南極観測隊便り 2017/2018


2018/01/08

奇妙な形状の山々

Tweet ThisSend to Facebook | by ishida
団らんの際に、「藤田さんは某国情報機関の密命をうけて氷の下にある秘密の宇宙基地の痕跡調査をしているに違いない。」などと冗談がでたりすることがあります。
氷下の調査は謎めいた要素があるのは確かとおもっています。
レーダは電磁波のパルスを、できるだけフォーカスを絞って足元の氷下に打ち込みます。氷の内部や、氷と岩盤の界面、氷と水の界面にあたった電磁波が戻ってくるのをとらえます。それを画像化すると、あたかもサーチライトで上方から照らしだしたような光景・風景の画像ができあがります。過去3,600万年氷に覆われて、外界からは見えなかった光景・風景。人類史は上の数字よりも3~4桁小さいですから、もちろん人類の誰もこうした風景を生で見たことはありません。かつて温暖であった時代には、植生が生い茂り、峡谷や山地や平地、あるいは砂漠など、様々な環境や風景がそこにあったはずです。氷床が南極を覆ってしまったあとは、氷床が流動し大地の表面を削りとりますので、いわゆる「氷食地形」も、発達したはずです。今の欧州北部や北米でよく見られるような地形です。
南極でも沿岸には氷河が削った山々を多数観察できます。レーダ画像のなかには、首をかしげるような地形も含まれています。きわめつけは、キノコのような形状をした山々。ある一部の地域に複数あります。他の地域には見つかりません。上に大きな傘がのり、下にはキノコの茎。傘の影も映っています。高さは0.5キロメートル程度、範囲は数キロメートルのスケールです。
実は、レーダ観測画像では、実際にはそうでないのに、計測の特性上みえてしまう「アーティファクト」(人工疑似効果)もありえます。
電磁波のビームが拡がってしまうことから、自分の直下からはずれている場所にある山々もあたかも直下にあるかのごとく映ります。
観測者が移動しがなら計測する結果として、尖塔のような形状の山の頂上も、放物線形状の画像として画像に出現してしまう。
今後、このアーティファクトと現実の分離作業が必要ですが、こうしたキノコ山が、ある地域にだけ多数。
クイックルック画像を今回の内陸チームの皆様にもご覧いただき、「キノコだったらうまそうだよね」などと冗談を言っていました。
謎解きに悩んでしばらく楽しめそうです。この観測地域の氷食の歴史を解くカギかもしれません。

(藤田記)
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