百メートル以上になると、強い信号が底部から跳ね返ってきます。時には、底部の形状が明瞭な平面であることもあります。ここには水があり、時には湖を構成し、電磁波を強く反射していると多くの研究者に考えられています。現在観測をしている場所(ドームふじ東方~南東方)がまさにそういう場所です。地下に山岳地形はみえず、延々と平地が続いています。3千メートル台以上の深部にあたった電磁波が強く跳ね返ってきます。そうした場所では、底面の氷が融解・流出した結果、氷床の内部層構造全体が下側に陥没した構造がみえます。


 南極大陸氷床内陸は、表面こそ年平均気温-50℃を下回って(たとえばドームふじ)いますが、氷そのものが分厚い断熱材の役割を果たしています。氷が厚いほど、底には大陸岩盤を伝わってくる地熱が蓄積され、融点に達します。逆に薄ければ、冷たい氷が底部に流れる結果、底面が凍り付いていると考えられてます。この結果、興味深いことに、大ざっぱに申しますと氷が厚い内陸ほど底部は融ける傾向にあり、氷が薄い沿岸は底部が凍り付いています。内陸の底部で生産された融解水は、その後氷床の底部を流れて海に流れ出すのですが、沿岸部の多くは底部が凍り付いているので、水の海への出口(排出口)は限られています。おそらく、南極が温暖だった時代には河川があったような場所なのでしょう。そこに、大陸内部の広域の水の排出が集中することになります。そうすると、大陸氷床は、底面で水が流れるので、氷床流動と岩盤のあいだの摩擦がなくなります。氷床はここでは加速して一気に海に流れ出します。そうした場所が、たとえば昭和基地近傍の「しらせ氷河」のような大氷河なのです。英語ではストリーミング・フローと呼んだりします。南極氷床からの氷の流出の約9割は、こうした局所的かつ急激な氷の流れで起こっていると考えられています。沿岸の名のある「~氷河」の氷の下には、間違いなくこうした水の流れがあります。水の流れ(氷下の大河)はその上流に遡ることが可能で、支流をたくさんもっています。支流の先には、広大な面積の水の供給地「内陸氷床」があるのです。


 今回の内陸調査チームは、将来の深層アイスコアの掘削候補地探査が目的ですから、氷下の底面が凍結している地点あるいは地域の探査を主におこなっています。本来は、氷下山地が重要な着目点ですが、今実施しているような、周囲の「湖水地方」の観測も怠ることはできません。それは、氷床の流動全体のなかで、「山岳地方」周辺の「湖水地方」の様子も把握しておかなければ、100万年規模
のなかでの氷床の大きなスケールの動きは見えてこないからです。基盤地形を把握し、融解している底面や湖の分布を把握していきます。今夏シーズンにカバーした観測エリアの面積は、約2万平方キロメートルにおよびました。航空機を用いずにおこなった雪上走行車両を拠点としたレーダ探査としては大規模です。締めくくりの数パーセントのエリア(湖水地方)の観測を、10日頃までに完了する見込みです。



(藤田記)
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