南極観測隊便り 2018 - 2019


2018/11/30

ドームふじルートの難所の区間 みずほ - MD180

Tweet ThisSend to Facebook | by ishida
ドームふじルートのうち、みずほ基地付近から、MD180までは、サスツルギが多いため、車両や橇の走行にとって最大の難所になります。
吹きさらしの硬く締まった雪の凸凹の上を通過する車両や橇にとって、衝撃や振動はとても大きいのです。そうした衝撃や振動は、雪上車の故障、橇の損傷や破壊、燃料ドラムの損傷として過去に頻発してきました。平坦な場所であれば、時速7-10キロで走行できるものも、この難所区間で車両や橇を守るためには、場所によっては平均時速を3-4キロまで落とさなければなりませんでした。この180キロ区間を通過するのに、過去には5日間以上の時間が必要でした。無理して速度をあげる結果、33次隊~38次隊頃の時期には特に、橇の破壊や燃料ドラムの損傷を招いてきました。

サスツルギを極力避けるルートとして「新MDルート」として、人工衛星からみた雪面の凸凹の分布をもとに、新ルートをデザインし、54次隊、59次隊などでこれを利用してきました。この新MDルートでは、遠回りをするにもかかわらず、この難所の区間を通過する時間はMDルートよりも短くて済んでいました。

昨年はじめて、Pisten Bully PB300型車が内陸旅行での先導役をつとめました。この車両は、スキー場での雪面の整地を得意とするため、サスツルギによる雪面の凹凸を取り除きながら前進します。「新MDルート」で試した結果として、後続の車両は、時速7-10キロで走行できるようになりました。今回はじめて、このMDルートの「みずほ - MD180」の約180km区間でこのPB300型車が先導役をつとめました。かつて、第49次隊夏期に実施した内陸旅行と比べると、みずほ基地以降でのこの「難所区間」の移動効率は2倍以上となっています。かつて向き合わなければならなかったサスツルギによる衝撃や振動は大幅に減少しました。各車両にはそれぞれの特徴と役割があります。PB300型車の先導と整地があるときには、移動の効率化、他の各種車両や橇の損傷の回避、乗員の感じる衝撃やストレスの回避、移動日程の短縮という多くの点で利点が発生しています

凸凹の多いサスツルギ帯にできた整地した一本道は、通称「ピステン道」と呼ぶ道路になります。隊員間では、「高速道路だね」などと話すこともあります。結果的には、他の多くの車両や装備の寿命も延ばすことになります。そうした分析が今後必要かとおもいます。新MDルートは今後不要になるのか、その点はまだわかりません。これも、分析が必要です。


写真1:雪原に整地された通称「ピステン道」。後続の車両や橇は、このトレースをスムーズに進行できます。遠方に見えるのは、伊藤が操縦するPB100型車。(撮影:岡田)




 写真2:みずほ基地通過以降、特に高頻度で出現をはじめたサスツルギ雪面。ピステン道がもしなければ、このサスツルギ雪面の上をゆっくりと慎重にすすむことになります。(撮影:栗田)

藤田記
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