南極観測隊便り 2018 - 2019


2019/01/07

走行する探査車の内側の風景

Tweet ThisSend to Facebook | by ishida
あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。
年末から年始にかけてのドーム隊の様子をお知らせしたいと思います。 
ICC事務局代理:石田

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継続してきたドームふじ南方域のレーダー観測走行は12/27-12/29の期間をもってこの地域の走行としては最終とすることとなりました。本稿では、走行中の雪上車の内部の様子をご紹介します。車両が探査走行する速度は概ね10-15km/時です。先にブログの記事で述べたように車内温度は40℃台に達する場合もあります。移動中の車内はエンジンの大きな音が響き、また、雪面の凸凹の上を走行するため、大揺れに揺れています。騒音の大きさは、耳栓とイヤマフをしても、重低音として耳に響いてきます。走行中に車内を移動するにはバランスをとりあちこちにつかまりながらの大変な注意が必要になります。

●運転席の様子
12/28のこの日、115号車の探査を支援をくださっているのはフィールドアシスタントの高村さんです。日中は車内と車外の光のコントラストはとても強く、車内の人物は黒っぽく写ってしまいました。眼を強烈な紫外線から守るためにサングラスを着用します。通信機マイクが運転席近傍にはいくつかあります。また、ナビゲーション画面は、助手席で制御するPCナビの画面を、高輝度のディスプレイで運転者が常にみています。

写真:助手席から運転席をみたところ。

●助手席の様子
助手席には、ナビ用のPC、それに、車両の位置と方位まで刻々記録できる「GPSコンパス」と呼ぶ機器を置いています。写真を撮影した時には、筆者(藤田)が共同研究者にデータを送り出すデータ通信をしています。イリジウム衛星携帯電話機のアンテナを窓の外に出して、通信を確保しています。助手的からは車両後部にあるレーダ機器を高頻度で監視にいきます。大揺れの車内を注意深く歩いて。車内には突起部があちこちにあります。このため、レーダ走行時ではないですが、ちょっとしたことで体をぶつけ打撲することが多いです。


写真:運転席から助手席側をみたところ。

●車両後部の様子
こちらの写真が車両後部です。右の棚には、レーダ機器や通信機がのっています。足元には、造水・造湯のために、雪を詰めたステンレス製の寸胴鍋を置いてまさに造水中です。写真左側には、2つの木箱があります。この木箱のなかにも、造水バケツを合計4個置いています。ここには雪上車の温風吹き出し口があり、木箱を置くことによって熱を閉じ込めています。そこに造水バケツを置くことで、効率良く温水をつくります。また、左側後方には2段ベッドがあり、就寝の場になります。実際の就寝の際には、床面に布団をしきそこに寝袋を置くことで床面に寝ることも多いです。木箱は、冷凍食品を解凍する場や、洗濯をした衣類の乾燥の場としても活用します。中水専用の造水バケツはそのまま洗濯バケツとしても活用します。車両の揺れを利用し、「洗い」に関しては自動でおこなうことができます。


写真:助手席の位置から、車両後部をみたところ。

●エンジンルーム直上
車両のエンジンは、運転席と助手席の中間を占めています。ここは走行中の高頻度で使うものを置く場所にもなります。水筒やペットボトルなど飲み物、お茶の類い、それに、野帳、イアマフなどを置いています。食事の時間には、ここをテーブルとして食事をおこないます。しかし、振動が激しいため、電気・電子機器をここに置くと故障の原因になります。過去にここに置いて故障したものは、PCやイリジウム通信機など。衝撃によりケーブルやコネクタなどの物理的な破損が多いです。将来に車両を利用する方は要注意です。


写真:助手席位置から、エンジン直上をみたところ。


●雪上車内部に関連したいろいろなこと
ブログでは、騒音や車両の揺れや高温状態をお伝えできてはいません。でも、車内の生活感も含めた雰囲気はご覧いただけたかなとおもいます。以下のような疑問がでるかもしれません。トイレはどこ?冷蔵庫は?洗濯機は?テレビは?シャワーは?お風呂は?。
トイレは車内にはありません。排泄物の扱いは条約で定まっていて、条約上は南極内陸部では埋設が認められています。ただ、日本の南極地域観測隊のルールでは、大便は持ち帰り廃棄物(その後焼却)として扱うルールになっています。このため、トイレは外置きのトイレで使用します。トイレを用意する余裕がないときのみは、テントなど用意せず野外で用をたしてそのまま埋設です。「車内にトイレ設置を」という意見もありますが、筆者としては、車内を今よりも狭溢にする新設備は極力排してほしいです。冷凍食品は外に置いておきますので冷凍庫は要りません。「冷蔵」物品は、車内後部のエンジン熱の伝わらないところに置いておきます。車内温度は夜間早朝にはマイナスになるので、冷蔵物品は保温箱に入れる必要があります。洗濯はバケツです。これも、機械の導入はきっと車内を狭溢にします。テレビやラジオの電波はもちろん届きません。シャワーは外置きのテントで行うか、車内で手ぬぐいを使って体ふきをするかです。今のやり方で十分に思えますので、将来新たに車内にシャワー室を設けるような車内を狭溢にすることも無しにしてほしいです。筆者は、「内部の利用に自由度がある十分な広さ」が、現在の雪上車の魅力だとおもっています。観測への応用性・柔軟性がでるほどに、様々なより高度な探査形態が実現します。生活面での便利さへの欲求・要望はきりがないとおもっています。日本の都市環境に似せた便利さを持ち込むことはかえって本質的なことを阻害するとおもっています。本質的なこと -観測活動に柔軟に快適に使える-を最大限重視して、あとの二次的なこと(あの生活便利も、この生活便利も、、、)はほどほどに止めておくことが重要に思えています。

なお、こうした観測専用車両(内部を多目的で使える)をもつのは、世界各国の南極観測のなかでも日本の独自性が高い部分です。諸外国にはないやり方で、大きな強みと私はとらえています。とはいえ、観測機器や生活物品を多数持ち込むと、内部はあっという間に物品で溢れ、内部を利用する人々の間でストレスや摩擦が発生しがちです。利用者はそれを理解し、最低限の本質的なもののみを車内に持ち込まなければなりません。また、各隊次の利用者が内部の清潔・清掃を心がけて次隊に引き継いでいく必要があります。今回の内陸チームでは、電気掃除機を1台持ち込み、チーム内で呼びかけて清掃したり、内部のカーテンの洗濯をしたり、汚れた壁や窓を拭いたりしています。ガムテープを床に貼り付け剥がすと、大変に汚れていたことがわかります。こうした清掃は日常生活では当然なのですが、南極内陸の雪上車内ではこれまで手がまわっていなかった部分です。

 2018年12月29日:藤田記
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