南極観測隊便り 2018 - 2019


2018/12/04

ノルウェーからの同行者の到着!11/26

Tweet ThisSend to Facebook | by ishida
いよいよノルウェーからの同行者が到着するその日が来ました。長い一日のことを書くので、本日の記述はやや長いです。

フライト実施の前日である11/25の段階から、当該のBritish Antarctic Survey ( BAS)のツインオッター機の内陸隊までの運航を管理するトロル基地から、「明日はフライトを実施する」旨の連絡がはいっていました。当日11/26は、朝から穏やかな天気で、青空がひろがりました。先日まで10メートルやそれ以上あった風も弱まり、気温は-30℃前後と低い状況でした。航空機の運航にかかる事前の打ち合わせに沿って、朝から一時間毎に内陸隊からMD180地点の気象通報をトロル基地へ送り続けました。トロル基地からは、航空機がベルギーのプリンスエリザベス基地を09:07UTCに発ってフライトを開始したとの連絡がはいり、約2時間後の到着予定時刻も伝えられました。

滑走路は、降雪をともなう荒天のあとだったので、再度荒れてしまっていました。雪上車4台で再度の整地作業が実施されました。


写真1: 滑走路を再度整地するピステン車。



写真2: 整地されて航空機の到着を待つ滑走路。長さ500m、幅60mです。滑走路の片側には、50メートル毎に黒い旗を設置しており、離着陸するパイロットが距離をはかれるようになっています。


私達の居たキャンプ地も、降雪と風で雪上車や橇の周囲に吹きだまりがたくさんできていたので、航空機が到着する前にキャンプ地を約50メートル移動し、ピステン車が吹きだまりを整地をして平坦な雪面にしました。地上に居た私達は、12:00UTC過ぎに、まず双眼鏡で地平線近くに飛行機が接近してきたことを視認しました。最初遠くに見えた黒い点は、航空機が接近してくるにつれて機体の実際の色である赤い色として視認できました。

航空機は滑走路上空を通り過ぎたあと旋回し、そのまま一度滑走路に向けて降下しました。着陸するかに見えましたが、速度を落とすことはなく後脚を滑走路に接触させたのみで再び上昇しました。後に聞いたところによると、滑走路の固さや粗さを確かめるための通常の着陸前の確認手順であるそうです。前脚を着地させずまずは後脚のみで滑走路の状態をはかるのだそうです。航空機は、再度上空で旋回してから降下し、今度は着陸しました。12:21UTCでした。ベルギー基地からの所要時間は約3時間でした


写真3: 滑走路に着陸する直前のツインオッター機(川村撮影)


日本隊のメンバーは、着陸の際には、滑走路から約200メートル離れた位置に待機して着陸の様子をうかがっていました。航空機が動きを停止し、乗員が機体から機外へ降りる動作をすることを確認したのち、機体に雪上車や徒歩で接近し、降りてきた人々を挨拶を交わしました。着陸後、約1時間の短い時間を使って、ただちに荷下ろしや燃料補給が行われました。燃料は、内陸隊が輸送してきた航空機用燃料です。



写真4: 荷下ろしされた物資



写真5: 航空燃料を橇に積んだドラム缶から給油。(川村撮影)


荷下ろしや給油のひとおおりの作業を終えた後、現場に居た全員で記念撮影をしました。日本の南極観測隊員10名、ノルウェー極地研究所から同行者として参加した2名、それに、ツインオッター機のクルー(パイロットと整備士、各1名)です。


写真6: 全員で航空機を背景に記念撮影。(内陸隊撮影)


ツインオッター機のクルーの方々は、その後ただちに同日中に、まずはベルギーのプリンスエリザベス基地、そしてさらにノルウェーのトロル基地への帰路につかなければならないということで、ただちに離陸準備、そして離陸し、私達の居たMD180地点を離れました。



写真7: ツインオッター機へ乗り込む整備士の方。パイロットは男性、整備士は女性でした。(川村撮影)


以上に述べた約1時間の出来事は、すべて気温-30℃での冷たい風のなかの出来事でした。着陸から離陸に至る約1時間の作業のなかで、現場に居たメンバーの体は冷え、消耗していました。特に、暖かい機内から突然この標高2800メートルの寒冷&寒風環境に降り立ったノルウェーの方々にはこたえたようです。航空機が離陸後、到着直後のノルウェーの方々をまずは雪上車にご案内し、暖かい飲み物や甘い物で冷え切った状態からの回復をはかりました。その後、同日は、夕方までかけて、今後の行動にかかる打合せや、居住体制等の打合せ・確認作業をしました。内陸隊としての移動の再開は翌日からです。

本航空機のオペレーションの実施にあたっては、航空機の運航に関わった多方面から非常に大きな支援を受けました。オペレーション後には、ノルウェーの方2名の到着の事実を伝える連絡メール、それに、関係者間・関係機関間の連絡や礼状が多数のメールで行き交うこととなりました。日本、ノルウェー、英国、ベルギー、そして米国の方々です。

内陸隊では、これで12名のメンバー全員が揃いました。米国のカンサス大学やアラバマ大学が開発した高性能のレーダー機器も、ノルウェーの方々とともに内陸隊へ輸送されました。これらの機器は、寒冷環境に置くことはできず、到着後ただちに、保温された雪上車内に収納しました。

ここMD180地点からドームふじ地域までは、さらに陸路550キロメートルを移動しなければなりません。更なるサスツルギ帯合計約数百キロと、軟雪帯と呼ばれる地域合計約数百キロを越えてすすんでいきます。そしてそこで、今回目的としている氷床のレーダ-観測をはじめとした多くの観測タスクが待っています。荒天がもたらした遅延によって、日程的には、当初の合流日程よりも約1週間遅れています。さらには合流地点は当初予定よりも沿岸側に約60kmずれました。この遅れを、今後の日程のなかでどうやって消化していくことになるか?国際チームとしてのチーム内の調和作り・維持も、これからの課題になります。ノルウェーの方々とは、研究打合せに加え、富士山高所合宿訓練や、米国で実施したレーダ操作訓練でご一緒してきましたので、呼吸はだいぶお互いにわかっています。如何に今後、フルメンバーで、皆が納得できるような科学観測活動をすすめていくか。気をひきしめて、前進していきます。

同日、11月26日、今回人員と物資を輸送したBAS ツインオッター機は、乗員2名で13:29UTCにMD180離陸し、約2時間半後の15:53UTCにプリンセスエリザベス基地(ベルギー)に着陸。さらに16:34UTCにここを離陸、19:50UTCにトロル基地(ノルウェー)に帰還しました。これは約3時間半のフライト。そしてその二日後、この飛行機は、11月28日17:33 UTCにトロル基地を出発し、英国の基地であるハレー基地に同日20:45 UTCに到着しました。最後は約3時間のフライトでした。英国の通常の活動域(南極半島や近傍の棚氷地域など)から片道の移動で、飛行時間の総和だけでも9時間を超えます。離着陸地や経由空路の天候条件が確保される必要がありますから、自ずと日数はかかることになります。南極での活動では、陸上活動でも航空機の移動でも、荒天との遭遇状況によって簡単に1~2週間の待機・停滞時間を余儀なくされます。今回の一連の飛行オペレーションは、日程的にもかなり首尾良くすすんだと私はとらえています。実現を主導あるいは支援くださった関係諸機関には深く感謝しています。BAS ツインオッター機は、来年1月の上旬~中旬にかけて、再度ノルウェーの方々を迎えに内陸隊のところへ飛来する予定になっています。そのときに、そのときまでに続く観測活動の経過をどう振り返っているでしょうか。

藤田記
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